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第1話 エレノア
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第1話 エレノア
ガシャン、という鏡の落ちる音がした時、突然、私とは別の“私″の記憶が流れ込んできた。ガンガンと痛む頭を抑えながらその場でうずくまる。目の前で、「おねえちゃん!」と私を呼び、泣きながら私に縋る女の子。
(この子は、誰?)
そう、私の中の誰かが言う。
(何言ってるの、デイジーだよ)
そう私が答える。
(そう、デイジーだ。私の妹のような存在)
ああ、こんなに泣いちゃって…。心配かけてごめんね、デイジー、そう呟いて、「おねえちゃんっ!まってて!おにいちゃんをよんでくるね!」という、デイジーの遠くから聞こえる声を最後に、私は意識を手放した。
そして、私は全てを思い出していた。
私の名前はエレノア。8歳。エリィって呼ばれているただの孤児、のはずだった。私が思い出したのは、いわゆる前世の記憶と呼ばれるもので、その前世の世界では平凡すぎるであろうその記憶の中で、気になるものがあった。それは、この世界がファンタジー漫画、『セシルの聖剣』の世界だというものだ。『セシルの聖剣』とは、ハンターで剣士の主人公の男の子ーーセシルくんが、仲間と共に魔物と戦い、さらには、魔王を討たんと仲間と切磋琢磨し強くなっていく物語である。この私が知っている情報は、全て『セシルの聖剣』ガチ勢の友人からの受け売りだ。めっちゃベタだが、それがいいとは友人談である。ちなみにガチ勢の友人ーーみっちゃんはセシルくん推しだ。その『セシルの聖剣』で私は未来の主人公の頼れる大人な仲間、ではなく、その仲間のトラウマの一端を担う、悪役キャラ、らしい。転生ってだけでも驚きなのに、私は漫画の登場人物の身体に魂が入ってしまったようだ。こんなことってある?
そして、私が近い未来で何をしでかすのかと言うと、孤児たちの手助けをしてくれている、お世話になっている青年から、金品を盗むだけでなく、魔族に唆されて魔物を手引きして、孤児の仲間と青年を襲わせるのだ。しかも、ご丁寧に警報器を壊して外部への連絡手段をなくし、結界の力が込められた結界石を壊し(この二つはエレノアの独断らしい)、魔族に渡された魔力封じの魔道具を発動させて、だ。
嘘やん。意地が悪すぎるよ、エレノア。
その後、青年が主人公の仲間になるまでの話は、私は漫画を読んでいないので、知らない。ただ、この出来事が青年にとってトラウマになるほどだったということしか知らない。それに、エレノアのその後も知らない。そして、その、私たち孤児を手助けしてくれている青年こそ、未来の主人公の頼れる仲間で、主人公の仲間の中で一番強いと言われている、あの、ライオネルだった。ライオネルは、私が今現在、レンと呼んで親しんでいる彼だったのだ。
そのライオネルは、他の子たちにはおにいちゃんと呼ばれていて、兄として慕われている。つまり、デイジーが私が意識を失う前に呼びに行ったのは彼のことで…。
まあ、つまり、今私がいるこの綺麗な天井の部屋は彼の部屋ってことになる。そして、目線を下に向けてみると、椅子に座って私の手を握り、私が寝かせられているベッドに突っ伏して、麗しいご尊顔で無防備に眠るライオネルがいた。
ですよね~。これで逆に別の知らない誰かだったら、驚きだよ。
体を起こすと、ぽとりと額から布が落ちてきた。するりと眠るライオネルの目元を、空いてる方の手の指でなぞる。
ライオネルは目元に熊さんを飼っていた。ベッド脇のテーブルには水の入った桶。私の額にあった布。もしかしなくとも、私の看病をしてくれていたのだろう。
「ありがとね。レン」
ライオネル、彼は優しい人だ。何の関係もない、孤児の私たちを助けてくれるくらいには。
「良かったら、みんなのところに来ないかい?」
そう言って、彼は一人でただ心臓を動かして生命活動をしているだけだった私を拾ってくれた。ライオネルは、読み書きや計算を教えてくれた。みんなで食べるご飯の温かさや、みんなで体を寄せあって眠る布団の温かさを教えてくれた。
