20 / 41
20
しおりを挟むマクシュミリアンは、くららを置いて森に出かけた。どんどん森の奥入って行く。そして前に見た場所で蜂の巣を見つけた。
蜂の巣はかなり大きくなっていたが、獣人の彼にそんなことは構う事ではなかった。
棒で巣をつついて、はちを追い出す。怒って彼に向かってくる蜂もいたが、彼は柊の葉っぱをくすぶらせて蜂を追い払う。
蜂はこの煙が苦手なのだ。
そして蜂の巣を枝から引きはがして地面に落とした。
しばらく柊をいぶしながら歩くと、蜂も諦めて追って来なくなった。
やれやれとマクシュミリアンは蜂の巣を大きな葉っぱにくるんで小屋に帰り始めた。
くららはマクシュミリアンに言われた通り、まずヤギと鶏に餌をやった。
ヤギは2頭いた。ピグミーゴートという種類で比較的小さかった。
くずのトウモロコシは麻袋のようなものに入っていてすぐに分かったし、野菜の切れ端が置いてあったのでそれを混ぜて餌を作った。
ヤギも鶏もくららの作った餌を喜んで食べてくれたのでくららはすっかり機嫌よくなった。
それに真っ白いヤギの背中にそっと触ろうとしたが、ヤギは近づこうとすると距離を取ってしまった。
そうよ。ヤギなんて角はあるし髭もあってあまり可愛いとは思いませんから…‥
だが、くららは彼に頼まれたことは絶対にやっておきたかった。
出来なかったなんて、わたしのプライドが許しませんわ。
くららは、意を決してヤギの乳しぼりをしようと白いヤギに近づく。
だが、向こうもくららを警戒しているのか、くららがそばに近づくとすっと距離を置いた。そうやってしばらく追いかけっこをしていたが、くららは思い切ってヤギの反対方向に回り込み今度は黒いヤギを追い詰めた。
「さあ、もう逃げられませんわよ。諦めてわたしに乳しぼりをさせなさい!」
くららはしゃがみ込むとヤギの乳に触った。
とたんにヤギはメェーと嘶いて後ろ足でくららを蹴飛ばした。
「まあ、痛い!何をするんです。ヤギのくせに‥‥もう、許しませんから、さあ、おとなしくなさい!」
くららとヤギは追いかけっこを始めた。
だが、完全にヤギを怒らせたらしく、もうどうすることも出来なくなった。
ヤギは戦闘モードで角を向けてくららの方に走って来る。
「ちょっと待って下さらない。それは危険でございます~」
くららは走って柵の外に逃げた。諦めきれず唇を噛んだが、熱が下がったばかりでさすがに疲れた。
そこにマクシュミリアンが帰って来た。
くららはヤギの柵にもたれてちょこんと座っていた。
「くらら?どうした。気分が悪いのか?」
慌てて蜂の巣を投げ出してマクシュミリアンが走り寄る。
「マクシュミリアン様、このヤギどうにかしてくださいませんか?わたしの言うことちっとも聞いてくれないんですもの」
「何だ?ヤギがどうしたんだ?」
「だって…乳を搾らせてくれないんですもの‥‥わたし疲れました。黒いヤギに蹴飛ばされました」
マクシュミリアンはクスッと笑った。
「そうか‥‥あいつはルナだ。白い方がソルって言うんだ。ルナの方が気が荒いんだ」
「悔しいですわ。わたしにも見せて下さいませんか?その…乳を搾るところを」
「ああ、僕も悪かった。ヤギも慣れていない人で警戒したんだろう」
「じゃあ、少しずつ慣れて行かないとだめですの?」
「まあ、そうかも…今日は後で僕がやっておくから」
マクシュミリアンは自分もなかなかヤギの乳が絞れなかったことを思い出した。くららに悪いことをしたと思った。
いや、どうしてそんな事を考える。くららはすぐにいなくなるんだ!
