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異世界/出会い編
3話 視点:俺は毛色の珍しい少女に驚く。
しおりを挟む「…シグルート、そちらの状況は片付いたか?」
「地上にいる魔物は全て片付いた。空の魔物は?」
「ヴェルの活躍により、確認されている魔物は全て片付いた。」
騎龍から降りて来た第一騎士団長の報告に、心の中でほっとする。今回の任務は、魔物の討伐で空と地上でそれぞれ分かれて戦っていた。今回は数が多いが、第一騎士団で足りると巫女様が言ってたそうだ。
手応えのある魔物ならまだマシだ。だが、下級の魔物の数が多く、次々に湧いてくるので大物に慣れている我らにとっては、珍しく苦戦した。戦ってる最中に殆どの騎士が文句を言いつつ討伐する姿もそう多くない。因みに皆無傷で済ませたが、短気な性格な奴らが多いせいか、殆どの騎士が喧嘩で傷だらけだ。
ちゃんと仕事をしているのは、良いことだが。
仲裁するこっちの身にもなってほしいと、切実に思う。
「なんだ?雑魚相手に不安持って喧嘩でもあったのか??」
第一騎士団長…ヤハヴが灰色の瞳をキラキラさせながらニンマリと笑う。同期で入った仲なので、二人の時は、こうして上下関係なくお互い敬語無しで話す。
「上司じゃない俺が、何故仲裁しなきゃいけないのか…」
「俺は、上空中心に戦っていたからな、地上ならお前に任せられるし…。」
「…副長殿は?」
「アイツは、視力が化け物並みに良いから空に行かせた。」あいつはすげぇよと棒読みで賞賛する。
「しかし、雑魚相手だが、時間が掛かったな。」ふと、皆の戦い方を観察しつつ、討伐してた俺の独り言をヤハヴが拾う。
「お前は、そうでもないだろ?まるで虫けらのように掃除する狂戦士が。だが、空から見てたが、第一騎士の戦い方を見てると、集中が途切れてるヤツが多かったな…それを課題にして鍛錬でもするか。」
いい案が思い浮かんだのか、悪い顔するヤハヴ。いつもの小言に聞き流しつつ、ヤハヴが担当する鍛錬を思い出す、別に苦ではないが、こいつの鍛錬の厳しさは、有名であった。
昔、25歳で第一騎士団長を任せられた、最年少の男。
帝国騎士の出身者の中には、村や町などの人が多い中、珍しく貴族育ちで注目された男。
貴族育ちの男は、近衛騎士団に行くのが当たり前なので、そっちに行く奴らが多い。別名、月の騎士。主に城の中で巡回や、警備、王の護衛。俺達の方は、帝国騎士団と呼ばれ、別名、太陽の騎士。主に城の外の討伐や、遠征など実戦するので、戦争に駆り出される。
血の気の多い奴が多い他、村や孤児院出身などが多いので何かと野蛮扱いをされる。
変わって近衛騎士は、貴族が多いので見た目が麗しく、ご令嬢に人気だそうだ。
それをヤハヴが何を思ったのか、俺達にマナー講座を教える事になった余談もある。
「とりあえず、面倒な仕事が終わったからなぁ…」
背筋を伸ばすように体をほぐすヤハヴ。
「皆で酒でも飲んで行くか…どうだ、シグルート行くか?」
「いや、俺は一人で飲む。」
「まぁ、そんな事だろうとは思ってたがなぁ。俺の様に、容姿が良い男が少しでも居れば、酒場の女将がサービスしてくれるんだがなぁ。まぁ、ヴェルと俺でも良いだろ。」
「お前は、自己愛者か?」
「別に間違ってないだろ?ヴェル程でもないが、ご令嬢や町娘には人気あると思うが?」
お前は顔が怖いが、コアなファンもいるしな、と笑いながらヤハヴは、他の騎士の報告に呼ばれ、この場から去っていた。
▼△
夕日が沈む時間帯。
討伐終えて、城に戻る。ヤハヴに頼まれていた報告書と別の書類を書いて帝国騎士団長に渡し、鍛錬を終えたら、もう夕方になっていた。昼に軽食ですませたのを思い出し、食堂で夕食を済ませてから、宿舎に戻り、自分の部屋で晩酌をする。討伐より報告書や書類の多さに疲れが溜まった気がする。仕事の面でも上司に何かと驚かれるが、見た目で判断しないで欲しい。もう慣れたが。
