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29国王と会う(エバン)
しおりを挟む俺はグラスリン侯爵に会うと兄であるアダム国王に会えるよう計らって欲しいと頼んだ。
彼は元宰相をしていたが今はエグブランド公爵が宰相になり彼は国王の執事という肩書で王宮にいる。
だが、アダム国王もエグブランド公爵が台頭していることは危惧しているらしく王太子であるアレクの妻にはグラスリン侯爵の娘のキャサリンが選ばれた。
娘がアレク王太子と結婚して王太子妃となった事でエグブランド公爵の支配下にいた貴族の中からグラスリン侯爵寄りになった貴族も出ていて、王宮内の権力争いはますます火花が散っている状況らしい。
「グラスリン侯爵。実はチェスナット辺境で異変が起きているんです。魔物の頻繁な出没はキアラルダ帝国の仕業とはっきりわかりました。月光水晶の件もはや一刻の猶予もありません。その事で国王に急ぎ話をさせて下さい」
「何!チェスナット辺境領にキアラルダの?!そうか‥だがな問題は深刻なんだ。エバン‥」
「なにかあったんですか?」
数か月前には国王は月光水晶を返すつもりだと連絡を受けていたが。
「ああ、実はアレクがな‥」
「王太子が?」
「危篤状態にある。何とか聖女カトリーナ様が治癒魔法で命だけはとりとめてはいるがここまで酷いと呪いではないかとも言われていてな。いつ亡くなるかもわからん状況なんだ。それで‥国王は今は月光水晶を手放せないと仰ってな」
「そんな都合のいい話が‥もしかしてエグブランド公爵が裏で糸を引いているとか‥だってカトリーナはあいつの娘なんですよ。どんな手を使ってでも国王の座を奪おうと画策している奴ですよ!ジェリクもジェリクだ。あんな女にコロッと騙されるなんて‥」
と言ったがジェリクがカトリーナに目移りしたからフレイシアは辺境に追いやられたわけで‥まあ、そこはジェリクによくやったと言いたいところだが。
「ああ、私も最初はそう思った。娘がジェリク殿下と婚約したんだ。アレクが死んだほうがいい。だが、助けているのはカトリーナ様なんだ。だからそれは間違いだろう。きっとアレクはキアラルダ帝国の魔術か何かにかかって‥」
「そんなに言うならアレク殿下に合わせてもらえませんか。俺は叔父に当たるんだ。甥の見舞いに行く権利がある。そうでしょう?」
「ああ、そうだ。私は今からキャサリンの様子を見に行くんだ。エバンも一緒に来い。あの様子では明日をも知れんからな。早い方がいい」
「そんなに‥グラスリン侯爵が良ければお願いします」
そして俺は突然ではあるが王宮に行くことになった。
ちょうどいい、国王に会えれば月光水晶を返すように説得しよう。アレクの事はとにかくニルス国の存亡の危機だと伝えなくては‥
*~*~*
王宮に入るとさすがグラスリン侯爵。まあ、俺の素性はグラスリン侯爵が保証してくれるので門番に引き留められることもなく王宮内に。
グラスリン侯爵が王太子妃であるキャサリンに面会に行き一緒にアレク殿下の見舞いに訪れた。
ちょうどカトリーナが来ていて彼に治癒を施しているところだった。
「アレク殿下。お加減はいかがです。グラスリンです」
治癒を受けてすぐのところでアレク殿下は薄っすらと目を開けてこちらを向いた。
「ああ、グラスリンか。すまない心配をかけて。キャサリン?」
「アレク殿下ここにいます」
「キャサリン。ごめん心配かけて‥やっと君を‥手に‥‥入れたのに‥ゴホッゴホッ」
「アレク殿下、喋らないで‥わかっています。あなたが私を愛していることは、私もあなたを愛してる。だから頑張って‥」
「ああ‥」
「殿下。こちらはあなたの叔父にあたるエバン・チェスナット辺境伯です。王都に見えられて殿下の容体を聞いて見まいに来てくれました」
「殿下。エバン・チェスナットと申します。国王陛下とは異母兄弟でして‥」
アレクとは彼が生まれた時に一度会ったきりなので面識なないと言った方がいいだろう。
「ああ、お噂は‥ゴホッゴホッ‥すまない」
「いいんです。無理はなさいませんように‥」
無理もないと俺は苦しむ彼に手を差し伸べ彼の手を握った。冷たくてひどくやせ細っていた。
ふと俺は彼の首筋に竜の刻印を見つける。
竜の刻印がなぜ?
これは魔込石を使った証。一体誰が、もしかしてそのためにアレク殿下は病に?
「エバンが来ていると聞いたが」
そこに現れたのは異母兄で国王のアダム・ニルス国王。
「国王陛下。お久しぶりです。エバンです。この度はアレク殿下の事をお聞きして一刻も早いお見舞いをと参りました」
「お前が来たとてアレクが良くなるはずもない。が。見舞い大義であった。もう、下がっていい」
「このような時ではありますが国王陛下に少し話があります。お時間を」
「お前のような辺境の地を束ねている田舎者に用はない。辺境に帰って魔物でも倒しておれ!話など聞く耳もたん!」
「そういうわけには行きません。事は一刻を争うまで来ているんです。わが辺境に現れる魔物はキアラルダが送りこんでいると分かりました。このままではニルス国はキアラルダに滅ぼされてしまいます。月光水晶の事、今すぐにご決断を!すぐに戦争が起こります。国王、よく考えて下さい!」
「大袈裟な事を。そのような事誰も行ってはおらん。エグブランド公爵などは全く問題はないと言っておるぞ」
「国王陛下。ですがエバンの言うこともあながちうそではありません。ここはよく考えられて‥雨が続いている事もあちこちで災害が起き始めてもいます。月の女神はお怒りなのでは?」
「グラスリン!貴様まで‥今、月光水晶を手放せると思うのか?アレクはどうなる?」
「ですが‥」
国王は取り付く島もない態度だ。
俺は国王に何としても決断をと事を焦ったのかもしれない。
「聞いてください。アレク殿下の首筋を見て下さい。あれは竜の刻印。キアラルダ人が魔法を込めた魔込石を使った証なんです。辺境に現れている魔物にはあの刻印があるんです。きっとアレク殿下の病はキアラルダ帝国の策略に違いありません!」
国王の顔色が変わった。
良し!
俺は一気に畳みかけようとした。
が。いきなりカトリーナが近付いて来て何やら怪しい光を振りかけられた。
「まあ、エバン・チェスナット辺境伯様っておかしなことを仰るんですわね。そんなバカな事がある訳が。ここはニルス国でも精鋭の王国騎士団が守る王宮。そんなところにキアラルダ人が入り込めるわけがありませんわ。国王陛下どうかこんな男の話に耳を傾けられませんように‥」
「そうだろうな。やはり田舎者の言う戯言。連れて行け!」
俺は護衛騎士に連れ出されそうになった。その時胸の奥がズキンと高鳴った。
視線は離れようとするカトリーナに注がれる。
無性に彼女から離れるのが耐えられなくなって‥
「カトリーナ‥ああ、カトリーナ君と離れたくない。そばにいたいんだ。お願いだカトリーナ‥」
思ってもいない言葉が口から勝手に飛び出していた。
カトリーナを見た途端今まで感じた事もない熱い思いが溢れかえる。濁流のように押し寄せる彼女への思い。この想いを伝えたい。わかってほしい。彼女に見つめられたい。触れたい。触れられたい。
脳内はそんな焦燥感でいっぱいになった。
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