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34男なんて最低
しおりを挟む翌朝はいつもより早く目覚めた。寝坊してはいけないと思ってもいたし何より周りが騒がしかった。
人の行きかう音や扉の閉まる音。いつもは聞きなれない音がしていた。
ミモザは朝食をみんなと取ると部屋の掃除をして診療所に向かった。
そこに血相を変えた見知った男が走って来た。
「ミモザ!お前ヴィオラに何を言った?」
「ライオス様?一体どうしたのです?ヴィオラさんに何かあったのですか?」
ライオスはミモザの胸ぐらをつかんだ。そのせいで掛けていた眼鏡がずれた。
運悪く連れは先に行ってミモザは最後だったので周りに人がいなかった。
「な、何を…」
首が締まって苦しい。
ライオスが首元を放して押した。
ミモザは転びそうになったが何とか踏みとどまった。
「お前ヴィオラを待ちぶせて言ったらしいな。お前のような卑しい身分の者が公爵夫人になるなんて絶対無理だってばかにして笑ったそうじゃないか。どういうつもりなんだ?」
「何をおっしゃってるのか意味が分かりません。私はヴィオラさんにそんな気持ちになった事はありません。結婚はあくまで政略結婚でした。最初からあなたには好きな人がいると分かっていましたし、私が嫌だったのは跡取りを産ませるために義理母様に無理強いさせられた行為が我慢ならなかったのです。それに離縁出来てものすごく喜んでおります。そんな私がヴィオラさんが貴方の妻になるからといて邪魔するはずがないじゃありませんか?むしろ応援したいくらいです。おふたりが結婚出来て良かったと。それなのにばかな事を言わないでいただけます?」
ライオスの唇はわなわな震えている。
ミモザは眼鏡を直してライオスを睨む。
「で、でも、ヴィオラは泣きながら俺とは結婚できないって…お前に悪いからって。あいつは優しいからお前を追い出したと勘違いしてるんだ。だって今日ここにいるのもヴィオラを待ち伏せしてるからだろう?ヴィオラはここで手伝いをしてるってどこで知った?おい、いい加減なことを言うと許さないからな!」
「何をばかな事を…私はここの診療所で働くのです。だって平民ですから仕事をしなければ生きてはいけませんでしょう?あの日は面接でここに来ていました。ヴィオラさんが来ることなど知りませんでした。待ち伏せもしておりません。偶然会って義理母様からうるさく言われて淑女教育が嫌だとおっしゃってました。そうそう、あなたなんか愛していないとも言われてましたよ。愛人で贅沢な暮らしをさせてくれるからそばにいるんだって、苦しい思いまでして結婚したくはないとも。ライオス様。この際ヴィオラさんにはっきりお気持ちをお聞きになった方がよろしんじゃないんです?」
「お、お前は何を言ってるんだ!ヴィオラが俺を愛してないなんてあるはずがないだろう?ふん!ヴィオラに負けたからって負け惜しみか?ばかなやつだ。ああ、お前にはこんな所で働くのが似合ってる。いいか。二度とヴィオラに近づくなよ」
「だったらあなたがヴィオラさんを監視して下さい。こんな所には来ないように。だって公爵夫人になるんですもの。ねぇぇ」
「クッソ!覚えてろよ。今に泣いて助けてくれと言って来ても絶対に知らないからな。ふん!」
ミモザは頭に来た。
掛けていた眼鏡をライオスに投げつける。ライオスは一瞬驚いて飛び上った。
腰に腕をあててライオスにずんずん詰め寄る。
「あなたこそ。ずいぶん姑息な事をされるんですね。私があの診療所でお世話になっているからって薬を売らないようにしたり違法な薬物を診療所に置いて密告までして…まあ、ほんとにやることが小さいったらあなたのあそこと同じですわ」
ふん!と顔を背けてやる。
ライオスが目を丸くしたが今度は巻き返そうとする。
「なっ?誰がそんな事をする?おまえとうとう頭がおかしくなったんじゃないのか?被害妄想もいい加減にしろよな!どんな手を使っても俺はお前とよりを戻すことはないからな。いいな?ったく。勘弁しろよ!!」
ライオスの怒鳴り声はまったくの空回りだったが、何とか体裁を保ったと背筋をしゃんと伸ばすとさっさと教会を後にした。
(ふん、最低な男。まったく。腹が煮えくり返るから!)
ミモザは気分を害されたが遅くなったと急いで診療所に向かう。
そうだった。ここは診療所だ。
ミモザは気持ちを入れ替えて看護助手の仕事を始めた。
セルカークの元で少しばかり手伝いをしたことで包帯の巻いたり言われた薬剤を準備することにも困らず何とか午前中の仕事を終えた。
その後昼食を食べに食堂に向かう。
その途中でミモザはセルカークがやって来るのを見た。
うれしくて手を上げようとした。その時だった。
「せんせ~い」
派手な服装の露出の多い服を着た見るからに娼館にでもいるような女性がセルカークに声をかけた。
彼はその女性を見ると嬉しそうに顔をほころばせた。
「……」声は聞こえなかった。
その女性はセルカークに縋るように腕にまとわりつく。
彼はそれを振り払うでもなくふたりで楽しそうに話をしている姿が見えた。
ミモザの目の前が真っ赤になった。
(私、なんてばかだったの…彼を信じるなんて…どの男も最低!)
とっさに走り出した。
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