「エリィ」
優しい笑顔で名前を呼んでくれた。
愛情を、教えてくれた。
こんなに優しい人を裏切るなんて私には出来ないし、したくない。だから、きっとライオネルは原作のようにトラウマを持つことはないだろう。でも、万が一、私が原作のように裏切ってしまったら、なんてそんなことは考えたくない。それに、それはとても恐ろしいことのように思える。
私が前世の記憶を思い出したなんて知らずに、気持ちよさそうに眠るライオネルを見る。
「そういえば、レンの寝ているところ、初めて見るかも」
いっつも、ライオネルは早起きだからなあ。
つい、まじまじと見つめてしまう。目元に持って行っていた手を今度はライオネルの髪へと伸ばす。金色のサラサラの髪を撫でながら、改めてライオネルを眺める。整った顔立ちはまるで童話の王子様のようで、今は瞼で隠された瞳は、澄み渡った空のような青だということを私は知っている。
確か、今はライオネルはまだ18歳だったはず。前世の『私』よりも年下らしい。それなのに、私や他の孤児を拾って育ててくれている。それだけの財力が18歳、いや私を拾った2年前の16歳の時点で既にあるってことだ。そう考えると、傍から見たら、ライオネル、怪しすぎない?でも、『セシルの聖剣』では、主人公の仲間だし、それ即ち正義の味方だし?そうなると、いや、そういえば、ライオネルって何者?そこまで考えたところで、私はライオネルの事を何も知らないことに気づく。
ーー『大丈夫。みんなのことは俺が守ってやる』
いつか私たちに言っていた、ライオネルの言葉だ。でも、それだと誰がライオネルを助けるの?そう思った。ライオネルのことを、何も知らない?それでもいい。ライオネルが私の恩人だっていう事実は変わらない。
今は無理かもしれない。でもね、じゃあ私は、
「もっと大きくなったら、私がレンを助けるからね」
そう、眠るライオネルに密かに誓いを立てた。
実は、この時、ライオネルが起きているんだけど、そのことを私が知るのはまだ先のこと。
######
「ん、んん…。あれ?エリィ?起きたの?」
どこかぼんやりとした目で、こちらを見るライオネル。
「おはよう、レン。看病してくれたんだよね?ありがとう」
「どういたしまして」
ふふっと笑いながらのライオネルの言葉にこちらも口元を緩める。
私、完全復活!!
ガシャン、という鏡の落ちる音がした時、突然、私とは別の“私″の記憶が流れ込んできた。ガンガンと痛む頭を抑えながらその場でうずくまる。目の前で、「おねえちゃん!」と私を呼び、泣きながら私に縋る女の子。
(この子は、誰?)
そう、私の中の誰かが言う。
(何言ってるの、デイジーだよ)
そう私が答える。
(そう、デイジーだ。私の妹のような存在)
ああ、こんなに泣いちゃって…。心配かけてごめんね、デイジー、そう呟いて、「おねえちゃんっ!まってて!おにいちゃんをよんでくるね!」という、デイジーの遠くから聞こえる声を最後に、私は意識を手放した。
そして、私は全てを思い出していた。
私の名前はエレノア。8歳。エリィって呼ばれているただの孤児、のはずだった。私が思い出したのは、いわゆる前世の記憶と呼ばれるもので、その前世の世界では平凡すぎるであろうその記憶の中で、気になるものがあった。それは、この世界がファンタジー漫画、『セシルの聖剣』の世界だというものだ。『セシルの聖剣』とは、ハンターで剣士の主人公の男の子ーーセシルくんが、仲間と共に魔物と戦い、さらには、魔王を討たんと仲間と切磋琢磨し強くなっていく物語である。この私が知っている情報は、全て『セシルの聖剣』ガチ勢の友人からの受け売りだ。めっちゃベタだが、それがいいとは友人談である。ちなみにガチ勢の友人ーーみっちゃんはセシルくん推しだ。その『セシルの聖剣』で私は未来の主人公の頼れる大人な仲間、ではなく、その仲間のトラウマの一端を担う、悪役キャラ、らしい。転生ってだけでも驚きなのに、私は漫画の登場人物の身体に魂が入ってしまったようだ。こんなことってある?
そして、私が近い未来で何をしでかすのかと言うと、孤児たちの手助けをしてくれている、お世話になっている青年から、金品を盗むだけでなく、魔族に唆されて魔物を手引きして、孤児の仲間と青年を襲わせるのだ。しかも、ご丁寧に警報器を壊して外部への連絡手段をなくし、結界の力が込められた結界石を壊し(この二つはエレノアの独断らしい)、魔族に渡された魔力封じの魔道具を発動させて、だ。
嘘やん。意地が悪すぎるよ、エレノア。
その後、青年が主人公の仲間になるまでの話は、私は漫画を読んでいないので、知らない。ただ、この出来事が青年にとってトラウマになるほどだったということしか知らない。それに、エレノアのその後も知らない。そして、その、私たち孤児を手助けしてくれている青年こそ、未来の主人公の頼れる仲間で、主人公の仲間の中で一番強いと言われている、あの、ライオネルだった。ライオネルは、私が今現在、レンと呼んで親しんでいる彼だったのだ。
そのライオネルは、他の子たちにはおにいちゃんと呼ばれていて、兄として慕われている。つまり、デイジーが私が意識を失う前に呼びに行ったのは彼のことで…。
まあ、つまり、今私がいるこの綺麗な天井の部屋は彼の部屋ってことになる。そして、目線を下に向けてみると、椅子に座って私の手を握り、私が寝かせられているベッドに突っ伏して、麗しいご尊顔で無防備に眠るライオネルがいた。
ですよね~。これで逆に別の知らない誰かだったら、驚きだよ。
体を起こすと、ぽとりと額から布が落ちてきた。するりと眠るライオネルの目元を、空いてる方の手の指でなぞる。
ライオネルは目元に熊さんを飼っていた。ベッド脇のテーブルには水の入った桶。私の額にあった布。もしかしなくとも、私の看病をしてくれていたのだろう。
「ありがとね。レン」
ライオネル、彼は優しい人だ。何の関係もない、孤児の私たちを助けてくれるくらいには。
「良かったら、みんなのところに来ないかい?」
そう言って、彼は一人でただ心臓を動かして生命活動をしているだけだった私を拾ってくれた。ライオネルは、読み書きや計算を教えてくれた。みんなで食べるご飯の温かさや、みんなで体を寄せあって眠る布団の温かさを教えてくれた。
「エリィ」
優しい笑顔で名前を呼んでくれた。
愛情を、教えてくれた。
こんなに優しい人を裏切るなんて私には出来ないし、したくない。だから、きっとライオネルは原作のようにトラウマを持つことはないだろう。でも、万が一、私が原作のように裏切ってしまったら、なんてそんなことは考えたくない。それに、それはとても恐ろしいことのように思える。
私が前世の記憶を思い出したなんて知らずに、気持ちよさそうに眠るライオネルを見る。
「そういえば、レンの寝ているところ、初めて見るかも」
いっつも、ライオネルは早起きだからなあ。
つい、まじまじと見つめてしまう。目元に持って行っていた手を今度はライオネルの髪へと伸ばす。金色のサラサラの髪を撫でながら、改めてライオネルを眺める。整った顔立ちはまるで童話の王子様のようで、今は瞼で隠された瞳は、澄み渡った空のような青だということを私は知っている。
確か、今はライオネルはまだ18歳だったはず。前世の『私』よりも年下らしい。それなのに、私や他の孤児を拾って育ててくれている。それだけの財力が18歳、いや私を拾った2年前の16歳の時点で既にあるってことだ。そう考えると、傍から見たら、ライオネル、怪しすぎない?でも、『セシルの聖剣』では、主人公の仲間だし、それ即ち正義の味方だし?そうなると、いや、そういえば、ライオネルって何者?そこまで考えたところで、私はライオネルの事を何も知らないことに気づく。
ーー『大丈夫。みんなのことは俺が守ってやる』
いつか私たちに言っていた、ライオネルの言葉だ。でも、それだと誰がライオネルを助けるの?そう思った。ライオネルのことを、何も知らない?それでもいい。ライオネルが私の恩人だっていう事実は変わらない。
今は無理かもしれない。でもね、じゃあ私は、
「もっと大きくなったら、私がレンを助けるからね」
そう、眠るライオネルに密かに誓いを立てた。
実は、この時、ライオネルが起きているんだけど、そのことを私が知るのはまだ先のこと。
######
「ん、んん…。あれ?エリィ?起きたの?」
どこかぼんやりとした目で、こちらを見るライオネル。
「おはよう、レン。看病してくれたんだよね?ありがとう」
「どういたしまして」
ふふっと笑いながらのライオネルの言葉にこちらも口元を緩める。
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