唐突なキスは幸せを呼んだ

月下 雪華

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2 猫柄の包み

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 いきなりプロポーズをしてきたあの男はマルク・エリソンドと言うらしい。

 彼は腕がたつ「スゴ腕」で、「殲滅の黒騎士マルク」なんて怖い呼び名で呼ばれているようだ。それだけ聞くと人助けなんてしなそうだが、本人は生真面目で優しい好青年らしいというのがキッチンのおばさんたちの噂だった。最近この街に来たばかりである僕は知らなかったが、彼はそれなりに人気があるらしくここらに住む子供たちにも慕われているのだそうだ。

「はぁ……」
 僕も不相応で不思議な相手に絡まれたものだと思う。
 彼は顔も性格も総じてかっこいいけど、腕っぷしも強いけど、怖い人から守ってくれたけど、優しいけれど。流石に出会った当日に結婚はない。そんなに気安い存在と思われているなら心外である。でも、僕がそう疑っていても彼からすればそういう非道な理由でも無いようだから人生って分からない。


「ユベールさん。今日もじゃがいも剥きか?」
 薄暗い小道の途中、鎧の合金同士がぶつかる音が止まって、マルクさんが目の前に現れたことを知る。
 
 でも、僕は彼を気にしてはいけない。店の裏口の扉に体重をかけて顔を上げないままゴツゴツとした皮をしっかりと、でも丁寧に削り続けた。
 僕は、彼を見上げてしまったが最後あのお綺麗な顔に絆されてしまうに決まっている。僕は流されやすいんだから彼を見たりなんかしない。あの告白の次の日、初めてここで声をかけられた時から決めていた。

 流されやすい僕は人生を共にする相手だって流されて決めてしまうと分かっている。

「マルクさん、こんにちは。そうですよ。今日も、雑用です」
「そうなのか。今日も大変そうだ。俺は敵を薙ぎ倒すだけでいいことが多いから、こういう細々したことは苦手なんだ。ユベールさんは偉いな」

「……ぅ、そうですか。それで今日はなんです?また結婚の申し出に?」
 そうなのだ。マルクさんはこの時間帯の昼、数日に一度僕に会いに来て褒め言葉を零したあと、毎度お決まりのように求婚を告げられていた。そして、それを受ける僕は心を揺さぶられながらもまだ貴方を知らないと断り、逃げて、店に戻って。与えられた仕事はちゃんとしろってキッチンの人に怒られるのだ。今日だって最低限の仕事はしておけと事前に釘を刺されている。

 また言葉と共に魔石などを置いてくるに違いない。そう思っていたのに。
「いや、それは……今まですまなかった。この前の話をしたら仲間に怒られたんだ。そんなのはユベールさんが怖がっちゃうだろって。だから趣向を変えてみることにしたんだ」

 僕の隣に置かれたのは猫の柄の布に包まれた箱。
「お弁当を作ってみた。食べてみてほしい」

「え?」
 思わず視線をあげるとはにかんだマルクさんが背を向けはじめていた。
「……これを食べる君を見たいが、これから任務なんだ。では、また」

 彼が足早に去っていくのを見つめてからゆっくりと包みを開けてみると中身は焼肉のお弁当のようだ。付け合せの野菜もちゃんと入っている。 野菜に着く焦げや香ばしすぎる匂いを嗅ぐ限りとても上手いわけではなさそうだが焦がしすぎているのでもなく、特段下手なわけでも無さそうだ。
 でも、なんで料理を提供している店で働く僕へのアピールがお弁当?

 まだまだ不思議な人だ。
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