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10「あれが日の目を浴びる時、作家人生を終えると決めていました……」
しおりを挟むヴィオラについて、ルアンは頼りにならなかった。
彼は何を聞いても「さぁ、どうだろうね」としか返されなかった。それどころか、「それを愛しの婚約者自身にでは無く、俺に聞くということは敵ばかりの結婚式を控えていそがしーい俺に時間的余裕を持たせてくれるということかな?それなら、リリーとの時間をもっと持てるな。ありがとう」とつらつら述べたと思うと仕事を増やされた。憎らしい。
そんな気持ちを癒してくれるのは何時もヴィオラであった。でも、今週の茶会はそうもいかないと実感していた。
「ラヴォンドさま、こんにちは」
顔色が悪く、態度が嫌に余所余所しくて気持ちが悪い。彼女は緊張や遠慮はしても、変に余所余所しくはならない。言葉や態度そこから滲み出る姿は態々彼女の手で変えられた行動でないと信じられないものであった。
「どうした、ヴィオラ……もしや、体調でも悪いのか」
体調不良か、隠し事を隠しきれて居ないのか。何時もと比べ豪奢なドレスは以前のドレスと比較してかなり重そうだ。首に付けられたアクアマリンは確かに俺がヴィオラに贈ったものだが、以前と雰囲気も体型も変わったヴィオラの胸元を飾られると印象が変わるのだとそれを付けられなかった期間へ思いを馳せる。
「まぁ、そんな訳ないじゃないですか。健康ですわ」
「本当か?」
顔がどんどんと青ざめていく彼女へ不安が加速し体温を測ろうと手をおでこに当てようと体を動かすと、ヴィオラはその手を弾いた。2人で目を見開くと、彼女の方に汗が滲む。
「あ、も、申し訳ありません!」
「いや、構わない。こちらこそ無遠慮だった。済まない」
その弾かれた手を下に戻し椅子に座ると、ヴィオラも反対に座る。静かな談話室に、どんよりとした空気が沈む。
「……俺の所にヴィオラの担当の編集がもう辞めたいと言っているのを説得しろと来たんだが。ヴィオラ、どうかしたのか」
変に言葉を引き伸ばすのも違うと思い、直ぐに本題を切り出した。
ヴィオラの青になっていた顔色が、どんどんと白になっていく。絶望した表情にも。
「ま、まさか。エラーブルさんがラヴォンド様の所まで!?あ、あぁ、私のせいでラヴォンド様のお手を煩わせて……どのように謝罪すればいいのか……」
「いや、ヴィオラの為だったし、別に構わないが。あんなに楽しくしていたのに何故俺の為に辞めたいなどと言ったんだ?」
「こんな不良債権の様な私があの素晴らしきブラット公爵家に入るのです……あんなことさせていただく訳には……私は、結婚するという時点であの話が最後の話のつもりだったんです」
ヴィオラが床を眺め、歯を食いしばっている。
「……あの、俺に読ませないと言って隠した新作のことか?」
「ええ。あれが日の目を浴びる時、作家人生を終えると決めていました……素晴らしいラヴォンド様の隣に居続けるのですよ?それならばいつかはあんなことは辞めなければいけなかったのです」
その彼女の返答にこの話題は、彼女の持つ恐怖心の核心を突くのだと気づいた。
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