いきなり騎士隊長の前にアナザーダイブなんて…これって病んでるの?もしかして運命とか言わないですよね?

はなまる

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  ひと時が過ぎるとレオナルドが言った。

 「瑠衣、川を渡ったら服を調達してくるから待っていてくれないか」

 「プっ!そうよレオナルド裸だもんね。ちょっとこれで前を隠してよ!」

 瑠衣は顔を背けて持って来たマントを手渡す。牢獄から逃げ出すとき寒さよけに近衛兵たちが持っていたマントを拝借したのが役に立った。

 もう…レオナルドったらまだあんなにそそり立ったままなんて…瑠衣が真っ赤になったのを見てレオナルドは笑いながらマントを体に巻き付けた。


 幸い川は浅かったので、ふたりは川を難なく渡ると、森の中に瑠衣を残してレオナルドは瑠衣に言う。

 「いいか瑠衣。ここを絶対に動くなよ」

 「うん、レオナルドも気を付けて」

 レオナルドは全速力で平原の先に見えている農家まで走った。

 狼獣人が狼から獣人に戻った時裸だと言うことは誰もが知っていることなので、農家で事情を説明すると主人は快く古着のシャツやズボンを分けてくれた。


 そして親切な農家の主人は食べ物もわけてくれた。

 彼は猿獣人で身軽な体で仕事をしながら言う。

 「あんた、悪いが1時間ほど手伝いをしてくれないか?女房が具合が悪くて乳しぼりの人手が足りないんだ」

 「もちろんです。親切にして頂いてそれくらいお安い御用です。でも連れがいるので呼んで来てもいいですか?」

 「ああ、お連れさんがいるなら一緒に手伝ってくれれば早く済む」

 「ちょっと待っていてくれ、すぐに戻ってくる」

 レオナルドは瑠衣をそのままにはしておけないと瑠衣を呼びに行った。幸い安全そうだし瑠衣も少し休めるだろう。


 瑠衣はレオナルドが呼びに来た。

 「レオナルド?」瑠衣は彼を見て笑った。

 「瑠衣、何がおかしい?」

 「だって、その服‥‥」猿獣人がくれた服は小さくレオナルドの体にはぴちぴちサイズで、お腹ははち切れそうになっているし、長袖のシャツは半そでみたい、それにズボンも膝が見えるほどなのだから…

 「仕方ないだろう。其れとも裸の方が良ければ…」

 レオナルドが服を脱ごうとするので瑠衣は急いで止めた。

 「脱がなくていいから…」

 「そうか…そうだ、瑠衣さあ行こう」

 ふたりはすぐに農家に一緒に行った。


 そして病気の奥さんがいると聞いて、家の中に入らせてもらう。

 「奥さん?具合が悪いと聞いたんですがお加減はどうですか?」

 「はやり病にでもかかったのか、もう何日も熱が下がらなくてね」

 奥さんは見るからに辛そうだった。

 瑠衣はどうしようかと迷った。もし追手が来ればここに寄ったことがばれてしまう。わたし達の行き先がわかったら…でも、放っておくことなんて出来ない。

 「もしよければおまじないをさせてもらってもいいですか?」

 「ええ、でもそんなお祈りくらいじゃ…」奥さんは口ごもる。


 瑠衣は目を閉じてまじないを唱え始めた。

 「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…」

 奥さんの顔色は見る見るうちによくなっていく。辛そうだった顔は穏やかになっていく。

 「まあ、噓みたいに楽になった。あんた凄いじゃないか!ありがとう。何か作る方食べて行って」

 「いえ、急に無理はいけません。奥さんも何か食べて早く元気になってください。じゃあ、わたしはこれで失礼します」


 瑠衣は家を出ると、表ではレオナルドが仕事を終えたところだった。

 「瑠衣、待ったか?」

 「ううん」

 「じゃあそろそろ行こうか。急がないと夜までにはヘッセンにたどり着きたい」

 「ええ、そうね」

 ふたりが道に出て歩き始めると主人が後を追って来た。

 「あんた、うちの女房を助けてくれたんだってな。ありがとう。これから長旅なのか?」

 「ええ、まあ…」

 レオナルドは口ごもる。


 「もし良かったら、近くの地主の家まで付き合ってもらえないか?その地主の所の親戚の子供がはやり病で具合が悪いんだ。もし治してやれば馬の一頭くらい手に入るかもしれないぞ、どうだ?」

