騎士団宿舎に住む黒猫

teeto

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異世界/出会い編

5話 二度目の再会。

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私は痛む足を無視しながら、がむしゃらに走った。


まさか、そんなに近くにいるとは思ってもなかった。
音も声も聞こえなかった。だが、悪臭だけは酷かっただけなのだ。そして、私はハッとする。
一体だけかと思ったら、もしかしたら、二体いたのでは??

何でそこまで考えなかったのだろうか…私は馬鹿だ。


「…っ痛。」



小枝が私の腕を切り裂く。
服はもうボロボロだ。だが、そんな事は関係無い。
逃げなければ、逃げなけれ化け物に殺されてしまう。



                        ▼△




 数分前、化け物は気配を隠していたのか、ゆっくり私の目の前に現れた。顔はまるでライオンだが、無数の目が顔半分覆い尽くしている。体は、象の様だが、無数の刺が背中から生えている。足は鋭い爪を持ち、尻尾は、まるで蜥蜴のようだ。口から煙のような息を吐けば、悪臭。頭が混乱しそうで吐き気がする。
男の呻き声と獣の鳴き声を合わせた声で吠えた。


そして、化け物は、無数の目をギョロッとさせて私に視線を捕らえた。


流石にヤバいと思って思わず逃げようとしたら、化け物が前足の鋭い爪を私に目掛けて振り下ろした。



「…いっ。」



間一髪。避けられた、右足の脹脛ふくらはぎに大きな擦り傷が出来た。命拾いした私は、その隙に逃げた。




そして今現在。
足が遅いと思った化け物は、大地を震わせながらこちらに向かって走っている。揺れる大地に私は恐怖心が上がって心臓が痛い。



見たことない化け物だった。やはり此処は異世界なのだ。思わず視界が涙でボヤける。



叫ばなかった自分は、偉いと褒めたいが、化け物は、追いかけながら吠える。多分仲間を呼んでいるのだろう。私は、生きて帰れるのだろうか?こんな状況だとネガティヴな事しか考えられない。もう、体力が限界になりそうだ。誰も助けてくれないこの状況。運は私を味方にしてくれなかった。このまま殺されて死ぬのだろうか?



「…うわっ!!」



足元を見てなかった。木の根っこにつまづいてしまった。化け物が近付いてくる。死にたくない。此処で死にたくない。もう、涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
足が震えて力が出ない。動かなきゃ。立ち上がって走らなければ…。



恐怖と絶望の中、どうにか立ち上がって走った。こんな状況でも走れる自分は凄いと心の中で苦笑した。



木々がどんどん倒れていく。化け物が追い掛けてくる。出来るだけ障害物になる木を目掛けて走っては避けての繰り返しをしていたが、あまり意味がなかった。そして、がむしゃらに走れば、やっと道を見つけることが出来た。後はこの道を目掛けて走れば…!!



だが、私の目の前に化け物が現れた。多分、化け物が呼んだ仲間だ。最悪だ、これでは、逃げ場が無い。前も後ろも囲まれたら、もうこれは、死ぬしかない運命なのか。



「…誰か助けて!!!!」



私は思わず叫んだ。悲鳴に近い声で思いっきり叫んだ。化け物が近寄ってくる。まるで今の状況を楽しんでいるかのようだ。



後ろから間も無く化け物が来るだろう。



混乱と体の限界で動けない。



目の前の恐怖に動けない。



もうダメかと、目を閉じ、化け物が私に目掛けて爪を振り下ろそうとした瞬間。大きな影が化け物の首と前足を瞬時に切り落とし、横に蹴っ飛ばした。音に吃驚し、直ぐ目を開けたが、何が起きたのか分からない。



そして、切られた首元から血が噴水の様に噴射しながら前に倒れてくる前に、大きな影は私を抱えてマントで頭ごと覆い隠し、後ろから来る化け物の気配を察したのか、私を抱えたまま現れた化け物目掛けて、もう片方の手に持つ大きな剣を顔にぶっ刺し、器用に上に飛び乗り、瞬時に顔から引っこ抜いて、首に目掛けて深々と刺した。
化け物が暴れる前に瞬時に殺した大きな影…いや、大きな男。剣を抜いて、化け物の首から勢いよく血が噴射する前に、男は器用にマントで私を隠した。