くららはため息をつくと、立ちあがろうとして体を起こした。
その拍子にくららのドレスの中に何かが入った。
「ブーン…ブーン…」
羽音がくららの耳に届く。何やらドレスの中に‥‥
「マ、マクシュミリアン様…何かいます。きゃースカートの中…あっ、嫌だ!い、痛い!」
くららはドレスの裾をめくり上げた。
中から蜂が飛び出してきた。
「嫌だ…蜂が…ああ、痛い!もう、刺されましたわ」
「しまった。まだ蜂が巣の中に残っていたんだ。くらら大丈夫か?」
マクシュミリアンはくららの脚を見た。
くららはドレスをめくったままで…‥太腿の内側が赤く腫れて行く。
「ああ…刺されてるな。すぐに針を抜いたほうがいい。それに毒も吸い出した方がいい。中に入って見せて」
痛がるくららを抱きかかえるとマクシュミリアンは急いで中に連れて入った。
「じっとしてて…」
くららはベッドに端に座らされると、ドレスの裾をめくり上げて脚を開かれた。
あられもない格好だが、今のくららはそれどころではなかった。
蜂が‥‥蜂が…刺しました。もうどうすればいいんですの?
マクシュミリアンは、くららの開かれた脚の間に入ると内腿にいきなり吸い付いた。
「あっ!」
くららは一声悲鳴を上げた途端バランスを崩してベッドに寝転んでしまったが、すぐにおとなしくなった。
マクシュミリアンは、蜂の針をまず尖った歯で抜くと、毒を吸い出すため彼女の柔らかな肌に吸い付いた。
唇で肌を吸い上げると、くららのふくよかな太腿が目の前にあって思わず喉がごくりとなった。
何を考えてるんだ。
蜂の毒を吸い出すだけだ。何も考えるんじゃない!
マクシュミリアンは、その事に神経を集中させようとする。
一方国王のブリュッケンは、火事のあった後、別室に避難するとすぐにクリスティーナが様子を見に来た。
「陛下御無事ですか?」
「ああ、クリスティーナか、この通り無事だ。安心しなさい」
「本当に良かったですわ。ところでどうして火事に?」
「どうやら工事でかがり火を着けていた火が木に燃え移って風にあおられたらしい。だがちょうど工事をしている獣人が助に入ってくれて助かったんだ。そう言えばあの獣人の名前は?すぐに確認してくれ」
ブリュッケンは家来に言いつけた。
「とにかく安心しました。ではわたしはこれで、おやすみなさい」
クリスティーナは彼の無事を確認するとほっとして自分の部屋に戻っていった。
次にローザとスタンリー王子がやって来た。ふたりは国王の無事な顔を見てを喜び安心して部屋に戻っていった。
翌朝になって、くららとその獣人がいないことが分かって大騒ぎになった。
ブリュッケン国王はすぐに調べを頼んだ。
王宮の工事を請け負っているタンクス親方は、彼の名前はマクシュとしか知らず、人買いの店主、そして奴隷商人にまで調べは及び、そこで薪を売りに行って断られたと言うことが分かり、薪を買い取る店をしらみつぶしに当たり、やっと木こりの獣人ラーシュのところにいるもう一人の虎獣人だと言うことが分かった。だが、虎獣人の名前まではそこの店主も知らなかった。
ブリュッケンは、くららと連れ去った大罪の獣人として彼を探すように騎士隊に命令を下した。
「その獣人は最初からくららを連れ去るつもりだったのかもしれない。わたしはそいつがわが身も呈さず助けてくれたのだと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。もしかすると火事もその獣人が企てたことかも知れない。いいかロドルフ騎士隊長必ずそいつを捕まえるんだ。もし逆らえば殺してもいい。ただしくららは必ず連れてまいれ。くららには確かめたいことがある」
「わかりました。すぐに一個部隊を連れて捜索に行きます。お任せください必ずその女性を連れて帰ります」
「ああ、くれぐれも頼んだぞ!」
ブリュッケンは、ロドルフ騎士隊長を見送った。
クリスティーナは、それを部屋の隣で聞き耳を立てて聞いていた。
「困ったことになりましたわ」
彼女は小声でつぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。
りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~
行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる