24 / 31
24二人の話(エバン)
しおりを挟む俺はフレイシアの前ではおどけていたが内心はかなり参っていた。
西の村で見て来た事に衝撃を受けていたからだ。
倒された魔物の数は30頭数体。そのどれにも魔紋があった。魔紋はどれも竜の刻印がはっきりと見て取れた。
竜の刻印はキアラルダ人の使う魔力にしか現れない事はこの大陸の人間なら誰でも知っている。
はるか昔、このムント大陸の中心に神が降りて神に似せた人間や動物を作り自然を作ったとされている。
竜神と月の女神がキアラルダという地に住み人間は神の魔力を分け与えられたと言う。
竜神と月の女神が天に上ると人間が国を支配した。そのうちキアラルダから別の土地に移り住んだ人間が国を作り今のようにそれぞれの国が生まれた。
だが、そのうちにキアラルダ国を去って行った人間は次第に魔力を失って行ったがキアラルダ国の人間は魔力を失わなかった。
それでも長い年月の間にキアラルダ人も魔力を失って行き今では王族や貴族だけが魔力を持っていると言われている。
彼らは今でも竜神の力を持っていると信じられており魔力を込めた魔込石には竜神の魔力が宿るのだと思われている。
だから魔物にあった竜の魔紋はキアラルダ人の魔力を使った証になる。
ラヴァードが俺の執務室に入って来た。事態はかなり深刻だった。
「隊長、どうでしたか?」
「ああ、やはり魔物には竜の魔紋があった。それも30数体すべてにだ。そう言えば今日倒した魔物はどうだった?」
「はい、やはり竜の魔紋がありました。でも、他の者はまだ気づいていませんよ。俺が魔紋は見えないようにしたんで」
ラヴァードは平然とした顔でへらっと口角を上げた。冷たい眼差しが一瞬若者の顔に戻る。まあ、お前まだ26だったか?幼いころから苦労したせいか年齢より落ち着て見えるがな。
まあ、いつものように見事だ。
「そうか。これは相当深刻な事態になりそうだな。これ以上キアラルダともめるわけには行かん。一番の原因はあの水晶だとわかっている。何とか国王に月光水晶を返すようにしてもらわなければ‥仕方がない。明日にでも王都に出向くしかないな」
「隊長一人で行くんです?」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃ、フレイシアさんは残るんですね。良かった。彼女意外と使えそうですから」
ラヴァードの顔がほんの少し機嫌が良くなる。なんだ?
途端に腹の底にどろりとした嫌な感情が沸き上がる。
お前、まさか?確かに俺はフレイシアとはかなりの年の差がある。ラヴァードにしろ他の騎士にしろ、フレイシアにお似合いなのはあいつらだろう。
だからこそ俺はめちゃくちゃ必死で彼女を口説いてるわけで‥ったく、いい年をして色ボケかよ!
でも、こんな気持ちは初めてでフレイシアだけは誰にも渡したくないって‥かなり重症だな。
と思いつつも‥
「おい、ラヴァード。お前まさかまたフレイシアに魔力を使わせる気か?」
「ええ、当たり前じゃないですか。あんな即戦力、使わない手はないでしょう?」
はっ?お前気は確かか?!
「お前なぁ、フレイシアは騎士じゃないんだ。それに今日だって魔力を使わせたんだろう?ったく。彼女に何かあったらどうするつもりだったんだ?」
俺のフレイシアなのに!
