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37卒業式が終わって意外な展開に
私は明け方温もりを探して手を伸ばした。
その先にはヴィルがいたはずだった。
あれ?
あれから何度も愛を交わしてふたりとも沈むようにベッドに絡みあったまま眠りについた。はずだった。
私は気だるいままさらに手を伸ばす。
シーツは冷たく冷え切っていてヴィルのいる気配はない。
「…ヴィル?」
あん、もう。どこに行ったの?
きしむ背すじをよじって身体を起こす。
思わず笑みが零れる。もう、ヴィルったらやり過ぎ。
薄っすらと明け方の紫色の光がカーテンの隙間から入っていて部屋の中が見えた。
ベッドにはヴィルはいなかった。着ていた服もなくなっていてどうやら彼は帰ってしまったことが分かる。
急に寂しい気持ちが募って来て大きく息を吐いた。
ほんとに、もう。
私はどうしてしまったのかと思うほどヴィルの事が好きになってしまったらしい。
でも、きっとヴィルはここにいたら私に迷惑が掛かると思ったに違いない。
何と言ってもここは女子寮なんだもの。
ぐぅっと伸びをして起き上がるとテーブルの上に小さな紙切れがあった。
私は急いでその紙をみた。
【バイオレット、昨夜は無理させてごめんな。脚大丈夫かな?そんな心配するなら無理させるなってな。今日はゆっくり休んでくれよ。俺は用があるから帰る。明日は俺は卒業式には出ないから式が終わったら会おう。俺も一度べズセクトに挨拶に行こうと思ってる。バイオレットも帰るつもりだって言ってただろう。だから一緒に行こうと思ってる。昼12時に辻馬車の乗合所で会おうな。あっ、あんまり早くから乗合所には立つなよ。バイオレットきれいだから変な男にでも目を付けられると困るからな。じゃあ明日】
もう、ヴィルったら…
私はクスクス笑ってしまう。
でも、ヴィルったらあんなに激しくするんだもの…
昨晩の事を思い出すと今でも羞恥に悶えそうになった。
私は優しいヴィルからのメッセージを見てまた胸が疼いた。
ああ、早く明日になってほしい。
でも卒業式に出れないってどうして?
そうだった。彼は正式な教師ではないしこの学園に潜入捜査のために来たのだからもっともな話ね。
クローゼットの前には染みがきちんと落とされたドレスがかけてあって私はそのドレスにそっと手を伸ばした。
彼の優しさに触れるみたいにドレスは柔らかな手触りだった。
思わずまた笑みがこぼれる。
なんて幸せなんだろう。
私はそれから部屋の片づけをした。
卒業式が終わればここを出て行かなければならない。まあ、今月中に荷物を運び出せばいいから、卒業式が終わったら一度べズセクトに帰って来ようと思っている。
戻って来てからゆっくりゴールドヘイムダルの宿舎に荷物を運ぶ予定だ。
翌日、ペンダル学園の古い格式ある講堂で卒業式は行われた。
ヴィルは言った通り姿を現さなかった。
学園長の話によれば先週で講師の職を解かれたからとの事だった。
私はすっかり安心してみんなと席に着いていた。
来賓にはヨハンのお父様のフィジェル公爵やロガレナート侯爵などが見えていた。
式辞は生徒会副会長であるガーネットが立派に役目を果たした。
ヨハンはやはり来なかった。親友だと思っていたアマリはあんなことになってしまったし…
それでもイリスやケビン、アルビンたちクロエやエレナと一緒に卒業式を迎えられたことをうれしく思う。
そしてヴィルフリートに出会えたことは私の学園生活の中の一番素晴らしい出来事だったと思った。
卒業式が終わるとみんなそれぞれ別れを言って学園を後にする。
私も数日分の荷物を持って学園を後にした。
途中で働いていたコロケットによってラーシャさんに挨拶をした。本当は昨日も仕事に出る事にしていたのだが脚をくじいてそれも出来なかった。
