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35お互いに自分がやったといい張っていますが
しおりを挟む「違います。彼は嘘をついてるんです。私をかばおうとしているだけなんです」
今度はシエルがそう言った。
それもかなり怒った様子で。
ボルクは執務室の中に入って来て躊躇することなくベルタードの前にくると言った。
「いい加減にしてくれ。シエル君はどうしてそんな嘘をつくんだ?君は部屋に戻って一度も部屋から出てはいないはずだ。毒を飲ませたのは私だ。ベルタード私を捕まえろ。さあ、早く!」
「違うんです。私が皇帝を殺したのです。捕まえるなら私を!」
ふたりともさあ自分を捕まえてとばかりに身を乗り出す。
ボルクの指先はかなり怒っているらしく親指と人差し指が高速で摺りあわされている。
ベルタードは、どうしてだかそんな二人を微笑ましいとさえ思ってしまう。
やれやれ、仲がよろしいことで、あの道中もおふたりは思いあっているのではと思いましたがやはりそのようですね。
とすればもしかしたら皇帝を殺したのはどちらかと言う事にもなりかねませんのに。
でも、ここは冷静に話を聞かないと…
「まあ、ふたりとも落ち着いてください。まずひとりずつお話を伺いますので、ウィスコンティン様は少しお待ちください。まずはシエル姫様、先ほどの続きですが…毒は何の毒とおっしゃいましたか?」
シエルは意気揚々と話す。
「はい、トリカブトですわ。私、こっそり隠して持っていたんです」
「そうですか。それでは時間はいつ頃でしたか?」
「時間はよくわからないわ。真夜中だったことはわかるけど」
ベルタードはシエルが言った事をメモしながら話を聞いた。
「そうですか。毒はお酒に混ぜて皇帝に飲ませたんですね」
「ええ、そうよ。間違いないわ」
「わかりました。では次。ウィスコンティン様」
「ああ、何でも聞いてくれ」
ボルクは胸を張って言う。
とても罪を告白する態度ではないとベルタードは思ってしまう。
「はい、ではまず毒は何の毒でしょう?」
「毒はトリカブトです。私も隠して持っていました」
「では、皇帝にどのようにして飲ませたのですか?」
「皇帝には無理やり、抑え込んで飲ませた。そうでなかったらあの皇帝がそんな毒の入った飲み物を飲むはずがないだろう」
「そんなのでたらめです。彼は嘘を言ってるわ」
ボルクはシエルの言っていることは大噓だとばかりにけなす。
「シエル姫様、お願いです。黙っていてくださいますか?」
「あっ、ええ。ごめんなさい」
シエルが恥ずかしそうにうつむく。
「それで時間がいつ頃でしょうか?」
「時間は…明け方だったと思う。空が薄っすらと少し明るくなり始めた頃だったと思う」
「では、ウィスコンティン様あなたは一度皇帝のところに行って、また出直したという事ですか?」
「えっ?…あっ、はい、そうです。一度目は朝になったら処罰を伝えると言われて部屋を出ましたから」
「では、お互い時間はずれていたという事ですね。シエル姫様は真夜中に部屋を訪れたと言われました。ウィスコンティン様は明け方にと、毒はおふたりともトリカブトだとお酒に混ぜて飲ませた事も一緒ですね」
「ええ、そうですわ」
「ああ、その通りだ」
「困りました。どちらの言い分でも皇帝を殺すことが出来たということになりますね。どちらが本当の事をおっしゃってるんです?早く本当の事を話した方が身のためです。いずれはっきりわかるでしょうし…」
ベルタードの態度はひたすら落ち着いている。
これが本当にオーランド国から遣わされた騎士なのかとさえ思わせた。
そんな余裕さえ国王のルドルフには伝わっていなかった。
彼は脂汗を額に浮かべて話を始めた。
「だが、ベルタード殿、ふたりとも嘘を言っているかもしれん。そうは思わんか?もし殺すならシエルはボルクを呼ぶまでに殺すことも出来た。ボルクもそうだ。一度部屋を出なくても最初に部屋に戻った時に来れせばよかったじゃないか。ふたりの言っていることはつじつまが合わん。そうは思わんか?」
ルドルフはふたりの交互に見ながら話すと最後にベルタードを見た。
「ええ、国王陛下、私も同じことを思っていました。もし殺すとしたらもっと早い段階ではないかと…ですが気が変わるという事もありますし」
ベルタードはさらに腕を組んで考える。
「失礼します。騎士隊副隊長サージェスと申します」
「なんだ?」
ルドルフが返事をする。
サージェスが入って来た。
「申し訳ありません.ウィスコンティン様がこちらにと伺いましたので」
ボルクは自分への用事かと立ち上がって入り口まで歩いてサージェスのところに行く。
サージェスはボルクの耳元で報告をする。
「隊長。国境騎士団から手紙です。これをどうぞ」
国境騎士団から急ぎの手紙をガルが運んできたのだ。
「そうか。ありがとうサージェス」
ボルクは急いでその手紙を見た。
『急ぎお知らせします。オーランド国皇帝の死因の毒はカロライナジャスミンと判明。この毒草はここ国境付近でしか取れない植物でこの毒は極めてゆっくり効いて死ぬまでに時間がかかる毒です。また呼吸困難という点ではトリカブトも同じでよく間違えられることもあるようです。ですがカロライナジャスミンは独特の香りがあり死んでもその香りがあり甘い蜜の香りがするそうです。そして最も重要な事が一つ。この毒の事は皇妃のティロースがよくご存じな事です。彼女の母はこの毒で亡くなっているのです。側妃ヒメルはティロースの侍女でしたし何かあるとしか思えません。ベルタード隊長が国王に同行しているようですのでくれぐれもお気を付け下さい。ラファーガ』
ボルクはそれを呼んではっと気づく。
先に皇妃が毒を飲ませていたとすれば俺が部屋を出てすぐにくらいか?
皇帝に毒を飲ませてその後ヒメルがやって来た。皇帝はほとんど虫の息ほどでヒメルは簡単に皇帝にナイフを刺せる。
皇妃はヒメルにすべての罪を擦り付けてしまうつもりだったが、ヒメルが土壇場になって気が変わったという事か。
すぐにサージェスに言う。
「オーランド国の諜報部員に調べてさせて報告をくれるよう伝えてくれ」
「はい、了解しました」
サージェスはすぐに執務室を後にした。
だが、この場をどうする?
オーランド国では毒の事はわかっているのか?もちろんわかってるだろう?だからさっきからベルタードが何度も毒の事を聞いて時間を引き延ばしているんじゃないのか?
ボルクはやっと気づく。ベルタードはわかってセルベーラ国に来たのかもしれない。皇妃を油断させるために。
ではシエルはどうして?
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