「あれは‥俺もちょっと手いっぱいでして、ちょっと彼女に頼んだら。以外にも魔物を倒したんですよ。驚きました。あの状況で魔力を使えるなんて思いませんでした」
ラヴァードは、はは、そうなんですよって感じで話をした。
俺の脳内がプチッと切れる。もう嫉妬なのか単なる心配なのかもわからなくなるが。
「はっ?もしフレイシアが魔力が使えなかったらどうする気だったんだ?」
頬がヒクヒクして歯をぐっと噛みしめた。
「もちろん俺が剣を使ってましたよ。隊長の大切な人なんでしょう?どんな事があっても守るつもりでしたよ俺は‥でも、彼女もいい経験をしたと思いますよ。だって、騎士団で働かせるんですよね?まさかこの状況じゃいつ魔物に遭遇するかわからないんですよ。そう考えれば良かったんじゃないんです?」
「おまえ~‥!!!」
「そんなに心配なら騎士団には寄越さないで下さいよ。それにあんな差し入れもやめるように言って下さい。騎士たちは勘違いしますよ。今日だってフレイシアさんっていいよなぁとか、付き合いたいとか言ってましたよ。あっ、俺も彼女使えるし可愛いって思いましたよ‥知りませんよ。隊長が留守の間にフレイシアさんが寝取られても、だって隊長、彼女の純潔奪ったんですよね。そうなると女としても目覚めたって事でしょ?若い男の味を知ったらおじさんじゃ物足りないって思うかもですよ‥まじ、囲って大切にした方がいいんじゃないんですか?」
俺の脳内の血管がピキッという。
言うに事欠いて彼女を侮辱する気か?!
「ラヴァード!お前ぇぇぇ~!!おまえみたいな恋愛音痴に何が分かるんだぁぁぁぁ~もういい!フレイシアも王都に連れて行くからな。留守は頼んだぞ!」
「俺もその方がいいと思いますよ。だってフレイシアさんモテモテですから」
「ラヴァード!!いいからもう休め!」
あいつが冗談を言ってると分かっている。緊張しきった俺の気持ちをほぐそうとしているのだろうとも。
だが‥いかん、頭を冷やせ、俺!
「はいはい。王都に行ったらちゃんと仕事してきてくださいよ。月光水晶一刻も早くキアラルダに渡さないとニルス国なくなりますよ。多分‥」
ニルス国がなくなる。その一言で俺の頭がすっと冷えて行く。そうだ。今はそれどころじゃない。とにかく何とかしなくては。
ほんの少し溶けた緊張がまた脳内を覆った。
「ああ、それをあの王都のボケらが分かってくれるか‥もしだめなら月光水晶を盗み出してでも持って帰るからな。お前にも来て欲しいが辺境も危機だしなぁ」
「彼女に助けてもらえばいいじゃないですか。魔力使えるんですから」
「ああ、そうだな。って。出来るか!そんなの格好の悪い事」
「ニルス国の一大事なんですよ。そんな事言ってられるんですか?この国の民の為じゃないですか」
「‥‥‥わかったから、もう部屋に戻れラヴァード!」
俺はラヴァードを睨みつけて追い出した。
ふっとため息を吐く。
フレイシアが月の精霊の加護を持っていると言っていた事を思い出した。万が一の時には月の精霊に頼むしかないかもな。
俺、頑張れ!国王に何としても決断してもらわなければ!
俺は心の中でそんな事を思っていた。
19
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
赤毛の伯爵令嬢
もも野はち助
恋愛
【あらすじ】
幼少期、妹と同じ美しいプラチナブロンドだった伯爵令嬢のクレア。
しかし10歳頃から急に癖のある赤毛になってしまう。逆に美しいプラチナブロンドのまま自由奔放に育った妹ティアラは、その美貌で周囲を魅了していた。いつしかクレアの婚約者でもあるイアルでさえ、妹に好意を抱いている事を知ったクレアは、彼の為に婚約解消を考える様になる。そんな時、妹のもとに曰く付きの公爵から婚約を仄めかすような面会希望の話がやってくる。噂を鵜呑みにし嫌がる妹と、妹を公爵に面会させたくない両親から頼まれ、クレアが代理で公爵と面会する事になってしまったのだが……。
※1:本編17話+番外編4話。
※2:ざまぁは無し。ただし妹がイラッとさせる無自覚系KYキャラ。
※3:全体的にヒロインへのヘイト管理が皆無の作品なので、読まれる際は自己責任でお願い致します。
【本編完結】召喚? 誘拐の間違いでは?
篠月珪霞
恋愛
「…え」
まず聞こえたのは、成功だー!!といういくつもの歓声。それ以降は幾人もの声が混じりあい、何を言っているのか分からなかった。
私、白井瑠璃は、いつものように、出勤するために自宅のドアを開けただけだった。
いつものように、起床し、準備して、仕事が終われば帰宅し、そうした普通の、変わりない毎日を過ごすはずだった。
過去形になったこの日を、きっと忘れることはない。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる