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15魔樹海
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魔樹海はキルベートの騎士隊や教会があるウルプの街を通り抜け険しい山を一つ越えたところ辺りから始まる。
山を越えなくてもすそ野に道があり魔樹海に行くのは思ったよりもたやすかった。
その険しい山のふもとには昔からパニア村がありそこでは貴重な薬草や山羊の放牧をしていた。
イエルハルド国がなくなった今でもそこに村人は住んでいた。
私は騎士隊と一緒に馬でその村がある場所までやって来た。
ひとりの騎士隊員が何度か経験があるらしく村長の家の前で馬を止めて家に入って行った。
「村長、黒翼騎士隊です。魔獣が出ました。危険ですので避難をお願いします。それから隊員の退避場所としてここをお借りしたいんですが」
「ああ、モービンか、また魔獣か。最近多いな…わかったみんなにはすぐ知らせる。ここは好きなように使ってくれ」
「助かります。非難は大丈夫ですか?何なら隊員を?」
「いや、慣れているから大丈夫じゃ。なに、山の中腹にある避難場所なら魔獣は登っては来れんからな」
「はい、すぐに終わらせます」
「ああ、気をつけてな」
騎士隊は20人ほどの集団だった。黒っぽい隊服と鎧。マントは鮮やかな朱色だった。
きっと深い森で間違って攻撃などないように見分けやすくするためだろう。
(そう言えば最初にガロンに乗った時のリント隊長のマントは銀色だった。あのとき隊長はマントを私に貸してくれた。
「空は冷えるからこれを巻きつけろって」でも、彼だってきっと寒いはずなのに…あの時寒くなかったのだろうか?…何思い出してるのよ。今はそんな時じゃないって‥それでも最初の態度を考えれば私を必要としてくれたことはうれしい)
騎士隊はほとんど無言できびきびと移動していく。
馬に乗って足早に走っているのでほとんど会話は無理だったが。
彼らはみな馬に騎乗してそれぞれ魔剣と言われる剣を帯同していた。
この国では魔力を使えるものは少ない。そのため魔獣と戦うときには剣に魔石をはめ込み魔剣とする。
その魔石に魔力を込めるのも騎士隊員が行うと聞いた。それだけで足りなければ聖女の力も借りるとも。
魔石をはめ込んだ剣の力は大幅にアップする。それに加えて炎を繰り出せたり氷や水での攻撃が出来る。
騎士隊員はすぐに村長の家の前にテントを張り始めた。
「えっ?家を使わせてもらうんじゃないんですか?」
「隊長や聖女様は家を使ってもらいますがとても全員は無理なので…」
「さあ、モービン。聖女様とイチャイチャなんかしてないで手を貸せ!」
彼はそう言われて慌てて走って行った。
そこにエクロートさんが到着した。
「エクロートさん、どうしてここに?」モービンが驚く。
「俺はこの辺りの出身なんだ。どうして俺にも声をかけてくれない?魔獣が出たんだろう?協力する」
「ありがとうございます。すぐに隊長が戻って来ると思いますのでしばらく休んでいてください」
どうやらリント隊長は上空から当たりの様子を探っているらしい。
「エクロートさん?」
「アリーシア?どうしてこんなところにいるんです?」
「私もお手伝いしようかと…」
「まあ、あなたがいてくれれば助かるが…」
「エクロートさんはこの辺りのお生まれなんですか?」
「ええ、イエルハルド国で生まれて育った。あんなことがあって国はなくなったが…」
エクロートさんは遠くを見るように視線を空に向けた。
「ええ、そうですね」
「そもそも魔樹海はもともとは魔獣などいなかった。そうですね…オークの森のようだったと言えばわかりますか?」
「はい、でもほんとに?」
「ええ、そもそも聖獣がいたのはあの樹海なんです。聖獣はイエルハルド国のものだったんです。それをコルプス国が奪った。大国を存続させるには聖獣のような存在が必要だったのでしょう。ザイアス国王は弱り始めた国の為に周りの属国を従えさせる力が欲しかったんですよ」
「そのためにたくさんの人々を殺したりしたんですか?」
「ええ、最初は聖獣を貸してほしいと言っていたのに、返す返さないと揉め初めて…結局女王は騙されたんですよ。多くの人々の血が流れ憎しみがこの地を襲った。そして魔樹海は生れたんです」
エクロートの顔が禍々しく歪んだ。
私はこの時初めて知った。魔樹海が元は美しい樹海だったことを…
「えっ?もしかしてガロンも元はイエルハルド国の?」
「ええ、王都にいる聖獣は全部です。ああ、生まれた赤ん坊は違いますけど」
私はガロンが言った事を思い出す。
(もしかしてガロンはイエルハルド国の女王の事を言っているのでは?)
「あのエクロートさん…イエルハルド国の女王の名前は?」
「確か…フローラ・イエルハルドだったかと…」
「フローラ…それで聖獣は女王の…」
「ええ、歴代の女王は女神イルヴァの加護を持っていると言われていました。聖獣は女王に仕えるものだとも言われていると聞いています」
「ああ…そうなんですね」
(ガロン。お前完全に勘違いしてるから…どうすればいいの?)
