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しおりを挟むいつの間にか夕暮れが訪れ辺りは暗くなっていた。
くららの具合はかなり良くなり、夜になると熱もかなり下がっていた。
マクシュミリアンは捕って来た魚を焼いててくららに食べさせることにした。
「くらら、その調子だ。もう少し食べれる?はい、あーんして」
くららは彼のあまりの世話に思わず呆れたような顔をすると口を開けた。
本当はこんなに優しくされてすごくうれしかったが、そんなことを顔に出そうとは思わなかった。
彼が魚の身をほぐして口の中に入れてくれる。
「おいしいです‥‥このお魚って今朝捕った魚ですの?」
「ああ、君は残念だったけど、仕方がないだろう?君は病気なんだ。僕の分を分けてあげるよ」
マクシュミリアンが楽しそうに笑う。
「もう、マクシュミリアン様って時々意地悪ですよね」
「僕が意地悪?もう食べさせるのをやめようか?」
「だめです。わたしは病気なんですから、はい、あーん」
「何だ?今度は子供のふりをする気か?」
「もう食べませんから」
くららはプイを顔を横にそむけた。
「冗談だってば,いいから、はい、食べて。あーん…‥」
木のさじを口元に差し出されてくららはまた口を開けた。
くららは、祖母に育てられたせいか魚は大好きだったが、彼に食べさせてもらう魚は格別においしいと思った。
「すごくおいしいですわ。でもマクシュミリアン様の分がなくなりますから、もう結構ですわ。どうぞあなたも食べてください」
「くららは優しいね。僕の分を残そうなんて…」
次に彼は苦みのあるオナモミの煎じ薬を持って来た。それを飲んだ後、口直しにとカモミールのお茶が差し出された。
くららの胸は熱くなる。
こんなに看病して頂いてマクシュミリアン様にはどんなに感謝しても足りません。
くららはマクシュミリアンにお礼を言った。
「いきなり知らない世界に来てしまって、こんなに優しい方に会えたのはまさに奇跡でしたわ。マクシュミリアン様に出会っていなかったらわたしはどうなっていたかわかりませんわ。本当にありがとうございます。わたし病気が治ったら何でもお手伝いしますわ」
「君は病気だ。親切にするのは当たり前だろう?治ったら町に送っていくから。ちょうど僕も薪を売りたいからその時だけ代わりに店に入って売って来てくれないか?」
くららの感激はいっきに吹き飛ぶ。
「あなたはお優しい方なのか非道な方なのかちっともわかりませんわ。それにこれからどうするおつもりなんです?わたしがいなくなったらどうされるおつもり?あなただって困るはずですわ」
「そんな事は君が心配しなくていい事だ!」
「そんなにわたしが邪魔なのですか?わかりました。もうお願いなんかしません。マクシュミリアン様なんか大嫌いです!」
くららは泣きながらベッドに潜りこんだ。
もう、マクシュミリアン様なんか大嫌いですから‥‥
くららは夜中になってまた熱がぶり返した。
体は熱くて頭は朦朧とする。
「はぁ‥‥ううん‥‥」
辛くて勝手に口から声が漏れた。
「どうした?くらら、辛いのか?」
すぐにマクシュミリアンの手が額を触った。
「また熱が上がったな。ちょっと待ってて」
彼はすぐにオナモミの煎じ薬を持って来た。
「苦いけど我慢して…」
くららを抱き起すと、カップを口元に運んでくれた。くららはそれを飲むとマクシュミリアンがぶどうの粒を口に入れてくれた。
「ありがとうマクシュミリアン様」
そしてまた横にされた。
それから汗で湿った背中や腕を拭いてくれてずっとそばにいてくれた。
時折、苦し気に息をすると彼の大きな手が背中をさすってくれた。
くららは思わず彼の手を取り握りしめると、安心してまたうとうとし始めた。
くららは夢を見ていた。
くららは夢の中でくららは具合が悪いのかベッドに横になっている。そばには男性がずっとついていて優しく面倒を見てくれている。
くららは不意に彼に尋ねた。
『あなたは運命の人?わたしの全てを受け入れてくれる人ですの?』
くららはずっと祖母に言われた事を思い出していた。
いつかきっと運命の人が現れると、自分のすべてを受け入れてくれる人と幸せになりなさいと言われたことを‥‥
マクシュミリアンはくららのうわ言にぎくりとする。
「くらら?もしかして君も気づいたのか?僕たちがその印があると?」
マクシュミリアンは、くららに問いかける。
だが、くららは何も聞こえないのか、またうつらうつらと眠り始めた。
なんだ。寝言か‥‥
くららはその後も眠り続けた。
マクシュミリアンは、くららの熱が下がったのを見届けると、自分も敷物に横になった。
ランプをずっと付けていたせいで、とうとうランプの油があとわずかになった。
明日にはビルグに向かえるだろうか?
