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25近づいて離れる距離
しおりを挟む私は翌日には離れに戻った。体調はほとんどよくなった。
また、ジロ芋や茶豆の世話をしながらしばらくゆっくりした。
ジロ芋も茶豆もしっかり根付いてもうひざ上まで育っている。
ネイト様は仕事に復帰されて帰って来ると私の所に顔を出してお茶を飲む。
向かい合って座り距離は取ったままだ。
「今日も変わったことはなかったか調子はいいのか?」
「はい、おかげさまでもうすっかり」
「そうか…できればまたミーシャの作ったとろふわオムレツが食べたい。明日の朝食に作ってくれないか?」
「ええ、いいですが。料理長に話をしておいて下さい」
「わかった。では、明日。早く休め。おやすみ」
ネイト様はそう言うと私のそばに回り込んで唇を奪って何度もキスをして帰って行く。
でも、決して隣に座りこむような真似はしない。
もしそうすれば私たちはそのまま身体を繋ぐ可能性があると思うっているからだろうか?
きっと。多分。
でも、私は妾で子を作るのが目的なのに。何を遠慮するのかとも思うが自分が大切にされている気がして悪い気はしない。
翌日はネイト様にとろふわオムレツを作った。
聞けば今日は会議で忙しく昼食も食べに行けないくらい忙しいと聞いて急きょお弁当も作った。
きっとしばらく休んだせいだろう。
昨夜の残り物のビーフやサラダは朝食に浸かった残りだったが飾りにラディッシュとピクルスで飾り切りをしたものを添える。
少しは彩りが良くなっただろうか。
ネイト様が帰って来てお弁当の事をすごく褒めちぎったのでそれ以降私がお弁当作ることになってしまった。
特に仕事をしているわけでもなくネイト様のお弁当を考えるのも作るのも楽しかった。
チキンのから揚げや肉の炒め物、魚のソテーやジャガイモのサラダなど料理長も協力してくれて朝から楽しい時間を過ごした。
そしていつの間にかネイト様が帰って来ると庭を散歩したり夜には月を見たりするようになった。
もちろんいつも手は繋ぐ。
木陰でそっと抱き寄せられてキスされるとどうしようもない感情が沸き上がって今度は私がその感情を持て余してしまう。
困ったものだ。
病気が治って1週間。もうそろそろではないかと思い始めた頃メリンダ様が帰ってこらえた。
丁度その時ネイト様はいつものように私の所に来られて庭を散歩している時だった。
メリンダ様に見られた。
彼女はつかつか私に近づく。
ネイト様はばつが悪いように私の手を離した。
「ちょっと貴方。夫には距離を置いてちょうだい。あなたはただの妾なのよ。それなのにこんな事をして。わきまえなさいよ」
メリンダ様が私の胸を手でずんと押した。
私はふらついて倒れそうになりネイト様がそれを支えた。
「メリンダ謝れ!ミーシャに失礼だぞ」
「あなたまでなによ。私はあなたの妻なのよ。どっちの味方なのよ!お父様にも散々嫌味を言われた私の身にもなりなさいよ。もぉぉ!ネイトすぐに屋敷に入ってよ」
メリンダ様はそう言うとさっさと本邸に入って行った。
侍女のパミラも急いで後を追う。
かなり早いお帰りみたいで、
「奥様はきっと孫はまだかとか言われたのです。きっと気にしておられるのです。私はいいですからネイト様も早くお帰り下さい。私は離れに戻ります」
ネイト様が私の手をぎゅっと掴んだ。
向かい合わせになってじっと見つめられる。
「すまん、メリンダとはきちんと話をするつもりだ。まだはっきりするまで言いたくはなかったがメリンダとは離縁するつもりだ。そしたら俺と結婚して欲しい。ミーシャ君とずっと一緒にいたい。妾なんかじゃいやなんだ」
「そんな事無理に決まってます。侯爵様だってお許しになるはずがありません。ですからそんな事は考えないで下さい」
「君は心配しなくていい。もし俺が離縁したら結婚してくれる?」
「そんな事出来ません」
私は彼の手を振り払って離れに戻った。
私だってネイト様の事を…でも、それは出来ない事。
そんな高望みはしてはいけないと何度も言い聞かせた。
私はネイト様の手を振り切って走って離れに戻った。
彼は後を追っては来なかった。
これでいい。
扉の内側でほっと息を吐く。
でも、私はその場に頽れた。
そしてしばらく動けなかった。
ぎゅっとワンピースのポケットに手を当てた。
ネイト様にいつもよくしてもらうのでお礼をしたいとハンカチに刺繍したものをワンピースのポケットに忍ばせていたのだ。
図柄は彼のイニシャルÑ・G銀色の糸と青い糸で刺しゅうしたものだ。
でも、なかなか渡すきっかけがなかった。
奥様のあんな姿を見てほんとに渡さなくてよかったと思う。
私はやっと立ち上がってそのハンカチをポケットから出すとベッドサイドの引き出しにしまった。
翌朝早く実家から知らせが届いた。
急ぎの手紙だと使用人が届けてくれた、なんだか胸騒ぎがして急いで手紙を開けた。
=母危篤、すぐ帰れ~
うそ…先日は元気にしていると手紙を貰いほっとしていたのに…と手紙を握りしめる。
私はとにかく急いで荷物の準備をして大奥様に事情を話して朝早くに屋敷を出た。
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