私はそれ以上話が出来なくなった。
山を越えなくてもすそ野に道があり魔樹海に行くのは思ったよりもたやすかった。
その険しい山のふもとには昔からパニア村がありそこでは貴重な薬草や山羊の放牧をしていた。
イエルハルド国がなくなった今でもそこに村人は住んでいた。
私は騎士隊と一緒に馬でその村がある場所までやって来た。
ひとりの騎士隊員が何度か経験があるらしく村長の家の前で馬を止めて家に入って行った。
「村長、黒翼騎士隊です。魔獣が出ました。危険ですので避難をお願いします。それから隊員の退避場所としてここをお借りしたいんですが」
「ああ、モービンか、また魔獣か。最近多いな…わかったみんなにはすぐ知らせる。ここは好きなように使ってくれ」
「助かります。非難は大丈夫ですか?何なら隊員を?」
「いや、慣れているから大丈夫じゃ。なに、山の中腹にある避難場所なら魔獣は登っては来れんからな」
「はい、すぐに終わらせます」
「ああ、気をつけてな」
騎士隊は20人ほどの集団だった。黒っぽい隊服と鎧。マントは鮮やかな朱色だった。
きっと深い森で間違って攻撃などないように見分けやすくするためだろう。
(そう言えば最初にガロンに乗った時のリント隊長のマントは銀色だった。あのとき隊長はマントを私に貸してくれた。
「空は冷えるからこれを巻きつけろって」でも、彼だってきっと寒いはずなのに…あの時寒くなかったのだろうか?…何思い出してるのよ。今はそんな時じゃないって‥それでも最初の態度を考えれば私を必要としてくれたことはうれしい)
騎士隊はほとんど無言できびきびと移動していく。
馬に乗って足早に走っているのでほとんど会話は無理だったが。
彼らはみな馬に騎乗してそれぞれ魔剣と言われる剣を帯同していた。
この国では魔力を使えるものは少ない。そのため魔獣と戦うときには剣に魔石をはめ込み魔剣とする。
その魔石に魔力を込めるのも騎士隊員が行うと聞いた。それだけで足りなければ聖女の力も借りるとも。
魔石をはめ込んだ剣の力は大幅にアップする。それに加えて炎を繰り出せたり氷や水での攻撃が出来る。
騎士隊員はすぐに村長の家の前にテントを張り始めた。
「えっ?家を使わせてもらうんじゃないんですか?」
「隊長や聖女様は家を使ってもらいますがとても全員は無理なので…」
「さあ、モービン。聖女様とイチャイチャなんかしてないで手を貸せ!」
彼はそう言われて慌てて走って行った。
そこにエクロートさんが到着した。
「エクロートさん、どうしてここに?」モービンが驚く。
「俺はこの辺りの出身なんだ。どうして俺にも声をかけてくれない?魔獣が出たんだろう?協力する」
「ありがとうございます。すぐに隊長が戻って来ると思いますのでしばらく休んでいてください」
どうやらリント隊長は上空から当たりの様子を探っているらしい。
「エクロートさん?」
「アリーシア?どうしてこんなところにいるんです?」
「私もお手伝いしようかと…」
「まあ、あなたがいてくれれば助かるが…」
「エクロートさんはこの辺りのお生まれなんですか?」
「ええ、イエルハルド国で生まれて育った。あんなことがあって国はなくなったが…」
エクロートさんは遠くを見るように視線を空に向けた。
「ええ、そうですね」
「そもそも魔樹海はもともとは魔獣などいなかった。そうですね…オークの森のようだったと言えばわかりますか?」
「はい、でもほんとに?」
「ええ、そもそも聖獣がいたのはあの樹海なんです。聖獣はイエルハルド国のものだったんです。それをコルプス国が奪った。大国を存続させるには聖獣のような存在が必要だったのでしょう。ザイアス国王は弱り始めた国の為に周りの属国を従えさせる力が欲しかったんですよ」
「そのためにたくさんの人々を殺したりしたんですか?」
「ええ、最初は聖獣を貸してほしいと言っていたのに、返す返さないと揉め初めて…結局女王は騙されたんですよ。多くの人々の血が流れ憎しみがこの地を襲った。そして魔樹海は生れたんです」
エクロートの顔が禍々しく歪んだ。
私はこの時初めて知った。魔樹海が元は美しい樹海だったことを…
「えっ?もしかしてガロンも元はイエルハルド国の?」
「ええ、王都にいる聖獣は全部です。ああ、生まれた赤ん坊は違いますけど」
私はガロンが言った事を思い出す。
(もしかしてガロンはイエルハルド国の女王の事を言っているのでは?)
「あのエクロートさん…イエルハルド国の女王の名前は?」
「確か…フローラ・イエルハルドだったかと…」
「フローラ…それで聖獣は女王の…」
「ええ、歴代の女王は女神イルヴァの加護を持っていると言われていました。聖獣は女王に仕えるものだとも言われていると聞いています」
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