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1 俺たちのターニングポイント
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中央ギルド内にある食堂で働くユベール・マトレはいつものようにボーイの仕事を続けていた。変わらない日の続く変わらない日常。星夜が綺麗としか言い様のない明るい夜。
だが、その夜は平凡な彼にとって、とても大きなターニングポイントだったのだ。
ステーキの塊。レンガのように硬くずっしりと置かれたそれは油が跳ねる音と温かな湯気をもって冒険者の前に置かれる。
騒がしい食堂でユベールは意識して声を大きく張った。
「お待たせいたしました、ステーキ大です!お熱いので気をつけてください!」
手早く去ろうとする僕を前に目の前の男が無精髭を震わし叫ぶ。
「おいおい!ガチで待たせるじゃねぇかよ!何分待ってると思ってんだ!」
その声に僕ははくと空気を吸う。この人、めちゃくちゃに難癖つけるタイプの人だ。冒険者の気性は荒い人が多いがこの人も例外でなく、面倒な人だろう。……あんまり荒れてる冒険者のことは好きじゃないのだ。怖い。
恐怖を抱えて歪む口角を無理やり釣り上げる。
「失礼いたします!混みあっておりましてお待たせしております!」
「だとしても俺は客だぞ!他のも早く持ってこいよ!」
頭を下げ、涙目で後退る。
「じゅ、順番にお届けしております!大変申し訳ないのですがお待ちください!」
「あ?俺様を誰だか知らねぇってのか?」
「えぁ、は、はい」
自分の額を汗が滑り落ちる。
「おい、俺様は……」
「わっ!」
僕は腕を後ろに引かれた。
びっくりしている間に、ぐるりと体をひっくり返され、顔を硬い胸板にぶつける。ぎゅうと強く体を抱き止められ、うるさく騒ぐ男から離された。
「ガイ先輩。その調子乗り、やめた方が良いって言ってるでしょう。そんなに威張る程の実力ないじゃないすか」
低い落ち着かせる声が上から聞こえてくる。
馴染みのない知らない人が助けてくれたらしい。
「え、マ、マルク……ひ、久しぶりだな?」
「はい。久しぶりですね。まぁ、それはそうとして店員さんに絡むのは辞めた方がいいですよ。店長さんにまた追い出されますから……って前も言いましたよね?」
「……そうだったかなぁ?いや、悪い。ははっ……ちょっと体調悪くなったかも……俺、帰るわ」
「はぁ。お疲れ様です」
後ろで終わった会話を腕の中で聞いて、もごもごと体を動かす。頭を抑えられ胸に押し付けられているせいで、どんどんと苦しくなってくる。他の仕事が沢山、山のように残っているからこんなとこで油を売るなって怒られそうなのに。今すぐ逃げ出したいのに、抱かれて動けない。
「あ、すまない。大丈夫か?」
男の力が緩んで、僕の体に自由が戻ってくる。
「ぷは、んぅ!?」
息継ぎをするために顔を見上げると彼の唇に僕の口が触れた。
僕に勢いがありすぎたこと。彼が覗き込んでいたこと。たまたまが重なった事故だった。
「え、わ、ご、ごめんなさい!」
「……そうか」
目の男が手を握り跪いた。
黒髪に血のような赤の双眸が僕を見つめる。
「唐突だが、君。俺と結婚しないか」
「は?」
だが、その夜は平凡な彼にとって、とても大きなターニングポイントだったのだ。
ステーキの塊。レンガのように硬くずっしりと置かれたそれは油が跳ねる音と温かな湯気をもって冒険者の前に置かれる。
騒がしい食堂でユベールは意識して声を大きく張った。
「お待たせいたしました、ステーキ大です!お熱いので気をつけてください!」
手早く去ろうとする僕を前に目の前の男が無精髭を震わし叫ぶ。
「おいおい!ガチで待たせるじゃねぇかよ!何分待ってると思ってんだ!」
その声に僕ははくと空気を吸う。この人、めちゃくちゃに難癖つけるタイプの人だ。冒険者の気性は荒い人が多いがこの人も例外でなく、面倒な人だろう。……あんまり荒れてる冒険者のことは好きじゃないのだ。怖い。
恐怖を抱えて歪む口角を無理やり釣り上げる。
「失礼いたします!混みあっておりましてお待たせしております!」
「だとしても俺は客だぞ!他のも早く持ってこいよ!」
頭を下げ、涙目で後退る。
「じゅ、順番にお届けしております!大変申し訳ないのですがお待ちください!」
「あ?俺様を誰だか知らねぇってのか?」
「えぁ、は、はい」
自分の額を汗が滑り落ちる。
「おい、俺様は……」
「わっ!」
僕は腕を後ろに引かれた。
びっくりしている間に、ぐるりと体をひっくり返され、顔を硬い胸板にぶつける。ぎゅうと強く体を抱き止められ、うるさく騒ぐ男から離された。
「ガイ先輩。その調子乗り、やめた方が良いって言ってるでしょう。そんなに威張る程の実力ないじゃないすか」
低い落ち着かせる声が上から聞こえてくる。
馴染みのない知らない人が助けてくれたらしい。
「え、マ、マルク……ひ、久しぶりだな?」
「はい。久しぶりですね。まぁ、それはそうとして店員さんに絡むのは辞めた方がいいですよ。店長さんにまた追い出されますから……って前も言いましたよね?」
「……そうだったかなぁ?いや、悪い。ははっ……ちょっと体調悪くなったかも……俺、帰るわ」
「はぁ。お疲れ様です」
後ろで終わった会話を腕の中で聞いて、もごもごと体を動かす。頭を抑えられ胸に押し付けられているせいで、どんどんと苦しくなってくる。他の仕事が沢山、山のように残っているからこんなとこで油を売るなって怒られそうなのに。今すぐ逃げ出したいのに、抱かれて動けない。
「あ、すまない。大丈夫か?」
男の力が緩んで、僕の体に自由が戻ってくる。
「ぷは、んぅ!?」
息継ぎをするために顔を見上げると彼の唇に僕の口が触れた。
僕に勢いがありすぎたこと。彼が覗き込んでいたこと。たまたまが重なった事故だった。
「え、わ、ご、ごめんなさい!」
「……そうか」
目の男が手を握り跪いた。
黒髪に血のような赤の双眸が僕を見つめる。
「唐突だが、君。俺と結婚しないか」
「は?」
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