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しおりを挟むもともと王妃クリスティーナは、ステンブルク国より北方のヴィトゲンシュタイン王国の王女だった。
ある年にブリュッケン王子の結婚相手を決めるというステンブルク国で行われた舞踏会でブリュッケンに見初められた。
ヴィトゲンシュタイン王国は寒くて山の多い国であまり裕福な国ではなかった。
それに比べステンブルク国は資源も豊富で石炭や鉄鉄鉱石などが捕れた。なだらかな牧草地がたくさんあり酪農や農業も盛んで豊かな国だった。
クリスティーナは、希望に溢れてこの国に輿入れしてきたのだ。ところが2年経っても、3年経っても子供に恵まれず、しだいにブリュッケンの気持ちは離れて行った。
そして籠妾としてサボーアに白羽の矢が当たり、ブリュッケンはサボーアに夢中になり彼女は妊娠しそして男の子を生んだ。それがマクシュミリアンだ。
そのことでクリスティーナはひどく嫉妬をして、サボーアとは距離を置くようになったブリュッケンは次にローザを籠妾にした。
彼女も期待通りに男の子を生んだ。それがスタンリー王子だ。マクシュミリアン王子とは2歳違いだった。
おまけにローザはこの国の王族の血を引くエルモント伯爵家の娘だった。
王族の血を引いていることもあって、当初からクリスティーナはスタンリー王子を次の国王にと思っていた。
もちろんローザもそれを望んでいたし、周りの重臣たちもスタンリー王子寄りだった。
だが、ブリュッケンは愛した女性との間に出来たマクシュミリアンを国王にするつもりだった。
19歳になったマクシュミリアンは、もうすぐ20歳になるところだった。国王は前からマクシュミリアンが20歳になったら次の国王にすることをはっきり公表すると言っていた。
それはクリスティーナに取ったら、とても受け入れられない事だった。
王族の血筋について子供の頃からそれがどんなに大切なものかを教え込まれてきたクリスティーナは、何としてもローザの生んだスタンリー王子を次の国王にしたかった。
もともとクリスティーナの国では、ジュール教が入ってきても、昔からの神や言い伝えを信じるものが多く魔女も大切にされていた。
この国に来て驚いたのは魔女が悪者として迫害されていることだった。
偶然魔女がこの国の森の奥深くに隠れて住んでいることを知ったクリスティーナは彼女たちを秘密裏に援助して来た。
そしてある日思い余ってごく親しい側近に魔女と会えるように頼んだ。
クリスティーナは、王宮の外で魔女と会いマクシュミリアンが二度と王宮に戻れないようにして欲しいと頼んだ。
魔女キルケはそれなら殺した方がと魔女が言ったが、彼女にはそんな恐ろしい事は出来なかった。
それでは獣人に変えてしまえば安心でしょうと言ったので、クリスティーナはその案に賛成した。
そして魔女にマクシュミリアンを獣人に変えさせたのだった。獣人になったマクシュミリアンはクリスティーナの思っていた通り王宮に戻ってくることはなかった。
ブリュッケン国王はいなくなったマクシュミリアンの事を忘れられなかったのだろう。今までずっと彼の帰りを待っていたのかもしれない。
だがやっと国王をスタンリーに譲ることを承諾してくれたのだった。
ブリュッケンもクリスティーナがローザやスタンリーには好意を寄せていることを知っているし、彼女も子供が出来なかった分この国の将来を考えずにはいられないのだった。
これでやっと安心できると思っていた。
だが、翌日になって助けた獣人が木こりのラーシュのところにいる獣人だと聞いてクリスティーナは慌てた。
魔女からその後のマクシュミリアンの居所は知らせが来ていた。
その知らせで森の木こりをしているラーシュと言う羊獣人のところで一緒に暮らしていると聞かされていたのだ。
どうしてマクシュミリアンがこの王宮にいたのか。もしかして国王に自分がマクシュミリアンだと伝えるために?
