【神託】で選ばれた<真実の愛>の相手がくそなんですけど

はなまる

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29誤解ですから!

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 私はその場にボー然と立ち尽くしていた。

 「セリ!お前大丈夫か?」

 カイヤートが走り寄って来ると私はその場に頽れそうになった。

 それを待っていたかのようにカイヤートが受け止め抱き上げた。

 「俺の女神だ」

 「へっ?」

 力が抜けそうになりながらカイヤートを見上げる。

 かなり魔力を使ったらしい。

 目が合うとさらにぎゅっと抱き寄せられ彼の顔が寄せられる。

 「セリ、お前俺を守ろうとしてくれたのか?」

 「はっ?」

 一体さっきから何を言って‥あっ、私が魔力を使ったから怒ってるの?いや、それにしても倒れそうになった私を抱き留めてくれて。

 何?この状況。あっ、これってまずい奴じゃない。

 男の人に触れられる感触に思わず身体が強張る。

 「あの、すみません。助けて頂いて‥もう、大丈夫ですから」

 「お、前。なに言ってるんだ?さっきのあの笛。俺を助けるために渡してくれたんだろう?ありがとうセリ。あれがなかったらマジやばかった。なあ、俺、どうやってお前に告白しようか迷っていたんだ。女なんか口説いたことないしさ。俺の番ってわかって俺はもう天にも昇る気持ちで‥でも、はっきりおまえの気持ちは伝わったから、俺も覚悟を決める。お前は俺の唯一だ。だから「ちょ、ちょっと待って。いきなり何を言い出すのよ!いいから下ろして!!」

 怒涛のように繰り出す彼の話を遮る。

 何言ってるのよ。ああ、そうか。さっき胸を攻撃されてた時‥状況が分かって自分が何をしたか気づく。

 あれはたまたまで。そんなつもりあるわけないのに。



 「はっ?下ろせるかよ!お前は俺を助けてくれたんだ。これくらい当然だろ!俺の番‥‥」

 カイヤートは言葉は乱暴だったがそれは慈しむような動作で私を見つめる。



 ちょっと待って!これってどういう?

 確か私の事を番とか言ったわよね。番って人間で言えばあの<真実の愛>みたいな事かしら?

 冗談じゃないわ。そんなまやかし信じるわけないじゃない!

 きっ!

 私は抱かれたまま上体を起こす。多分目は三角になっているんじゃ。

 「いい、良く聞いて。別にあなたを助けるつもりじゃなかったの。でも、目の前で魔物が襲って来れば誰だってこうしたはずよ。だって、私は魔力が使えるんだし、むしろ当然の事だわ。だからお礼を言われるような事じゃないから。それより下ろしてくれない?」

 「待て、セリ、お前は俺の為に‥俺を助けようとしてくれたんじゃ?」

 カイヤートの顔が蒼白になる。

 「だからあなたの為とかじゃないわよ。さっきのがラゴンさんだったとしても助けたわ。誤解よ誤解!」

 「そんな訳‥」



 私はいい加減頭に来て足をばたつかせ上半身を揺する。

 「やめっ!わっ!何するんだ落ちるだろ!」

 カイヤートがバランスを崩しやっと私の脚を地面に下ろした。

 「ったく!あなたが下ろしてくれないからよ。じゃ、私、忙しいから」

 カイヤートは焦ったように私の手を掴む。

 「いや、待ってくれ。さっきも言っただろ。セリは俺の番だって」

 何?その切なそうな瞳。

 騙されないわよ。私は彼の手を振り払う。

 「それが?私は人間だからそんなの分からないわ。私はね<真実の愛>の相手に手ひどく裏切られたの。二度とそんなものは信じるつもりはないのよ。悪いけど他を当たって!」

 私はそれだけ言うとさっさと中に入った。



 イルがすぐに飛びついて来た。

 じっと私たちを見ていつ飛び掛かろうか待ち構えていたらしい。

 『あいつ!!セリ怪我は?』

 『大丈夫よお兄様。ごめん。つい放っておけなくて』

 『あいつ、番だなんて‥いいかセリ気をつけろ。あいつらは魔力を持っているお前を狙っている。この国では聖女を探しているらしい。気をつけないとセリが聖女だって言いだすぞ』

 『あれ、でもあの人私の事、番だって言ったのよ。聖女じゃなくて』

 『ああ、カイヤートってやつはセリを番だと思ってるみたいだからな。あんなくそ狼男にセリを渡せるかって』

 『ふふ、それにしてもお兄様どこからそんな事を?』

 『ちょっとあいつらの会話をな』

 『いないと思ったらいつの間に?』

 『そんなの当たり前だ。俺はいつだって周りを警戒してる。セリを守らなきゃならないのに俺はもう人間じゃないからなおさらだ!』

 『それ、あんまりうれしくはないけど‥危険なことはやめてよお兄様』

 『もう死んでるからな。これ以上恐いものはないさ』

 『もう、お兄様ったら』

 私はたまらずイルを抱き上げて顔を擦りつけた。

 『ずっと一緒よ』

 「にゃぁぁ~(もちろんだ)」



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