16 / 84
16副隊長ラヴァード(エバン)
俺は寝室を出ると着替えを済ませて執務室にラヴァードを呼んだ。
ラヴァードは今から10年ほどまえだったか、15歳の頃この辺境にやって来たキアラルダ人だ。孤児で盗賊に拾われたかでチェスナット辺境領で街を荒らしているところを捕らえた。
盗賊の親玉はとんでもない悪人であちこちで人殺しをしては盗みを働いていたらしくキアラルダ国に引き渡した。
ラヴァードはまだ子供だった。俺はここで真面目に暮らしてみないかって話を持ち掛けるとラヴァードはそうしたいと言った。
だから辺境騎士団に入れた。辺境伯騎士団には他にもそんな奴らが騎士団にはたくさんいたし腕っぷしのいい傭兵も噂を聞いてやって来ていた。
俺の辺境騎士団では身分は関係ない。実力で出世をさせて行くシステムだ。
だからこそもっと強くなろう、もっと戦略に詳しくなろうってみんなが頑張る。
そんな中ラヴァードは頭角を現してとうとう副隊長にまで上り詰めた。
「隊長。お呼びですか」
「ああ、ラヴァード話がある。実はフレイシアの事だが、王都の罪状は真っ赤なうそだった。彼女は何も悪いことなどしていない。反対にジェリクに利用され捨てられた被害者だ。だが、このまま辺境領から放り出せばまたジェリクが何をするかわからん。だから保護の為に俺の婚約者という事にする」
ラヴァードが眉に皺を寄せる。
「隊長大丈夫ですか?あの女に何か飲まされたんじゃ?昨晩はあんなに息巻いてたじゃないですか。あの気概はどうしたんです?これじゃ騎士団に示しがつきませんよ!」
白金の髪が揺れて緋色の瞳に怒りが灯る。
「だが、彼女は魔力が使えるんだぞ。魔物を倒すには彼女がいた方がいいだろう?」
昨夜の彼女の寝顔を思い出すとつい顔が緩みそうになった。いかんいかん。急いで顔を引き締めてラヴァードを見返す。
「それは‥ですが婚約者にしなくても罪人として働かせればいいじゃないですか!」
ラヴァードは引かなかった。まあ、今までの俺ならそうしていたと思う。
「だが、王都の報告書は嘘だと「どうして嘘だと分かるんです?」
どこまでも食い下がるよなお前は。
仕方がない。
「そ、それは昨晩彼女が‥純潔だったからだ!フレイシアはふしだらな聖女でもないましてや淫乱聖女などとありもしない事を報告書に書いたジェリクに問題があると分かったからだ!これでいいだろう」
もしこれが本当だったらどんなに良かったか。おい、俺は何を考えている。自分でそんな考えに驚く。
ラヴァードは、顔をしかめた。
「はっ!純潔だったからあの女に婚約者になれと?たったそれだけで?」
「それだけって‥ああ、そうだ。悪いか。俺だって女を好きになってもいいだろう?まあ、お前はそんな男じゃないんだろうが」
っていうか何言ってんだ俺。
ラヴァードは、俺にうわをかけて女嫌いだった。
母親に捨てられ酷い暮らしの中で女の汚い部分を見知ったらしく、女は汚らわしい生き物と認識している。
まあ、盗賊の仲間じゃ、知っている女は娼館の女くらいだろうからな。
だがな、世の中にはフレイシアのように素晴らしい女もいるんだ。だが、ラヴァードにそれを分かれと言うのは無理があるかもな。
第一にこの辺境にはそんな素晴らしい女性がいない。
平民は生きて行くのに精いっぱいだし、娘は年頃になると街を出て行くか良くてこの辺境の男と結婚する。
いわゆる空きがないって状態だ。
街には騎士相手の娼館があるがそりゃもう酷いもんだ。王都に出て行って擦れた女が帰って来た女ならまだましだ。王都で酷い目に合って売られた女なんか男はただの金ずるとしか思ってない。下手すりゃ根こそぎかすめ取られる。
それも仕方のない事だと思う。
まあ、人身売買と分かった時はこっちも女を救い出す手立てを打ってはいるが一度そんな目に合うとまともではいられないらしく結局娼館に戻ってしまう女が多いんだが。
俺はもちろん娼館なんかにはいかない。今までだって女には縁がなかったと言うか興味がなかったからな。
ラヴァード。お前にはわからないんだ。フレイシアがどれほどの女かってことが!