それに国王を助けたのは偶然ではなく父親を助けようとしてわが身を呈して火事を消しに入ったのかもしれない。
もしこの事を国王が知ったら大変なことになる。
クリスティーナは、午後になってブリュッケンのところに行った。彼はもう昼食を済ませたのか執務室にいた。
「陛下、ご機嫌はいかがですか?」
「ああ、クリスティーナか。どうしたこんなに時間に?」
ブリュッケンは驚く。彼女を顔を合わすのはせいぜいディナーの時くらいなのに…
「ええ、今日は騎士隊の方が忙しそうですが、何かあったのかと心配になったのです」
「ああ、獣人の居場所が分かった。その獣人はくららを連れ去った。急いで彼女を救助するせねばならん」
「あの先日ディナーの時にいらしゃった女性?」
「ああ、そうだ」
「あら、陛下はその女性に興味がおありなんです?」
「いや、そういうわけではない。彼女は火事の事を予言したんだ。もしかしたら魔女かも知れないだろう?すぐにくららを調べなければならないからだ」
「彼女には特別な力があるんですの?」
「それはこれから調べてみないと分からない」
「まあ、それにしても獣人ひとりに騎士隊を出すなど、ちょっと大げさではありませんか?」
クリスティーナはブリュッケンの大きな机に回り込む。
「万が一にも万全を期した方がいいだろう」
「陛下はそんな事をおっしゃっていますが、本当はくららが欲しいだけなんでしょう?彼女を取り戻したくてわざわざ騎士隊まで出させるなんて、どうかしてますわ!」
「何を言うんだ。クリスティーナどうかしてるぞ。今までそんなことを言った事もないだろう?」
クリスティーナはブリュッケンに抱きついた。
彼女はサボーアの事があってからは、いつもは彼の手にさえ触れたりしなくなっていた。
だが、今日は違った。
ブリュッケンに腰を擦り付け、ドレスの豊満な胸元を彼に押し付ける。
クリスティーナは子供を産んでいないため、今もまだ衰えない素晴らしいプロポーションを保っており、まだまだ美しい女性だった。
ブリュッケンは突然そんな態度をとられて驚いたが、もともとクリスティーナとは好き合って一緒になった仲だ。彼女がそのように迫ってくれるのは本当はうれしくもあった。
「クリスティーナ…‥」
ブリュッケンの声はかすれた。くららとの情事で発散させるはずだった欲情は火事騒ぎでそのままになっていた。
彼の雄茎はすぐに反応した。
ブリュッケンはクリスティーナの手を握ると、その手を自分の股間に押し付けた。
クリスティーナは、うめき声を上げて彼のズボンの上からその興奮した滾りを撫ぜ上げる。
「ウグッ!」ブリュッケンは思わず声を漏らした。
「陛下‥‥あのような女の事など忘れてください。ずっと、ずっとあなたをお慕いしていました。もう限界なんです。わたし‥‥」
「クリスティーナ…そんなにわたしの事を?どうして今までそう言ってくれなかった。もう子供は出来なくていい。今すぐお前が欲しくなるではないか」
「では、今すぐ騎士団に引き返すよう言ってください。もう獣人など取るに足らぬことではありませんか。陛下の命を助けてくれたのです。もう、許せばいいのでは?それにくららの事などどうでもいいではありませんか」
「ああ、だが、人間の娘が獣人にさらわれたとあっては示しがつかん」
「やっぱりわたしでは駄目なのですね。あなたは奴隷のくららの方がいいんですね」
「違う!クリスティーナ…そんなわけがないだろう?わたしを信じて欲しい」
「では、騎士団を引き上げさせて、くららを連れ戻さないと約束してください」
「そこまで言うなら、騎士団を引き上げさせよう。これからはお前とベッドを共にしたい。それでよいのだなクリスティーナ?」
「もちろんですわ。どうしてもっと早く素直になれなかったのでしょう…陛下今宵部屋でお待ち申しております」
クリスティーナの計画はこのような計画ではなかった。確かに色仕掛けでと思っていたが…‥
でもブリュッケンがこんな反応をして喜んでいるところを見るとクリスティーナは心からうれしかった。
もし彼がまだ私を愛してくれているならば、わたし達はまた元のような夫婦になれるかもしれない。愛し合ったあの頃のように…‥
「うむ、それでいい」
「その代わりもう二度とわたし以外の女とは夜を共にしないと約束してくださいます?」
「うーむ‥‥それは‥‥」
ブリュッケンが返事に詰まり、彼の考えはそうではないとわかる。
「やっぱり、あなたと言う人は…いいですわね。騎士団はすぐに引き上げさせて下さい。出なければ離縁します」
「何を言う?では今宵待っていると言うのは?」
「わたしだけを愛して下さらない方など用はありません。二度とわたしに触れないで下さい」
ブリュッケンは何も言えなくなった。もちろんこれ以上クリスティーナの機嫌を損ねるわけにはいかない。
そうは言ってもブリュッケンは一度出した命令を取り下げるのを迷っていた。
だがようやく翌朝になって騎士隊は引き上げることに決めて、その知らせを騎士隊に知らせるように命令した。
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