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プロローグ

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「うん、漸く出来たな。どんな者でも快楽に堕とす媚薬。出来るのか不安だったが上手くいったな」
 光を受けて紅を反射する手元の怪しげな液体を見てルジェダは声を零した。


 ルジェダは精神と身体の関係性を研究をしている研究者だ。国の研究施設において鬱や依存性、その他精神疾患の治療を主とした心身についての研究を続けている。政府に雇われの身であるルジェダの頭の殆どは研究の進捗と研究対象への興味で埋まっている典型的な研究馬鹿としか言いようが無い。時には患っている人に対する接遇法を、時にはないよりは症状がマシになる薬の作製を、病自体の研究をと、兎に角ありとあらゆることに対して忙しなく動き続けていた。

 そんな彼に舞い込んできたのは国直属の者からの命、「今までより強力な媚薬」の製造である。

 当然、彼は媚薬の製造に適した研究をしている訳では無いので断ろうと思っていた。だが、爆薬や農薬を作るような者は更に無理だし薬を作る者は他の作らないといけないものがあるのだから精神という近くも遠くもないような研究をしているお前がしろと上司から頼み込むように押し通されてしまえば彼にそれをしないという選択肢は与えられていなかった。そのため、ルジェダは自分が目を通していない研究を目に通しながらもにここ数ヶ月付きっきりでこの研究をし続けていた。全くの無関係という訳でもなく自身の研究に関わっていそうな話題もあるため知っている知識もあったが、それだけでは足りず他者の力も借りつつ漸く終わらせたのだった。

――――――――

 完成後、帰路に着いたルジェダは上機嫌だった。研究や製薬に時間をかけた研究物で漸く満足いく結果が出た上に上司の上の上司から良いものであるとお褒めの言葉に良いワインまで頂いてしまった。
 反応までの時間が短すぎるために本当かは怪しいが成果が認められるのは嬉しいとしか言いようがなかった。
 気分がいい。

「はぁ、こんなにゆったりした気持ちは久しぶりだ……」
 キッチンでまな板に向き合った彼はにんまりと笑顔を浮かべながら黙々とチーズとハムを切り分けて皿に載せた。
 カレンダーからして今日はルイゾンも家に帰ってくる。この祝いの酒で彼と晩酌とするのが良いだろう。
 ここで思い浮かべる彼は時より帰ってく部屋を貸している間借りさせているような、同居のようなそんな関係の男だ。
 人一倍優しく、人一倍真面目な男。そんな男が僕がしようと考えていることを許すだろうか。
 少しだけ日が落ちただけの今、飲酒を。
 答えは否なのだろうが、今の浮かれたルジェダには受け入れるものでは無かったのである。
 出来れば浮かれた気持ちの今、酒が飲みたいし手早い幸福が欲しい。

 我慢できないルジェダは皿を並べ調理道具を片付け椅子に体を預ける。
 そしてそのまま流れる様にくんと鼻を鳴らして甘い匂いを嗅いで、1口さらりとした紅を口に含んだ。

「あ、れ?」
 自分が倒れる音を他人事のように聞き、視界が真っ黒になった。
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