 「ええ、行きます」

 レオナルドが返事をする前に瑠衣がそう答えていた。

 「瑠衣。やめた方がいい。地主だなんて…俺たちの事を知らせるかもしれないぞ!」

 「でも、子供が病気だって…助けたらそんなことしないわよ。それにあなたにばっかり負担はかけられない」

 瑠衣は農家の主人に案内するように言う。


 レオナルドと瑠衣は地主の家に着くと、さっきの農家の主人が使用人に何やら事情を説明し始めた。

 使用人の話を聞いてその家の奥様が出てきた。

 ここの地主の奥様も猿獣人だった。彼女はすぐにふたりを家に招き入れた。

 「ここでお茶でも飲んで待っていてください」

 レオナルドと瑠衣は豪華なリビングに案内されるとソファーに座った。

 「瑠衣、本当に大丈夫だろうか?もしおかしな真似をしたらすぐに逃げるから、そのつもりでいろ」

 「ええ、わかってるから、心配しないでレオナルド…」

 レオナルドはしっかりと瑠衣と手をつないだまま深呼吸した。


 しばらくしてもう一人の女性を連れて奥様が入って来た。その女性は事情を聞いたのだろう、何も言わずに言った。

 「お話を聞きました。お願いします。モルクを助けて下さい…あっ!もしやあなたはあの時の?」

 「あっ!あなたはあの時の‥‥」

 そうだ。ロンダに連れていかれるとき道端で苦しんでいた老人を助けた。その時の母親だった。

 「なんだ?知り合いか?」

 ふたりは顔を見合わせて驚いたがレオナルドも驚く。

 「エルドラに行く途中助けた人の家族よ」

 「本当か?凄い偶然だな」レオナルドは更に驚いた。


 母親は瑠衣の手を取ると彼女の前にひざまずく。

 「まあ、あなたが来て下さるなんて…神のお導きとしか…あの時は本当にありがとうございました。おかげでここに無事に来ることが出来ました。でもモルクが…あっ、子供の名前です。あの子がはやり病にかかってしまって、本当に困っていたところなんです」

 「まあ、それはお困りでしょう。わたしは瑠衣、こちらはレオナルドです。さあ、すぐに案内してください」

 「はい、こちらにどうぞ」

 瑠衣は案内されてモルクが休んでいる寝室に案内されるとモルクの様子を伺った。モルクはひどく衰弱しているようでぐったりして目を閉じたままだ。

 瑠衣はすぐにまじないを始めた。

 「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…」

 ぐったり横たわった小さな体。青白い顔。血の気の引いた唇。

 なんて痛々しいの‥‥瑠衣は力の限り手をかざしてまじないを唱えた。

 やがて少しずつモルクの顔色に赤みがさしていく。そしてゆっくり目を開けた。


 「ああ…モルク、目を覚ましたのね?どう気分は」

 母親のグレタはモルクの額に手を当ててみる。額はすっかり熱が下がってひんやりしていた。

 「ああ…熱が下がっています。やっぱりあなたは聖女様なんですね。あの時兵士たちが言ってましたが、わたしはグレタと言います。この子はモルク。父の名はボックです。あなたのおかげでわたし達はどれほど救われたかわかりません。なんてお礼を言っていいのか…」

 グレタは、はらはら涙を流してお礼を言う。


 「とんでもありませんグレタ。わたしは当たり前のことをしただけですから、頭を上げてください。モルク?どう気分は?」

 「うん、あの時のお姉さん?」

 「覚えていてくれたの。うれしいわ。どこか痛いところはない?」

 モルクは力投げに首を欲に振る。

 「頭が痛くて苦しかったけど、すごく楽になったよ。僕お腹空いちゃった。ママ…」

 「まあ、モルクったらすっかり良くなったみたいね。すぐにはちみつをたっぷりかけたパンケーキを持ってきてあげるから、まだ起きちゃダメよ」

 「うん、お姉さんそれまでここにいてくれる?」

 「ええ、ママがおいしいパンケーキを持ってくるまでここにいるから」

 瑠衣はモルクを安心させる。

 「良かったら瑠衣さんたちもご一緒にいかがですか?ここは父の親戚の家で遠慮はいりませんから…」

 「そうだよ。一緒に食べてよ…」モルクは甘えたように言う。

 瑠衣はにっこり微笑むとモルクにこくんとうなずいた。そしてベッドに腰をかけた。

 レオナルドは外が気になるのか、さっきから窓から景色を見るふりをして外の様子を伺っている。


 モルクはすっかり気分がよくなったのか、本を読んで欲しいとねだった。

 「ええ、いいけど。どの絵本にする?」

 モルクは一番のお気に入りのアディドラ物語を選んだ。瑠衣はモルクの横に座って絵本を開くとモルクがすぐ横に身を寄せてきた。

 「むかし、むかしこの国が出来る前の事です…」

 その絵本はアディドラ国とプリンツ王国が出来る前のお話を描いていた



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