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66あの人‥
翌日私はエバン様にプリンを食べて欲しくて作る事にした。
お城の使用人達には叔父様が話しをしてくれていてこの中ならどこに行ってもいい許可をくれた。
なので王城の調理場を借りる事にした。
服はラヴァード兄様が数枚用意してくれた中から裾が長めの小花柄のワンピースを着た。
名目はクリス殿下のお見舞いに必要だからと。
イルにも手伝ってもらってプリントミルクココアも作ろう。
調理場の隅を借りてプリンの仕度をする。
「フレイシア様卵はこれくらいでいいんです?」
「ええ、後はボウルとプリンを入れる型があればいいんだけど」
イルはすぐに近くにいた調理人にこれくらいの入れ物があるかって聞いてくれる。
そうやってプリンを作る準備を進めて行く。
さすが王城。だだ広い調理場には何人もの調理人が行ったり来たりして忙しそうに働いている。
食材を持って来る商人の出入りも多い。
その時だった。
微量だけど、肌がピリッとひりつくような魔力の気配。
私はぐるっと辺りを見回す。
あっ、あの人。少し腰の曲がった老人。でも、その立ち居振る舞いはとても老人とは思えないほど手際が良い。
重い穀類の入った袋を軽々と持ち上げスタスタと運んで行く。
私のそばを通り過ぎるときに感じた魔力は。
間違いない。この男エバン様にひどい事をした奴らの仲間だ!でも、こんな老人じゃなかった。変そうしてるの?
妙な確信にイルに合図を送る。
「イル。あの人。天狼の仲間かも」
イルの眉がきりっと上がる。目がさっとその男を追い目くばせで私に黙れと言う。
こくんと頷くとイルは身に着けていたエプロンをさっとはずし老人を装った男の後を付けて行くと指先で教える。
私も指先で私、どうすれば?
イルがこの事をラヴァードに知らせろと合図を。
うん、わかったって頷く。
老人は穀物の袋、そしてスパイスを運び終えると何事もないように調理場を出て行った。特に誰かと話をしたりするような事はしなかった。
一体何をしに来たんだろう?もしかしてまたエバン様を襲う気?でも、今がガビアン騎士隊長が直々にある意味エバン様を警護しているって聞いた。
イルが任せてと言ってと言ってたんだから。
プリンを作る事に意識を集中させよう。作ると言ってここに来たんだから急に態度を変えるとまずいかも。
必死でプリンを作りオーブンに入れると私は足早にラヴァード兄様の所に急いだ。
王城から出ることは許されていなかったので良かった。
「ラヴァード兄様話があります」
「フレイシアか。ちょうど良かった。先ほどニルス国から書簡が届いた。正式にエバン・チェスナット辺境伯をキアラルダ帝国に交渉人として送るとな。これでエバンは正式なキアラルダの客人として扱わなければならなくなる。もう、心配ないからな」
兄様が書類を持ち上げる。
「良かった。これで一安心ですね。でも、今はそれどころではないんです!天狼の一人を見つけた。イリが後を追うって‥だから早く」
「フレイシア。いいから最初から話してくれ」
私は調理場出会ったことを話す。そしてあの時天狼の男が3人いたが顔は見ていない事と倒して気を失わせたがその後のことは分からない事を話した。
「フレイシア、どうして今まで?」
「すっかり忘れてたの。エバン様の事ばかり考えてて‥ごめんなさい兄様」
「いや、怒ってるんじゃない。よく無事で‥フレイシアがあいつらを?」
「もう、あの時は必死で魔力が暴走したみたいになって気づいたらあいつら倒れてて、でも私はエバン様の事でそれどころじゃなかったから、その後意識を失くして、それですっかり‥」
「いいんだ。どうせ顔も見ていないんだ。あまり役に立ったとも思えないしな。でも、魔力で分かるとは‥さすがの天狼もそこまでは思いつかないな。フレイシアは王城から出るな。後は俺たちに任せろ。いいな」
「でも、イリがどこに行ったか分かるの?」
「出入りの商人だ。調べればどこの商会かすぐにわかる」
「そうね。お願い急いでイルに何かあったら‥」
「ああ、心配ない。あいつだってビーストハンターなんだ。腕だって確かなんだぞ。だから心配するな。それよりプリン作ってるんだろう?」
「ど、どうしてそれを?」
「そんな事‥いいから俺の分も残しとけよ。後で食べるからな。ほら、心配せずにお前はプリンを作るのが任務だぞ」
兄様は私の頭をさわさわ撫でて、くっと腰をかがめて私の目の前に顔を向ける。
無駄に顔がいい兄様。私と同じ緋色の瞳が優しく揺らいで心配ないと告げる。
優しい心使いに瞳の中がじゅわっと潤む。慌てて「もう、兄様たら食いしん坊なんだから!‥でも、ミルクココアも作るからね。気を付けて」
「ああ、ミルクココアもあるとなったら急がないとな。行って来る!」
ラヴァード兄様は煙のように消えた。
うん?転移で移動?これは相当やる気。
こんなことはしていられない。私も任務を。
この分だとプリンもう一回作らなきゃ。
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