枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる

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35クリス殿下の治療


 
 重苦しい空気が漂う部屋だった。

 カーテンがひかれ部屋は薄暗くお香のような匂いが立ち込めている。

 マクリート大神官が扉を開けると医者と思われる男の人がカタンと椅子の音を立てて立ち上がった。

 「こ、これはマクリート大神官様」

 「フラン医師、聖女様をお連れした」

 マクリート大神官が私をエスコートして紹介する。

 「ははっ、伺っております。どうぞよろしくお願いします」

 彼はやせぎすの神経質そうな面持ちの人だった。殿下の治療を任されて重い重圧に打ちひしがれたみたいに目の下には酷い隈が出来ている。

 疲れ切って今にも吹けば飛ぶような身体で恭しく頭を下げられて緊張が嫌でも高まる。



 そりゃ責任重大だもんね。わかるわぁ~。それを私は引き受けようって‥やめたい。でも、そんなわけには行かないってもうわかっている。

 ふぅっと息を吐きだすとフラン医師に尋ねる。

 「それで殿下の具合はどのような症状なのでしょうか?いえ、そもそも疫病がどのような症状かも知らないので‥」

 はあ、そうだった。何も知らないまま治癒をしようだなんて自殺行為かも。

 私は挨拶もすっ飛ばして必要事項だけ尋ねていた。

 心の中で失礼だったかな。と思うが私だって緊張してるんだから仕方がない。



 「はい、この疫病は人々に空気感染するタイプのようでして、最初は咳が出てそのうち熱が出ます。その高熱が何日も続きそのうち胸に炎症が広がるようです。そうなると息が苦しくなり更に熱も高くなって次第に体力も奪われ最後には‥クリス殿下は胸に炎症が起きかなり高熱が続いておられて我々も何度も熱を下げ炎症を抑え込んできましたが、またすぐにぶり返すのです。こんな病気は今まで見たことがありません。しつこく抑え込めないのです。殿下はすでに体力も限界に近く‥すでに我々では手の尽くしようがないと思っておりました。ですが聖女様が現れた。これはもう神のお導きとしか‥」



 そんなに期待されるとすごくやりにくいわ。頑張ろうと思ってる。でも、やっぱり怖い。

 こんな時エバン様が寄り添ってくれたら‥

 もう、何考えてるのよ。そんなの無理に決まってるのに。



 クリス殿下の様子を伺う。

 顔は青白く息が苦しいのかはぁはぁと呼吸が荒い。意識は朦朧としていてその頬はこけ長く苦しんでいると思えた。

 何とか助けてあげたいと思った。

 今はその気持ちだけに集中しよう。

 彼の身体の上に手をかざし神経を集中させる。

 ぐっと手の平が温かくなり私の中で魔力が渦巻いて行く感覚。それを手の平に集めるみたいにして彼の胸の中心に手のひらを押し当てた。

 ぎゅっと閉じていた目を薄く開けると光が彼の身体を包み込んでいた。そのまま彼の中の悪いものが出て行けって願った。



 身体中の力が奪われるようでその場でふらつく。さっと手が伸びて受け止められた。

 「申し訳ありません」

 「とんでもありません。あっ、殿下!ああ、殿下の目が‥聖女様ご覧ください‥」私を抱きかかえるようにしたフラン医師が驚きの声を上げた。

 「「殿下が?」」

 大神官と私は声を揃えてそして殿下を見た。



 「フラン。のどが、かわいた‥」

 「殿下、すぐに水を」

 サイドテーブルに置かれた水差しから水をコップに注ぐフラン医師の手は震えている。

 「直ぐに知らせて来ます!」別の男性がそう言って部屋を出て行く。もう一人いたんだとやっと気づく。



 殿下が水を飲み終わるとゆっくりこちらを見た。

 「こんなに息が楽になったのは久しぶりだ」

 「殿下、ご気分はいかがです?殿下は疫病のせいでずっと高熱で苦しまれていたのですよ」

 「ああ、そうだったな。だが、嘘のように身体が楽になった。あれからずいぶんと時間が経った気がするが」

 「殿下。マクリートです。殿下もうダメかと‥良かったです。殿下が助かったのはここにおります聖女様のおかげです。聖女様のお力がなかったら殿下はきっと‥」

 殿下がゆっくりと私の方に目を向けた。まだ力ない感じがしたがそれでもはっきりと私を見ていた。

 良かった。成功したんだね。私は力なげに微笑んだ。



 「聖女‥?キアラルダに聖女が‥とにかくそばに」

 殿下が手を伸ばして来た。

 「さあ、聖女様、殿下の手を握って差し上げて下さい」

 「いえ、私はそのような事は‥」

 「お礼を言わせてくれないか」

 「お礼なんて‥」

 そう言いつつも私はマクリート大神官に手を引かれ殿下の手と繋ぎ合わされる。

 「ああ、何とか細い‥こんな手で私を助けてくれたのか。ありがとう」

 彼が目を見開きこちらを向いた。

 緋色の瞳が私を見つめる。

 「君の名は‥君も緋色の瞳じゃないか。ということは王族?こんな子見た記憶がないが」

 「‥‥」

 そりゃそうだよね。私はみんなが知らなかったお母様が産んだ国王の子供だって。

 私だって少し前まで知らなかったんだから。

 でも、殿下に何て言えばいいの?

 きょろきょろ周りを伺う。

 マクリート大神官でさえ目を反らした。

 誰も何も言えないまま時間が過ぎて行く。

 これって説明しなくていいってことだよね‥‥





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