続・陰陽神(いよかん)とポンの不思議な冒険

マシュー

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第ニ話

屋根裏

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とべ動物園での決戦から数ヶ月経った頃・・・。


海に囲まれた島国。

四国・伊予ノ国のとある里にある凰蓮寺(おうれんじ)と言う古寺では、以前まで寺への参拝客はほぼ皆無だったのだが。

あの小さな動物達のおかげにより、あの日を境に今では参拝客がちらほら足を運ぶ様になっていた。依然として寺には未だに住職は居ないが、あの小さな動物達は今もなお相変わらず寺の床下を住処にしている。

それは3匹の狸の一家。
父のカンと母のチイ、そして息子のポンは母親に似て白い毛色の狸である。



そんなある夏の日のこと。
昼間は鳴き声のうるさかった蝉達も寝静まり、その代わりに鈴虫のキレイな音色が耳に優しく流れる。空には無数の星達と満月が浮かぶ涼しげな夜のこと。
眠っているポンは悪夢にうなされていた。「うぅ、うぅ~。」と声に出るほどにうなされていた。


・・・ポンは何かを見上げている。

その目線の先には巨大な黒い影があった。「お前は女か?」黒い影は恐ろしく低い声でポンに話しかけた。

「ぽ、ぽくは、男だ!」

ポンは震えながらも力強く叫んだ。

すると「なんだ、男か。弱々しいから女かと思ったぜ。」

と言う黒い影はよく見ると耳と口が尖っている。

そして「男はいらん!女を差し出せ!」と言う黒い狐の様な影の前に立ち塞がったのは父のカンだった。

「ポン!下がっていなさい!」とポンの前に背を向け家族を守ろうとしている。

ポンの後ろには母のチイがいるのだ。狙いは女性のチイだと言う黒い狐の様な影をカンは威嚇(いかく)している。

「何だお前は。俺の邪魔をするのか?」と言う黒い狐の様な影はいきなり容赦なくカンを薙ぎ払った。

「お前の後ろにいるのは女だな。」

と黒い狐の様な影はチイの存在に気付いた。母を守るためにがむしゃらに殴る蹴る噛み付くがそんなポンの攻撃を相手にする事もなくチイは黒い狐の様な影に捕えられてしまった。カンは倒れて気を失ったまま。ポンは成す術なくただ連れ去られていくのを泣きながら見ているしか無かった。

「かぁちゃ~ん!やめてよ~!お願いだからかぁちゃんを連れてかないでよ~!」

ポンは泣き叫びながら、遠く離れていく母を連れ去る黒い狐の様な影を追いかけて行くも、その姿は闇へと消えて行った。

「母ちゃ~ん!もう離れるのは嫌だよ~!」とポンは泣きながら叫んだ・・・。



そこでポンは、パッと夢から目を覚ました。

「どうしたの?ポン。」とさっきまでの嫌な悪夢と現実との間の中で愛しい母の声が聞こえた。そこであれは夢で今が現実だと言う事をやっと理解したと同時にホッと安心した。

「良かった。母ちゃんがいる。」

ポンは母を見て嬉しそうな顔で行った。

「な~に?母ちゃんならポンのそばにずっといるわよ。でもあんなうなされ方は初めてね。一体どんな夢だったの?覚えてる?」

「うん。覚えてる。」

ポンはさっき見た悪夢を母に話した。


「そう。そんな夢を見たのね。それは怖かったわねぇ。ポン、おいで?」
ポンは母に寄り添った。

ポンを優しく舐める母にポンは体を委ねた。

「あのね。夢の中で、ぽくは男だ!って言ったら『弱々しいから女だと思った。』って言われたんだよ?夢とは言えヒドイよね~。」

「うふふ。そうね。それはヒドイ言い方ね。でも実際はそんな事ないわ。ポンは父ちゃんに似て男らしいわよ。だって母ちゃんを守ろうと戦ってくれたじゃない。」
と母チイは優しく言った。

「でも、ぽくは母ちゃんを守れなかった。全然相手にされて無かったんだ。だからぽく、もっともっと修行をしてちゃんと母ちゃんを守れるような強い男になるんだ!」

「えぇそうね。お母ちゃん応援してるわ。頑張ってね!」
と言う母の顔を見てポンは「うん!!」と歯を見せてニコッと笑った。

「今日もリリ君が来るんでしょう?」

「うん。今日も一緒に修行するんだ。」

「頑張ってね!」

「うん!頑張る!ありがとう。」




場所は変わり、凰蓮寺の屋根裏にはあの猫の一家が暮らしていた。

夫は黒猫りりと、その妻の白猫シイ。
息子の黒猫マーと娘の黒白猫ユーである。
そんな中、黒猫りりもまた同じく悪夢にうなされていた。

「うにゃ~~~~!」と言う叫び声と共にりりは飛び起きて目が覚めた。

その声に驚き、目を覚ましたのは妻のシイだった。

「あんた~。何よ~。いきなり叫んだりして!子供達が起きちゃうじゃない!」
そう言う妻シイの言葉をよそに

「はぁ、はぁ、はぁ。悪い夢を見たにゃ。」
リリは大きな目をさらに見開き息を切らしている。

「ん~?何~?悪い夢?どんな夢だったの?」とシイは両腕を前に出し背中を丸めてグーンと伸ばしながらりりに聞いた。

「いや~。あまり話したく無いにゃ。」

リリはいつもの元気は無く暗い表情で言った。

「何々?いつものアンタらしくないわね!たかが夢でしょう?口に出して言えばスッキリするかもしれないわよ?」
シイがそう言うと、りりは重い口を開いた。

「いやぁ。じゃあ話すにゃ。まぁ簡潔に言うとだにゃ。シイちゃんが何故かこーんなにでっかい狐に食べられてしまうと言う夢だったにゃ。オイラはもちろん守ろうと攻撃したんだけど。ビクともしなくてにゃ。」

リリは悪夢で見た狐の大きさを両手を広げて説明しながら話した。

「そうなのね。それは夢でも怖かったわね。」

「本当怖かったにゃ。でもあれが現実じゃ無くて良かったにゃ。にゃははは。」

リリはやっといつもの笑顔を取り戻した。

「でも、今はポン君と一緒に修行してるじゃない。だからもし私達の身に何か起きてもあなたが守ってくれるんでしょう?」
とシイが言うと。

「あ、あったりまえだにゃ!夢では手も足も出なかったけど修行してる今のオイラにかかればチョチョイのチョイのチョイチョイだにゃ!」

リリはシュッシュッとシャドー猫パンチをしながら言った。

「あははは。何よそれ~?まぁ、頼りにしてるわね。」

「おう!任せろにゃ!先生だって2人も付いてくれてるんだにゃ。」


「そう言えばアンタ。今日も修行するって言って無かったっけ?」

「あぁ!そうだにゃ!少し早いけど下に行ってポンを叩き起こしに行って来るにゃ!」

「親御さんも居るんだから静かに行ってちょうだいよ!恥ずかしいんだから。」

そう言われたリリはシイに背を向けたまま長い尻尾で輪っかを作り『OKサイン』を見せた。

それを見たシイは「行ってらっしゃい。」と言うと、リリは軽やかにスタスタタンッと屋根裏から下りて行くりりを見送った。

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