ラヴァードに悪態をつかれながら話をしているうちに俺はもやもやした気持ちが何なのかやっと気づいた。
ああ‥そういう事か。俺はフレイシアが好きなんだ。
フレイシアに再会した途端何だかおかしかった。以上に嫉妬にかられるっていうか‥思えば俺はずっと彼女を気にかけていたんだろう。
今ははっきり気づいた。俺はフレイシアが好きなんだって。だから彼女に婚約者になってほしかったんだが‥
まあ、あんなことをしたんだ。今すぐ俺を信じて欲しいなんて無理だろう。
でも、必ずフレイシアを振り向かせて見せるぞ。
「ったく、何やってるんです?あんな女に‥」
いきなり思考を遮られた。
「まあ、そう言うな。ラヴァードお前が頼りなんだから。フレイシアは騎士団に協力したいって言ってる。何か困った事でもあれば仕事をやってくれ。頼んだぞ」
これ以上ラヴァードに何を言っても無駄ってやつだ。それよりフレイシアがやりやすいようにした方がいいってものだと気持ちを切り替えた。
「俺は忙しいんですよ。そんな暇ありません。暇つぶしはこの屋敷の中でさせて下さいよ」
「ああ、危険な事はさせる気はない。安心しろ」
「だったら最初からそう言って下さいよ。じゃ俺忙しいんで失礼します」
「ああ、すまん」
ラヴァードは忙しそうに執務室を出て行った。
フレイシアには悪いがしばらくは屋敷で大人しくしていてもらおう。
俺は部屋を出てロバートを呼ぶ。
「ロバート、悪いがマリンをフレイシアの世話係に頼む。フレイシアは俺の婚約者だ。そのつもりで接してくれ」
ロバートは俺がこの辺境に来た時から執事をしてくれている。前の辺境伯の執事補佐をしていた男で彼には色々教わった。今でもこの辺境領のほとんどを担っていると言っても言い過ぎじゃない。
「はい、旦那様。ですがマリンは王都からお越しの令嬢のお世話が出来るかどうか」
「心配ない。フレイシアも元はグラマリンの聖教会の娘だ。王都に行っていたが貴族ではない。その辺りは気構えなくていい。食事や掃除などの世話でいい。頼んだぞ」
「わかりました。マリンにもそう伝えます」
「ああ、王都では色々あったらしい、彼女に必要なものがあれば何でも用意してやってくれ」
「わかりました。旦那様では今から朝食をご一緒されますか?」
ロバートにそう言われて朝食がまだだったと気づく。
俺としたことが今まで女の相手なんかしたことがなかったからな。
「ああ、マリンに支度を頼んでくれ。フレイシアと朝食をとる」
「ああ、旦那様にもやっと春が‥ロバートは夢を見ているようです」
「大袈裟だな。そんなに俺は酷かったのか?」
「ええ、もう旦那様は生涯お一人かもと覚悟を決めかけておりました。そうだ。婚約の祝いをしなくてはなりませんね。騎士団にも知らせて辺境領のあちこちにも触れを出しませんと‥」
ロバートの喜びようと言ったら‥まあ、絶対フレイシアを落としたいと思ってはいるが‥
「ロバート。それはまだ早い。フレイシアはここに来たばかりなんだ。少し落ち着くまで時間が必要だ。なっ、頼んだぞ」
俺はロバートの暴走を止めるのに必死だった。
あなたにおすすめの小説
【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます!
読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。