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6期待は裏切られたわけでもなかった
しおりを挟む庶務課に辿り着くとノックをして庶務課の中に入った。
部屋の中は慌ただしくみんな忙しそうに仕事をしている。思わず戸惑うが思い切って声をかける。
「失礼します。今日からこちらでお世話になるミルフィと言います。どなたか話がおわかりの方おられませんか?」
「ああ、君が‥あの例の没落貴族とか言う‥いや、失礼。私がここの管理官のガズル・マクフォールだ。どうぞよろしく」
「マクフォール伯爵ですか?」
伯爵とは言っても彼はジェグニカ公爵家の3男で独身。眉目秀麗であまりに優秀な能力で父親から20代で伯爵位を譲り受けたエリート中のエリート。まさに独身令嬢の憧れ優良物件的存在の人なのだ。
「ああ、一応管理官という職は貴族がならなくてはならない事になってるんだ。あっ、でも、ここは気兼ねなんかしなくていい職場だから気楽にやってくれ」
「いえ、失礼しました。こちらこそどうぞよろしくお願いします」
「みんなもミルフィさんだ。よろしく頼む。仕事は‥そうだな暫く王都の養護院の担当なんてどうだ?若いし君なら子供たちの扱いもうまいだろう?」
「チャムナ。ミルフィさんの面倒をみてくれるか?」
チャムナと呼ばれた女性が顔を上げる。
私とちらりと見て目を細めた。何だか品定めされたる気分になった。
そう、年の頃なら30歳手前くらいかな?茶色い髪を後ろで束ねヘーゼルブラウン色の瞳。印象は暗い感じの女性だ。
いやだなんて言ってられない。私には仕事が必要なんだから。
すぐに頭を切り返る。こんな時前世の小向りんの記憶が役になった。彼女はひたすら弟の為に食品卸業の会社でひたすら頑張って来たから。
「あの‥チャムナさん。ミルフィと言います。仕事は初めてで至らない所があるかと思いますがどうぞよろしくお願いします」
私は頭を下げて彼女に挨拶をした。
「よろしく。じゃあ、早速だけどミルフィさん書類仕事は出来る?」
「説明いただければきっと出来ると思います」
「そっ、簡単よ。この計算をして集計をしてくれればいいわ。これは養護院の昨年一年間の費用。これを元に今年の予算を割り出すから間違いのないようにね」
「えっと、それぞれ費目別ですね。食費や衣服費、医療費に管理費。あっ、それに光熱費に雑費なんかもありますね。はい、わかりました。頑張ります」
事務に家計簿も付けていた前世の私には一目瞭然みたいな‥
「‥」
チャムナさんがちらりと一瞥する。
あっ、つい前世の記憶で差し出がましかったかな?もっと新人らしくしなくちゃ。
「あの、チャムナさん。わからない所教えて下さい。お願いします」
「ええ、初めての人には少し難しいかも知れないから、ちゃんと聞いてね。間違いがあると私が困るんだから」
悪い気はしなかったらしいが歯切れの悪い返事が返って来た。
「はい」
私はお辞儀をして返事を返した。
その日は溜まりに溜まった一年分の養護員の書類に目を通しっぱなしだった。
何度かチャムナさんに書き方とか分類はどれになるかなどそれなりの質問をしながら何とか書類をやり終えた。
昼食はマべルが作ってくれたサンドイッチを持ってきてよかった。
私が昼食を食べていると男性職員のレドス君(一つ年上らしい)が「それ、もしかしてモリーユのサンドイッチじゃない?」って尋ねられて驚いた。年は25~26歳くらいかな?少し強面で体躯のいい青年だ。
向こうは買いに行ったわけじゃないのにどうしてみたいな顔で聞くから。
「実は私あの食堂のマベルさんと知り合いで学園を卒業してあそこに間借りしてるんです。実際屋敷は没収されて住むところもなくて助かったんです。それで今朝、マベルさんに送り出される時サンドイッチを持たされて‥」とサンドイッチを見せた。
「ミルフィさんってあの食堂のおばちゃんと知り合いなんだ。俺、良くあの食堂でサンドイッチ買うから‥」
彼は嬉しそうに仲間じゃんって顔。
「あっ、いつもごひいきにありがとうございます」
ってぺこりと頭を下げると噴き出して笑われた。
それで一気に距離が縮まった気がしたのか彼が尋ねた。
「それで間借りって事は職員寮には入らないって事?」
「職員寮は魅力的だったんですがマベルさんの手伝いもしたいので‥そうだ。夜はシチューとか肉料理なんかも出してるので、それに今度新しいメニューも増やすつもりですので‥ぜひ!」
ああ‥私ったら何おかしな客寄せやってんのよ。
貴族だったらこんな会話絶対に引かれたはず。
「そうなのか。よし、今度行く。それに俺、ミルフィさんのファン一号になった。いや、元貴族って聞いてたからどんなご令嬢が来るのかってみんなで噂してたんだ。とても元ご令嬢とは思えないな」
「そうです?まあ、私ったらご期待に添えなくて申し訳ないですわぁ~」って言ってやった。
部屋にいた全員が噴き出して口の中の物を飛ばして大騒ぎになった。
そこには管理官ガズル・マクフォール伯爵もいた。
何だか楽しい職場にほっとした。
帰りにチャムナさんから「ミルフィさん、あまり男を誘惑するような事は避けた方がいいわよ。他の女性職員にも感じ悪いわよ」
彼女の目元が少しきつくなっている気がした。
「すみません。そんなつもりではなかったんですが、気を付けます」
がばりと頭を下げる。ああ、やちゃった。ちょっとはしゃぎ過ぎたかな。
「ええ、それがいいわ。明日は養護院に行くからそのつもりでね。じゃあ、お疲れ様」
「はい、わかりました。では、失礼します」
私の初仕事はやっと終わりを迎えた。
チャムナさんはきつそうに見えるがきちんとした人なんだろう。
それにみんなの口調も貴族みたいに堅苦しくなくて気軽で良かった。
何だか思ってたより全然楽しそうな職場だと思えた。
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