「ラーシャさん、昨日はごめんなさい。忙しいのに大変だったですよね?ほんとにこのまま辞めるのがとっても名残おしいですけど…」
「何言ってるんだい。こっちこそ働いてもらってすごく助かったよ。バイオレットはよく気が付くし何でも出来る。今どきの若い子には珍しいほど素敵な子だから…ほんとに私は…いやだね。私ったら何だか最近涙もろくって」
ラーシャさんは目元をエプロンで拭った。
「いけないね。こんなおめでたい日になくなんて…バイオレットこれからも元気で頑張るんだよ。これは私が作ったんだけど…」
ラーシャさんはそっと卒業のお祝いを差しだした。
それはとても美しいレースのショールだった。ラーシャさんが仕事の合間に編んだものだった。
「うわぁ、すごくきれい…でも、こんなの貰えません。ラーシャさんのお気持ちだけで充分ですから…」
「何言ってるんだい!バイオレットは私の娘も同然何だよ。こんな事しか出来なくてごめんよ。だから受け取っておくれ」
「ええ、ラーシャさんがそんなに言ってくれるなら受け取らないわけにはいきませんね。じゃあ、大切にします。本当にありがとう」
「いいんだ。バイオレットはべズバルドルにいるんだからいつでも食べに来てくれていいんだよ。待ってるからね」
「はい、もちろんです。ここの料理は故郷の味ですもの。すぐにまた来ますよ。じゃあ、これから兄のところに行くんです」
「べズセクトにかい?お兄さんによろしく言っておくれよ」
「ええ、伝えます。ラーシャさん本当にありがとうございました」
私たちは抱き合って別れを惜しんだ。
そして私はヴィルとの待ち合わせ場所に急いだ。
兄モービンには帰ることを手紙で伝えてあったし、ヴィルがいれば一晩宿に泊まるのも悪くはないだろう。
途中の街でぶらりとしてもいいかも知れない。
私はそんな事を考えながら辻馬車の乗合所に急いだ。
少しは余裕があると思っていたのについたときにはもう12時を回っていた。
私はヴィルの姿を探した。
人がたくさんいてあちこちを探す。だが、ヴィルの姿はどこにもなかった。
ふと指先が彼がくれた蝶の髪飾りに触れる。
きっとヴィルの方が遅れているんだ。
そうだ。ヴィルが言っていたように乗合所ではなく待合室でヴィルを待とう。
それにしてもヴィルどうしたのかしら?
もうかれこれ1時間は過ぎたよね…
私はまた蝶の髪飾りに触れる。彼がくれた髪飾りに触れるだけで何だか安心できた。
その時だった。
「あの‥失礼ですがバイオレット・レスプランドールさんでは?」
「はい、そうですが…あなたは?」
その女性は大人っぽい服を着ていた。胸元が大きく開いたワンピースだ。大人びて見えたが年は私とあまり変わらない気がした。
それに何だか疲れたように見えた。
「ああ…良かった。あの、私ヴィルフリートの妹のマリエッタと言います」
あなたがヴィルの妹さん?
ずいぶん大人っぽい。やっぱり仕事してるからかな?あっ、でも金色の髪も琥珀色の瞳も同じ。
そんな事を思いながら彼女に微笑む。
「まあ、あなたがヴィルの?驚いたわ」
「兄から聞いてらっしゃるのね。良かった。あの、驚かせたならごめんなさい。実は兄に頼まれてお迎えに来たんです」
マリエッタはほっとした顔をして微笑んだ。
「ヴィルに?彼はどこなの?」
「ちょっと手間取るからあなたを呼んできてほしいって頼まれたんです。私と一緒に来てもらえますか?」
「ええ、もちろん。それで彼はどこにいるんです?」
「まだ街にいるんです。だから一度戻らなくてはいけませんが…ごめんなさい。これから馬車に乗るところだったんですよね?」
「いいのよ。特に急いでいるわけではないし…じゃあ、行きましょうか」
私は何の疑いもなくマリエッタと一緒に歩き始めた。
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