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10屈辱の末にもぎ取った証明書
しおりを挟む「どうしました?痛みますか?どれ」
セルカークが手を伸ばす。
「違うんです。脚は大丈夫です。それより…ここを診察して欲しいんです」
ミモザは股間を指さす。
セルカークが眉を寄せる。
「どういうことでしょう?痛むんですか?」
ミモザは深呼吸する。
「先生は今から話すことを絶対口外しないって約束出来ます?」
「もちろんです。絶対にあなたの秘密は洩らしません」
もう一度深呼吸をして一気に話を始めた。
「実は昨晩…義理父に暴力を受けました。無理やり…その…だから今も傷が痛んでます。でも私はこのまま泣き寝入りするつもりはありません。義理父を訴えようと思っています。だから…先生にはそれを確かめて頂く必要があって…こんな恥ずかしい事をお願いするなんてどうかしているとしか思えません。でも、もう無理なんです。あの家でやって行く事なんか無理なんです。こうやってここに来たいと言ったのも今夜も義理父に襲われるかもしれないと思ったからなんです。先生、お願いします」
ミモザはどうにか話し終えた。
「それで昨日階段から?」
「はい、昼間も執務室で迫られて逃げたんです。慌てていたので階段を踏み外してしまって…」
何だか同情を買おうとしているみたいにも思えたがこれくらいで気を許したりはしない。
だってあなた私を見殺しにしたんですもの。ねぇセルカーク、女の恨みって恐いのよ。
ミモザは泣くふりをして眦を手の甲で拭う。涙は出ていない。それでも泣いているようには見えるだろう。
「心配ありません。ミモザ夫人あなたを無理にあの屋敷に帰すことなどしませんから…」
「ありがとうございます」
「では、診察してみましょう。失礼します」
セルカークは診察室にあった消毒液に手を浸すと何やら細長い器具を手に持って遠慮がちに近づいた。
ミモザの足元にかがみこむとゆっくりミモザのドレスをめくり脚を開かせる。
昼間ではあるがきっと見えにくいのだろう。セルカークは一度立ち上がると燭台のロウソクに火を灯してそれを脚の間に照らす。
「少し冷たい感触がしますが我慢して下さい」
セルカークの声は緊張しているわけでもなく熱のある声でもない。
ただ、診療師として仕事をしているといった風な言い方でミモザは詰めていた息を少し吐いた。
何でもないふうを装っても前世の記憶もあるしこの状況が普通ではないのだ。
緊張しない方がおかしい。
羞恥?いや、嫌悪?いや、拒絶?…何だろう。屈辱的な気持ちが沸き上がる。
でも、そんなの意味のない事だとすぐに気づく。だってそう思うのは前世の記憶があるから。
セルカークが私がシルヴィだった事を知っているわけでもない。
ただこれは自分を救う唯一の方法だというだけの事。
それなのに必死で感情を押し殺して耐えるなんて…馬鹿げてる。
両脚を立てていてミモザの視界は全くさえぎられていてセルカークはまったく見えない。
カチャカチャ器具の音だけが部屋の中で響いている。
(それにしても…もう、何してるのよ!早くして。セルカーク、もういいから。傷さえ確認できればそれでいいんだから…)
胸の中で渦巻く不安。
「いっ!」
いきなり中をぐっと開かれじんじん痛みが襲う。
「すみません。これはかなり裂傷してますね。そのままでいて下さい。塗り薬を持ってきます」
「いえ、そんな事。自分で出来ます」
「これは診療師の仕事です。恥ずかしがることはありません。あなたはひどい扱いを受けたのですから」
シレッとそんな事をいってセルカークが立ち上がった。
ミモザはそんな彼の顔をまともに見る事も出来ない。
(あなたいったいどうしたの?21年の間にまともになったって事?今までの彼ならもっと甘い言葉の一つもこぼしていたはず…ほんとに診療師みたいに思えるじゃない…ったく。むかつく!)
セルカークはていねいに患部に薬と塗りそっと下履きを整えてくれた。
「終わりました。ミモザ夫人のおっしゃる通りこれは暴行に間違いありません。正式な書類が必要ならば証明書を書きます」
「はい、お願いします」
「その前に足首の治療も終わらせましょう」
セルカークはそう言ってミモザの足首に湿布薬を貼ってきちんと固定をした。
そしてミモザが暴行されたことを書いた証明書を書いてくれた。
ミモザはその証明書に目を落とした。
屈辱を与えられさらに前世の夫にその傷を見られると言う醜態をさらしながらもぎ取った証明書。
私はこの証明書で必ず離縁をもぎ取って見せる。
そうでなければ…
ミモザは知らず知らず唇を噛みしめていた。
その唇の温かな指がふれた。
「もう、大丈夫ですから」
セルカークがミモザの噛みしめていた唇をそっと解いた。
(ああ…やっぱり。セルカークあなたは変わっていないのね。そうやってさも心配を装って優しい言葉を掛けるのもあなたのやり方だった)
「ありがとうございます。ラウラ入って来て」
ミモザは大声でラウラを呼んだ。
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