無理だろう。こんな状態で一日中森を歩かせることは出来ない。
明日はろうそくを作った方がよさそうだ。そんなことを考えながらマクシュミリアンも眠りについていた。
翌朝、マクシュミリアンは目が覚めるとすぐにくららの具合を見た。
良かった。熱はなさそうだ。
マクシュミリアンは、裏から出るとヤギの乳を搾り、鶏の卵を取りに行った。
ヤギは2頭いて白色と黒色がそれぞれ1頭ずつだった。
この辺りには狼などがいないのでヤギや鶏を安心して飼えるのだった。それでも柵は2メートルほどあって広さは5メートル四方くらいはあった。
鶏はヤギの柵の一部を木のつるで編んだ細かい網目で囲ってあった。
前に狐にやられたことがあったからだ。
朝食を食べたらろうそくの材料になる、蜂の巣を取りに行かなければ…
蜂の巣は前にも見つけてあったので場所はわかっていた。
マクシュミリアンは、朝食の支度を終えるとくららを起こした。
「くらら?起きれそう?何か食べたほうがいい」
くららは呼ばれると目を開けた。
「マクシュミリアン様…」
そう呟いた途端くららが飛び起きた。
「おい、そんなに動いてはだめだろう。ゆっくりでいいから、起きて食事にしよう」
「はい、すみません。わたし、すっかりご迷惑をかけてしまって…」
くららはマクシュミリアンが迷惑がっていることはもう理解していた。
彼は幾度も自分をここから追い出したいと言っていたのだから…おまけに熱を出して彼に看病までさせてしまったのだ。
きっと彼は怒っているに違いない。
でも、それにしては彼の態度はすごく優しいですわね?
「さあ、手をかそう」
マクシュミリアンは、くららが起き上がるのを待って彼女に手を差しだした。
くららはその手を握る。
ああ‥‥この手がわたしをずっと見守っていてくれた。
くららは感激して彼の手をぎゅっとつかんだ。
その拍子に、稲妻のような衝撃が手を震わせた。
思わず彼の手を放す。
「今のは何でしょうか?何か痺れた感じがしました‥‥いえ、きっとわたしの体調がおかしいせいですね」
「…‥くららも感じたのか?ああ、僕も確かにビリっと電気が走ったような気がした。でもきっと気のせいだ。君は熱で弱っているせいで大げさに感じるんだ」
「ええ、そうかも知れませんわ。マクシュミリアン様にはすっかりお世話になってしまって申し訳ありません」
「それはいいんだ。さあ、少しでも食べて…」
僕はしっかりくららに調子に乗せられている。
ったく!もう気にするもんか!
彼女はすぐにいなくなるんだ。
部屋の真ん中のテーブルには、温かいミルクやトン、そして新鮮な野菜にスクランブルエッグのような卵料理がある。
くららは椅子に座ると、ミルクを飲み始めた。そして卵を口に入れた。
「これってチーズが入っていますわ。すごくおいしい」
くららは、そのスクランブルエッグをおいしそうに食べた。トンや野菜も食べるとお腹いっぱいになった。
「すごくおいしかったです。あっ、片づけはわたしが‥‥」
「ばかなことを言うな。くららはまだ横になってて、僕が片付ける。それが終わったら森に出かけてくるから、おとなしく留守番しててくれないか?」
くららは引き下がらない。
すっかり元気を取り戻したらしく、立ち上がってマクシュミリアンに言う。
「ですがマクシュミリアン様。わたしすっかり熱も下がりましたし、何かお手伝いしたいですわ」
やれやれ、少し調子が良くなるとこれだ‥‥
マクシュミリアンは心の中で思った。
だが、おTなしく寝てろと言って聞くようなくららではないだろう。
なぜかおかしくなる。
「そうだな‥‥じゃあ、ヤギと鶏に餌をやってくれないか。くずのトウモロコシがあるからそれと野菜を混ぜてくれればいいから、それから時間があったらヤギの乳を搾ってくれないか?帰ったらチーズも作るつもりだから」
くららの瞳は輝く。
くららは幼いころから動物が大好きだったが、いつも動物を飼うのを父に反対された。ティグルが特別に許してもらえたのは、母が亡くなって寂しがっていたせいもあったのだろう。
だからヤギの世話や乳しぼりなどやって見たくて仕方がない。
「ええ、わかりましたわ。マクシュミリアン様わたしにお任せください。餌やりも乳しぼりもやっておきます」
そしてマクシュミリアンは、これ以上何か言われる前にと急いで森に出かけて言った。
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