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9辺境に向かう2
馬車に揺られて数時間、昼をとっくに過ぎても馬車はまだ止まらなかった。
私はしゃべれるようになって初めてまともな言葉を発する。
「あの‥騎士様。お昼はかなり過ぎたように思うのですが食事はまだでしょうか?」
食事と言ったが本当は手洗いに行きたかった。
「ああ、そうだな。そう言えば腹が減ったな。この辺りで休憩にするか。聖女さん俺のことはラキス。こっちはヌバルって呼んでくれ。御者をしているのはスクトって言うから」
ラキスさんはそう言うと窓から顔を出してスクトさんに荷馬車を止めるように指示をした。
「さあ、ずっと座りっぱなしで身体が痛むよな。馬車から下りて身体を伸ばすといい。ああ、そう言えば‥悪かったな。花摘みならその辺に入ってやってくれ。この辺りに宿や店はないんだ」
えっ?どうしてわかったの?
私はラキスさんを二度見する。
「俺にも妹がいて馬車に乗って同じことを言っていたから、女がそう言うことを言うのは恥ずかしいもんだろう?いいから遠慮するな」
ラキスさんがクスッと笑う。
私は真っ赤になって俯く。
神殿でも外で用を足すことはなかったし、父様と暮らしている時も家に手洗いはあった。
「そんな‥無理です」拒絶の言葉を言いながらもほっと息をつくのは思ったことがはっきり言えたから。
「聖女さんよ。言っちゃあ悪いがあんたは罪人。ほんとなら縄でくくられて目の前でさせられても文句は言えないんだぞ」そう言ったのはヌバル。
「ヌバルあまり恐れさすな。逃げても無駄だってわかってるんだろう?俺達だって手荒な事はしたくないんだ。あっちの茂みに行って用を足して来たらいい。その間に簡単な食べ物を用意しとくから」優しい口調でラキスさんが言う。
これ以上言っても無駄だろう。私は諦めて茂みに入って行く。罪人と思われているならこれでも破格の扱いかも知れない。
でも、どうして私がこんな目に合わなきゃならないのかな‥そんな事を思いながらも手洗に行った。
そして戻って来ると固い黒パンと干し肉を手渡された。
「とりあえず腹の足しにしてくれ」
「これを食べるんです?」
まあ、聖教会でもスープとパンくらいだったけど。それ以上に固そうなパンだった。
「ああ、それに今夜も宿には止まらない。野宿する予定だ。そうすれば少しでも先に進めるし明日の朝一番に出発できるからな。聖女さんも明日の夕暮れまでには辺境に着きたいだろ?」
「‥‥」喋れないわけではない。宿にも泊らないってこの人達と野宿?
「心配するな。あんたを襲おうなんて考えてない。俺達は辺境騎士団に入るつもりだからあんたをきちんと辺境に届けるつもりだ」
「でも、さっきはヌバルさん「何だよ。ちょっとふざけただけだろ。それにあんたが辺境に行けばどうせ辺境伯は相手になんかするもんか。すぐに下げ渡されて、そうすりゃ騎士の慰み者だろう?まっ、お楽しみはその時に取っておくさ。あんただってそれを期待してるんじゃないのか?」ヌバルさんが慌てて口をはさむ。
何?この人ものすごく失礼じゃない!
「おい、ヌバル。それは言い過ぎだろう。彼女は仮にも辺境伯の婚約者なんだ。俺達にお楽しみが回ってくるはずがないだろう。すまん。もう二度とあんな事はしない。だから心配しなくていいから」
二人の会話が信用出来る話とはとても思えない。何より辺境伯様は顔は恐いが魔物に襲われて困っている隣の領地に救援を送ってくれるような心の優しい人だと知っている。だからそんなことするはずがないと思ったがでも、ここは大人しくしておいた方がいいと思った。
「わかりました。よろしくお願いします」
そう言うと私は荷馬車の中に入った。
「さあ、仲直りが終わったら出発しよう。スクト。今度は俺が御者をするからお前は少し休め」
仲直りか‥これ以上言うこともない。私はありきたりの常套句を発した。
「はい、ありがとうございます」
ラキスさんはあっという間にパンと干し肉を食べると御者台に座ってスクトさんが荷馬車の中に入って来た。
「スクト、俺は少し寝る。聖女はお前が見張っておけ」ヌバルさんはごろりと横になった。
「わかりました」
スクトさんは二人より年下なのだろう。彼は私と同じパンと干し肉を食べた。
しばらくしてスクトさんに声を掛けられた。
「あの良かったらこれを飲みますか?」
水筒を差し出される。実は喉が渇いていた。パンも硬くてぱさぱさだったし干し肉は塩がきいてからかった。
「いいんですか?」
「ええ、馬車の旅は初めてですか?」
「いえ、6年前に王都に来る時に。でも、あの時はジェリク殿下も一緒でこんな荷馬車ではなかったですから」
大切な思い出が今となっては苦くくそまずい思い出になってしまった。
ったく。思い出しても腹立たしい。あんな奴を信じた自分とジェリク殿下のひどい仕打ちが。
「では、こんな旅は初めてなんですね。荷物もほとんどないなんてあんまりですね。あなたは聖女なんでしょ?」
「ええ、やってもいない罪を着せられて辺境に送られてますから」
「えっ?‥そう言えば喋れないって聞いた気が?」
スクトさんが驚いた顔をしたがすぐに話をすり替えたので私もそんな彼に合わせて尋ねる。
「知ってたんです?」
「一応。でも俺が命令書を見たんですがそう言えばふたりにはその事を話していませんでした。何か失礼をしたんじゃ?っていうか話せてますね」
そうだったのかと少しほっとしたらふっとほおが緩んだ。
「はい、実はヌバルさんに襲われそうになってそれで叫んだら声が出たんです‥そう言えばヌバルさんのおかげですね。ふふっ」
何だかおかしな気持ちになった。
「それは申し訳ない事を‥あっ、でもヌバルさんは見かけはあんなでも優しい人なんです」
「そうなんですか?でも、彼は辺境騎士なんですよね?」
「ええ、彼らは領地で繁殖させた軍馬を王国騎士団に収める仕事もしているので騎士団に顔を出すんです。ヌバルさんだけじゃなく他の人たちもいますがいつも領地で取れたチーズなんかを持って来てくれて」
「それで顔なじみなんですね。そう言えばスクトさんは王都に帰るんですか?」
信じられないって顔をして見せる。
「いいえ、俺は王都より田舎の辺境の方がのびのび出来ていいと思ったんです。だから今回の護送に志願したんです。辺境騎士団に行くために」
「私だって驚いてます。婚約破棄の上に辺境伯の婚約者としてなんて。まあ、殿下に未練はありませんけど。辺境に着いたら辺境伯と話をしようと思ってますけど」
「でも、殿下の事好きだったんですよね?」
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スクトさんが肩をすくめる。照れているらしい。
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「楽しみです‥ですがあなたが無実ならこの仕打ちは酷いんじゃ?」
ですよね。あなたもそう思ってくれる?
スクトさんがそう言った時、いきなり荷馬車が大きな音を立てて止まった。
「魔獣だ!!ヌバル!スクト!すぐに出て来い!」
「ぐぅわぁぁぁぁぁ~」
聞き覚えのある恐ろしい声がした。
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私は荷馬車の中で身をかがめてたじろいだ。
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