黒色の石

冬城さな

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「あの、ロウキ様」
「何?」
「いつもこのような事をされているのですか?」
「うん 実際に見ないとわからない事は多いからね」
ソウマもいるし、大丈夫だよ、とロウキという仮称を使うセレニン王子が言う
ソウマとは、つまりはロウランの事である

セレニン王子、もとい、ロウキ様は、グレーの短髪のウィッグをかぶり、
ロウラン、もとい、ソウマは長い銀髪のウィッグをかぶっていた

今は王宮から離れた城下町の商店街にいる
いわゆる、お忍び、というものである

こういう庶民の感覚をよく知ろうとされているところも
セレニン王子の人気が高い理由なのか、と思った

商店街はそこまで混雑している事もなく、
また、セレニン王子たちの歩くスピードも速くない為、護衛するのは簡単に思われた
ただ、夏場の為か、照明が落としてあり、少々視界は悪かった

「あ」
ケイルがセレニン王子の後ろに寄る
ちょっとイカツい感じの男性と肩がぶつかった

擦れ違いざまに、すみません、と言い
ケイルは一瞬、隠し持っている小刀に手を伸ばしたが、
相手がそのまま去って行ったため、手を戻した

セレニン王子は気付いていなかったのだろうか、そのまま歩いている
ロウランが軽く振り返って笑みを浮かべると、ケイルは頷いた


「さっきのはお見事
 まだ日が浅いのに、よく気が利いたね」
「ありがとうございます」
「何かあったの?」
セレニン王子がクレープを持ちつつ、首をかしげる
「ケイルさんの初任務が見事だったんですよ」
公園のベンチに座るケイルとセレニン王子
そして、傍に寄りかかって立っているロウラン
ケイルにもロウランからクレープがおごられていた

「でも、ちょっと言わせてもらうと、」
「はい?」
「あんまりにも丁重に扱い過ぎると、逆にバレてしまう
 さっきのはギリギリOKだと思うが、多少ぶつかるくらいは問題ないさ
 相手が武器を持っている可能性は事前に見ておく事
 不意の衝突と悪意を持った衝突、そこの区別がつくようになれば一人前だな」
「・・努力します」
以前、他の有力者を護衛した時でも言われた事だった
割れ物を扱うように護衛してしまうと、その雰囲気から、
護衛されている、と推測され、有力者だとバレてしまう

敵が自分よりも弱ければ倒せばいいが、
大人数で来ていたり、何らかの策を練っている場合はそうもいかない

護衛の難しさを改めて実感した
「ソウマは厳しいなぁ」
セレニン王子はクレープを食べ終わったようで、包み紙を畳んでいた
「何かあってからでは遅いのでね」
ロウランがセレニン王子からクレープの包み紙を受け取る
「ケイルさんはゆっくり食べてていいよ
 僕はちょっと食後にぼんやりするから」
王子様と言えども人は人
食後で且つ、こんな爽やかな風が吹く公園では眠くなるのだろうか
ゆっくりと目を閉じたり開けたりして、本当にぼんやりしているようだった


ロウランが2人分のクレープの包み紙を捨てに行っている間は
セレニン王子とケイルの2人きりとなる

かと言って、あまりにも周囲を警戒しすぎていると
先ほどの教えの様に、要人だとバレてしまう

自然に護衛するのも難しいな、とケイルが思っている時に
強大な魔力の波動が感じられた

ケイルが思わず立ち上がり、ロウランが走って戻ってくる
波動の数秒後に遠くで爆音がし、何かが爆発した事がわかった
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