いきなり騎士隊長の前にアナザーダイブなんて…これって病んでるの?もしかして運命とか言わないですよね?

はなまる

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 レオナルドは瑠衣を抱きしめながら必死で落ち着こうとしていた。

 レオナルドの両親は名門の貴族で彼を何より可愛がり育ててくれた。そして彼の将来を心配していた。というよりも何より跡取りの事を。大体この国では30歳にもなると結婚して子供の一人や二人いるのが普通なのだ。特に母親は一刻も早く息子の花嫁を是が火にでも探しだして結婚させるべきだと…今年になってレオナルドの所には確かに何件かのお見合いの話が来ていて困っていた。それに今まで政略結婚の両親の結婚生活を見ていて結婚に興味もわかなかった。
 なのに瑠衣に出会った途端、彼は彼女が気になって仕方がなくなった。


 待て…落ち着け、瑠衣はどうして俺の事が分からない?レオナルドは焦った。

 いや、待てよ…あの時俺は狼に変身していて、彼女が痛む傷を癒してくれたおかげですっかり体は良くなって…

 そうだ!瑠衣は人間の俺は見たことがないじゃないか…

 レオナルドは少し落ち着きを取り戻すと彼女をもう一度よく見た。

 おい、まったく!俺は彼女の素晴らしい肉体を…

 レオナルドは赤くなってまたため息をついた。

 前回現れた時の瑠衣は……吸い込まれそうなほど美しい肌、乳房は程よく美しい曲線を描いてのピンク色の先端はおぼろげに記憶にあった。女性らしい裸体はまるで女神のように神々しくあの時の俺はこの世にこんな美しいものがあるのかと衝撃を受けた。でも彼女の裸体を見たのはほんのわずかだった。


 だが今日は彼女の裸を堪能して、おまけに唇まで…

 彼女の美しい黒髪。そのかぐわしい香り。あの柔らかでとろけそうな唇。ツンと尖った胸のつぼみを指先ではじいたときの感触。

 ああ…たまらない。

 レオナルドの体中の血が沸き立ち雄の証はいきり立っている。

 落ち着け!何としても彼女がどこから来たのか今日こそ聞きたい。


 レオナルドはそう思うと急に嗅覚が働いた。

 うん?体から薬草にも似た匂いがするな。あの時も俺の傷をいやしてくれた。彼女はもしや薬師では?やっぱり彼女はプリンツ王国の回し者なのか?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 とにかく俺はもう二度と瑠衣を手放したくない。

 だがそう思った瞬間、いきなり瑠衣の体が消え始めた。

 「待ってくれ瑠衣。君はどこに住んでいる?ずっと君を探してたんだ。教えてくれ、頼む」

 「そんなことを言われても…わたしだってどうなってるかわかんないよ。レオナルド恐いの…これってきっと夢よね?」

 「夢なんかじゃない。こんな夢があるはずないだろう?ほら君を感じる。瑠衣も俺を感じるだろう?」

 「ええ、確かに…でも…ああ、どうしよう。体が消えていくわ。レオナルド…」

 「待ってくれ瑠衣。最初に出会った時俺は狼だったんだ。覚えてないのか?。君はおまじないとかで俺を治療してくれて…」

 「‥‥‥‥」

 瑠衣は返事もしないまま消えてしまった。クッソ!どうなってるんだ。

 ああ…。瑠衣が消えてしまった。


 レオナルドは目を閉じて彼女を会った日の事を思い出す。

 あの麗しいグリーンの瞳が、目の裏に焼き付いて片時も離れない。

 ああ…またしても瑠衣を……

 だが、彼女は人間なんだぞ。今このような事態の時にこんな気持ちになってはいけない。それはわかっていた。

 だからこそ誰にも言わずにひそかに瑠衣の事を調べていたのだった。

 そもそも彼は半年前に国王から命令を受けて、この国の最西端のヘッセンに来ていた。

 国境沿いでは隣国のプリンツ王国とのいさかいが激しくなっていた。

 彼の自国のアディドラ国は獣人の国で、プリンツ王国は人間の国だった。長い間お互いにもめ事を起こさないように気遣いながら付き合って来た。プリンツ王国の西にはヴァンドル帝国という強大な国があって、プリンツ王国はヴァンドル帝国と協定を結んでいたので西側からの侵略の心配はなかったので、ここ300年ほどは戦のない時代が続いていた。


 だが、ここ最近天候不順の年が続いて、両国とも穀物の収穫が思うようにいかず食料難に陥っていた。ヴァンドル帝国と協定を結んでいるプリンツ王国は税金も納めなければならず国民の不満は募る一方で、その不満が国王に向いていた。国王は国民の不満を反らすためこの食糧難で獣人が攻めてくるかもしれないと不安をあおった為に国民の不満は獣人にも向けられて行った。


 この二つの国はもとはリンドラ王国という一つの国だったが300年ほど前に人間が獣人を奴隷のように扱うことが原因で獣人が反乱を起こして戦争が起き、そして戦争が終わって二つの国に別れた。一つは人間の国のプリンツ王国となり、もう一つは獣人の国のアディドラ国となった。人間の中には今でも獣人を人間より下に思っている人も少なくなく。獣人を奴隷として使えばもっと作物を作ることもできると考えている人もいるらしく国境では、ちょくちょく争いが起こっていたのだった。

 だが、この不作続きの状況で対立が大きくなり、それを収めるために騎士隊が派遣されたのだ。


 レオナルドは騎士隊の隊長としての名誉にかけてヘッセンに配属されてからというもの、自らその争いに明け暮れていた。

 レオナルドは国の英雄とも言われた獣人で、剣の腕ででも彼の右に出る者はいないほどだった。

 だがある日、そんな彼が思わぬ痛手を負った。あまりに深く敵を追い過ぎた。気づいたときには国境を越えていた。周りを敵に囲まれていて、レオナルドは必死で戦ったが、とうとう敵の一人が放った矢が心臓近くに突き刺さった。

 レオナルドは助けに来た部下の騎士たちに助けられ何とか窮地を脱出した。幸い傷は急所を外れていてしばらく養生すれば癒えそうな傷だと思われたが、そうではなかった。矢じりには獣人には猛毒のイヌサフランという毒草の毒が塗られていたらしかった。


 「隊長、ほんとに大丈夫ですか?あの矢にはやはり毒が?」隊長室に心配そうに入って来たのは副隊長のジャックだった。

 レオナルドは息をするのも苦しかった。だがそんな顔を見せるわけにはいかない。

 「ああ、急所を外れて安心したのも束の間だったらしい。ジャック、体調がこんなざまでは隊の士気も下がる。だからしばらく俺はけがをいやすためエレナ山にある洞窟の中にある泉に行って来ようかと思う。どうだろう、しばらく隊を頼めるか?」

 苦笑いをしてジャックを見る。

 「もちろんです隊長。あの泉はゴッドティヤーズ(神の涙)と言って傷を癒すにはすごくいいところらしいですよ。プリンツ王国の方も国の混乱でわれわれとの戦いどころではなくなっているようですし、我々としてはこれ以上ヘッセンの獣人がおかしなことをしないように気を付ければいいでしょうから、安心して養生に行ってきてください。でも一人で大丈夫ですか?誰か付き添いを連れて行った方がいいのでは?」

 「いや、大丈夫だ。一人の方がいい。そうか、あの泉はそんな効果があったのか…いや、ジャック教えてくれてありがとう」

 副隊長のジャックは明るくて人懐こい男で騎士隊員からも信頼が厚く慕われている。レオナルドは安心して洞窟に出かけた。



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