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第一章 始まり

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日曜日の午前10時にマックで待ち合わせて、渋谷のビル3階にある眉サロンに連れてこられた。

歯医者のような椅子に座らされる。
スタイリストのお姉さんが俺の眉を整えて、瞼の産毛をワックスでべりっと剥がす。
男性も多いようだが、田舎者には敷居が高い。
俺一人だったら、絶対に来ない場所だった。

そのまま、表参道のヘアサロンに連れて行かれた。
俺は、彼女が指定したシャツブラウスにスキニージーンズというユニセックスな格好をしている。

「最低8㎝、12㎝以上髪が伸びたら最高だね。
それまでの間、エクステをつけます。
まずカラーをしますね」
彼女が指名した担当スタイリストが言った。

俺の肌色は、ブルーベース夏タイプと言うらしい。
それに合った、ダークアッシュというカラーになるようだ。
もう何時間座ってるだろう。
先にトリートメントが終わった彼女はいなくなるし、一人で不安になる。

「さあ、メイクしますね」
メイクアップアーティスト が出てきて、有無を言わせない。
どうやら、一ノ瀬聖苑が頼んでいったらしい。
もうなるようになれ、任せるしかなかった。

メイクが出来て、ヘアセットも仕上がった。
時間を合わせていたのか、聖苑が後ろで見ている。
鏡に映る俺は、頭を丸く包むようなダークアッシュのボブ、首が少し見える長さだ。
柔らかなピンクのメイクが、顔色を良く見せている。

「わあ、可愛い」
後ろから抱きついて、聖苑が褒めてくる。

「騙したな」

「「とってもお似合いです」」
スタイリストやアシスタントたちが言う。

ここで喧嘩をしても始まらないので、店を出た。
すれ違う人が、俺を見ている錯覚に陥る。
それを察したのか、彼女がバックからサングラスを出した。

「恥ずかしいなら、これかけて」

「ありがとう」
サングラスをかける、これ一つでちょっと気が楽になる。

全部終わったので、彼女のマンションに戻った。
部屋の鏡をしげしげと見る、こいつ誰?
最初の頃は自分って認識していたが、今日は自分とは違う誰かと感じる。

「これ、着て欲しい」
彼女がバッグから、ダスクブルーのシャツワンピを出した。

「エクステを付けている間に、探してきた」

着てみると、裾がすねくらいの長さなので安心感がある。
ヒールのあるパンプスを履かされた。

「スタイルがいいから似合う。これで大学行こう」

「いやだ」

断固、拒否した。

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