いつもの酒を飲み干す。城の農園で出来た星葡萄酒。月光で育てる珍しい品種だ。朝になると果汁たっぷりの高級果物として扱われる。だが夜になれば渋味に変わる。なので、酒を作るには、夜の満月の時期に収穫する。因みに満月の日に収穫して作った酒は、とても美味で貴重な為、王室御用達のブランド酒として扱われる高級品である。夜にしか酒を作れない、作れる品種も少ないので、功績を成し遂げた者には、王から褒美として贈られる"功績の酒"と呼ばれる。
俺は、その中で、酒精強化の星葡萄酒を好む。醸造過程で酒精を添加した度数の高い星葡萄酒だ。俺は食後酒に呑む甘口系の星葡萄酒を嗜んでいた。
貴重な酒と言いつつ、功績を出している俺は、ストック5本ある。別に呑みたくなったら呑む程度なので特に理由は無い。
「…今日の月は、やけに明るい。」
ふと、窓の外の風景を見て月を眺める。月が前より強い光を放っている。巫女様は、月の明るさで予兆が分かるらしい…。この明るさも何かの予兆が起きるのかと考えてみるが、無縁なので興味が失せた。
そして、俺は、酒を嗜んだあとに眠りについた。
▼△
酒のおかげで深い眠りについた頃に、突然見知らぬ気配と俺の上で"生きてるもの"の体温に覚醒した。
俺が"領主"や上の人間だったら、俺を暗殺目的で娼婦に成りすました暗殺者か間諜だと先に考えるだろう。だが、この感じだと、無防備で脱力する。
何処から現れたのか分からないが、俺より小さいであろう"生きもの"は、目を開けなくても分かる程、辺りを見回している様だ。俺の上に載っているのに退く事もなく、きょろきょろしながら何かに警戒をしているが、俺の事が気付かないのだろうか?と思えば、息を殺す様な声音が微かに聞こえた。
俺に気付いたのだろう。気配で分かるくらい驚く生きものに、思わず見てみたいものだ。だが、相手は警戒している為、寝てるふりをしないといけない。
出来るだけ、安心させてからこの目で見てみたいものだ。無防備で突然現れた謎の生きものを。
少し経ったが、生きものは、相変わらず警戒を解かない。もしかしたら、俺を起こさないようにしているのだろう。だが、僅かな動きと気配でもうバレている。
生きものが俺をジッと見ているが、何に驚いているのかが分からなかった。そして、生き物が俺から視線を外せば、俺もゆっくり目を開く。
夜に慣れている俺の目に映ったのは、見たことない色だった。窓から月光が照らされている部屋の中に、ポツンと黒い闇があった。書斎で読んだことある。その本の内容に書いてあった、ある生きものの特徴が合点した。あれは"魔族"だ。
初めて見た。
黒曜石の様な真っ黒な長い髪に人と同じ肌の色。横顔なので、瞳の色が分かりにくいが、月光で反射された星空の様な瞳の色が美しかった。服装はこの国に無い珍しい素材だ。上下黒の衣服を見に包んで、しかも体の曲線が分かる服装だ。見た目からして子供の様だが、曲線が象徴された服装のせいか、妖しく感じる。
魔族は、この国の人間が持たない"黒"を持ち、滅多に人の前には現れない珍しい生きものだ。色を変えて人間に紛れ込んで生活してる者もいたり、獣のように生活する者もいたりと、多種多様な姿を持つらしい。だから本当の姿は誰も知らない。彼らの消息も不明で謎の生物と記載されていた。。
目の前の少女は、魔族だと思うが、全身黒を身に付けて不思議な雰囲気を持つ。俺も魔族を初めて見て驚いている。しかも、俺の目の前でだ。謎が多いから人々は恐れられている生きもの。
声を掛けて見たが、少女の驚きは恐怖の色に変わってしまった。流石に不味かったか?寝起きの顔の俺は恐ろしいとヴェルダンに言われた様な気がするが、そのせいなのか?
そして、俺の声に驚いた少女は、慌ててベッドから転げるようにドアから逃げ出した。
呆気ない逃げ方に思わず気が抜けたが、心配になったので、扉に向かって開ければ少女の気配は消えていた。
そう言えば、少女の瞳の色は、"黒かった"な。
そして、不思議な出会いをした少女に、俺はまた出会う事になるとは、その時は、思ってもなかった。
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