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終 恋心の自覚
しおりを挟む離れた鉄の冷たさの確認をするため、目を開けると魔法で訪れたらしいマルクさんの顔が室内のライトでキラキラと光って見えた。
「遅くなってすまない!大丈夫か?」
「はい……ありがとうございます……」
「あぁ、痛そうだ……早く治療しよう。コイツは俺の仲間が何とかするよ」
隣で落ちたガイはそのままに僕は抱き抱えられ部屋に引き連れられる。部屋がある2階に向かう階段から彼が見えなくなる直前、女性の魔法使いがふわふわと浮かせ運ぶ姿があったのを見た。
そして、マルクさんの後ろからニヤニヤと嬉しそうな銀髪の男が着いてくるのがわかった。カツカツと鳴らすヒールの足音が高貴だ。
人の関心を誘うような声がする。
「ふーん、マルクから聞いてた通り可愛い子だね。顔も素直な性格も可愛いね……って、ああ。マルク、そんなに怒らないでよ。君の殺気は流石に怖いよ。君の母親が初めてのキスの相手が運命の相手だって言ってたとか聞いてたからどんな人が気になってただけじゃん」
どっと、情報が次から次へと押し出されめどない。色んな言葉と景色が雪崩のように出てきて、疲弊した気持ちにさらに拍車をかけた。
「お母さん?」
僕が疑問を質問するとマルクの手が僕の頭を寄せる。
「ああ、うん、マルクのお母さん。彼に向けられた遺言なんだ。まぁ、勿論。そんなのがなくたってこいつは君にメロメロみたいだからそれがなくたくなって……って、おいおいそんなに、怒ってるのか?余程僕の存在をオレに知らせたくなかったらしい」
僕に気づかなせないナニカが彼らの間で行われているらしい。彼の怒りも顔だけ見ればにこやかで僕には分からない。時とマルクさんの体温で元々鈍かった痛みも段々と霞んでいく。
「帰れ。お前は余計なことを伝えなくていい。ユベールさん、部屋はここであってるか」
「え、あ、はい」
「まぁ、いいよ。思ってたより元気そうだしルイのとこで警吏と話してくるよ」
「ああ。そうするといい。失礼、部屋に入る」
タンタンと楽しそうに床を踏み、騎士然とした高貴な男は去っていく。
マルクさんは僕の世話をするために残ってくれるようだ。
僕はベッドに優しく座らさられ、マルクさんは僕の前に座り込む。流れるような手つきで彼は腰にあったバックから救急器具を取り出した。泣きそうな顔で手当をしてくれる。
「……さっきの本当なんですか」
「……俺はずっと君に恋をしている」
「へ?」
マルクさんは訥々と苦しげに声をこぼした。
「母のあの言葉が全てじゃない。俺は君を愛している。俺は、あの時、君が好きになってしまったんだ。頼む、俺に慈悲が欲しい。嫌われない権利が欲しい。俺が君に触れた瞬間、君の姿に一目惚れしたんだ。俺の一部がそこで生まれ変わったんだ」
マルクさんは許しを求めるように僕の手を額に当てはじめる。
「はぇ……」
「一目惚れとはいえ母の言葉を隠し君に思いを伝え続けていた。それは君を騙したとも言えることだ。怒られても仕方ないことをした。だが、君が俺を嫌いでないというのなら、出来るのならば俺に権利がほしい。君とともにいたいんだ」
「ぇ、な、ぅえ……っあ」
ばたん。自分の体から力が抜けてベッドに倒れ込む。疲れた。分からない。心臓が痛くて、嬉しくて。でもお腹に痛さが残っていて。ズキズキ、ドクドク、バクバク。呼吸が荒れる。
「……えっ、ユベールさん!ユベール!わっ、死なないでくれ!て、手当か?もっとちゃんと聞いておくべきだったのか?痛いのか?」
ワタワタとマルクさんが手を動かす。焦った顔は僕に対する彼の必死さを表しているようで、さらにドキドキする。
「……ちょっと疲れて、貧血になっちゃっただけですよ。すみません」
「本当か!?」
「ほんとう。大丈夫です。マルクさん、大丈夫ですよ」
「ユベールさん……」
目を回しながら甲斐甲斐しく世話をするマルクさんを見て、彼には純粋な気持ちがあることを再認識していく。
まだ、落ちないと、この人でいいのかと、ずっと思っていたのに。
もうぼくは、マルクさんのこと――
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