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プロローグ

0話 オヤッサン!空から、空から女の子がああああぁ

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 極道もんが電車で組事務所に通ってちゃ悪いかい?

 朝七時に起床して八時前には電車に乗り込むんだ。
通勤ラッシュもパトラッシュも関係ないぜ。汗くせぇ中年オヤジも、化粧と防虫剤のにおいを撒き散らすオバチャンも眉一つ動かさず華麗にスルーだ。

 うるせぇ男子学生どもは一喝したくなるが、俺がやるとイジメになっちまう。
緩そうなお股おっぴろげて堂々と席に座るJK(ジャパニーズ・カス!)、さっさと目の前に立つお年寄りに席を譲りやがれ!!

 


 いつもの時間、いつもの電車に乗る。
日課になってくると定位置ができてくる。
二両目の一番うしろ側、そこに必ず乗る。

 始発からいくつかの駅を通過して、座れる席はほぼ毎日ない。
この一見つまらない通勤ラッシュにも楽しみがあるのだ。
だから、俺は車を使わない。

 この二両目には、俺の他にもう一人だけ毎日同じ場所に立つ人間がいる。
年齢はわからないが、制服や見た感じから女子高生だと思われる。
長いストレートヘアと白い肌、目がクリクリと大きい。
イマドキのJKって感じだ。ちょっとだけ普通寄りかもしれない。

 見た目はマジメそうな顔なんだが、いかんせんスカートの丈が短い。
その太ももでオス共を誘っているのかと舐めてみたい……じゃない、聞いてみたい!

 今朝も変わらず俺の隣りに乗り込んできた。
壁にもたれる俺に対し、その娘はじっと外を見つめる。
右手でつり革につかまったまま、左肩にスクールバッグを抱えている。

(ゴクリ……)

 漂うメスの香りと成熟しかけの肉体。
水上置換法、もとい鉄道痴漢走する野郎の気持ちがわからんでもない。
手を伸ばせばスカートに手を突っ込めるのだ。
どんなパンツを穿いているのか、柄は色は……
そんな妄想を広げているときだった。

 

 ドン!



 三両目のドアから急に人が入ってきた。
俺の目の前に立つ女子高生にぶつかる。反動で女子高生が俺のほうへ倒れ込む。

「きゃっ」

「大丈夫か?」

 背中からこちらへ倒れてきたせいで思わす抱えてしまった。
混んだ車両の中、周囲の視線が俺に突き刺さる。
転倒した女子学生を助けるオジサンというより、抱きついている変態に見えるのだろうか。

「痴漢!」

 誰かが声を挙げた。
すると、次にまた誰かが痴漢だと声を挙げた。
俺は咄嗟に女子高生から手を離し、首を振って否定した。

「違うんです! この人は……」

 女子高生は必死に説明しようとしている。
しかし、周囲の反応は冷ややかだ。駅長室がどうの、鉄道警察がどうのと騒ぎ始めた。

「困ったな……極道が痴漢でパクられちゃ指飛んじゃうかも」

「降りる駅、同じですよね?」

 困り顔の女子高生が俺にたずねる。
周囲から同情される側の人間が俺の身を案じてくれているらしい。
その目にはなにか強い意思が宿っていると確信した。

「ああ。花衣駅だけど?」

「逃げます」

 間もなく花衣駅に到着する。
周囲の視線は俺に突き刺さったままだが、取り押さえようとしないのは風貌のせいだろう。
背広にサングラス、胸元には金バッジを付けている。
弁護士のバッジではない。花衣組の桔梗紋である。

「逃げる!? 痴漢してねぇのにか!?」

「早く! オジサンこっち!」

 電車のドアが開くと同時に娘は俺の手を強引に引っ張って電車から脱出。
駅のホームを女子高生に連れ去られるオッサン。どんな絵ヅラなんだよ。

「ちょっと待て!! もう大丈夫だろ!? 誰も追って来ないぞ!」

「階段あがるまで安心できないよ! 早くこっち!」

 なぜ朝っぱらから女子高生と階段ダッシュをしているのだろう。
二段飛ばしで俺の先を走る娘のヒラヒラするスカートを見て考えた。

「きっつ」

 階段の中腹で一旦止まって一息つこうとした時だった。
俺の前を走っていた娘が先ほどのように背中から落ちてくる。
落ちてくるというより、降ってくる。ここは急勾配の階段だからだ。
パンツは純白の紐パンだった……

 考える暇がなかった。受け止られる体勢でもない。
転げ落ちるなら止めようはあるが、女子高生一体降ってくるのだ。
前傾姿勢で走っていたのに、その角度で落ちるのは……
――――絶対不自然である!!

 この娘は上から誰かに突き落とされた?
いや、それとも自分からムーンサルトした?

組長オヤッサン! 空から、空から女の子がああああぁ!!)
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