そして、倒れる化け物から軽々と着地して、私を下ろした。男は体中、血を浴びたせいでとても恐ろしかった。そして、その男を私は見た事があった。



夜中に出会ったのが、正しいのか分からないが、あのイケメン軍人さんだ。




私は、またの恐怖を味わうが、今倒した化け物が死んだ事に安堵した。そして生きてる事に、体が震えて思わず力が抜けて地面に座る。



『…大丈夫か?』



低い安心させる様な優しい声が頭上で聞こえる。

多分心配してくれてるのだろうか?何を言ってるのか分からないが、今の状況だとそんな感じだと思う。



『この子、大丈夫だった?』



また誰かが来る。イケメン軍人さんよりも背は低い、いや、彼基準に考えるのが可笑しいのだと思う。もう一人の男は、多分180以上ある長身。陽の光でキラキラ輝く美しい金髪に、優しそうな水色の瞳と長い睫毛、キリッとした眉毛に高い鼻筋、薄い唇からチラリと見える白い歯、外見からしてまるで王子様の様だ。柔和な顔立ちで、人を安心させる様な雰囲気を持つ。



『ヴェル。流石に、大型の魔物を二体相手に追い掛けられたものだから、相当のトラウマを植え付けられただろう。』


『…それは、俺でもトラウマになるね。しかも森で出会ったら、厄介で最悪の魔物、"腐臭のレウテムボ"だからなぁ…それをシグが簡単に倒すからさ、コイツって弱いのか?って勘違いするよ。』



王子(勝手に命名)が魔物を嫌そうな目で見る。もしかしたら相当ヤバいものだったのか。私は、取り敢えず落ち着こうと深呼吸しようとしたら、悪臭に思わず鼻と口を押さえた。



『…あ、大丈夫!?俺らは慣れてるから良いけど、流石にこの状況は、キツイよね。』



また、何か言われたが全く理解出来ない。
王子を見て首を傾げると、隣のイケメン軍人さんがそれに気付いた。


『…通じてないのか?』



『…え?まさか、言葉通じてないの?魔族だから?』



驚く男二人に、私は取り敢えず頭を下げて、お礼を言う。


「あの、助けて、頂きありがとう、ございます。」



『何か言っている。もしかしたら、お礼してるのか?』


『これは、不味いね…てか、この子どうするの?流石にこの場で返すのも駄目だし、酷い怪我をしてる。魔族なんて初めて見たからどう扱えば良いのかも分からない。』



『本で調べた事がある。魔族は姿形を変えて生活してると聞くから、この幼子は、森で動物として暮らして居たと思う。だが、何らかの事情で人間の姿に変えて行動していたら、魔物が現れたと分析してみたが…』



『こんな危険な森にまず、人は来ないからね。それが妥当な答えかもしれないね。そして、恐怖で元の姿に戻れない感じなのかな?』



私がお礼を言えば、王子が頭を撫でながらにっこり微笑む。その後に、二人で何か会話をしている。
それにしても、頭を撫でられるなんて…そんなに幼い行動を取っていたのだろうか?とても恥ずかしい。
二人の見た目から私より歳上な気がする。現代に居たらまさにデキる男のイメージが強い。だが、イケメン軍人さんは、軍人にしか見えない。それも鬼とか部下に言われそう。そんなどうでもいい事を考えてたらハッとする。なに猶予な事をしているのか、王子は兎も角、隣の軍人イケメンは、夜中に不法侵入したのだ。
悪意があった理由じゃないが、あれは流石に駄目だ。



その事を考えたら段々落ち着いて来た。
どうしよう、これは、逃げるべきなのだろうか…?
だが、逃げようとしても今の状況だと私は、走る気力もない。これは、バッドエンド??今さっき、絶望を体験したばかりなので嫌な方向しか進まない。


『…おい、大丈夫か?』


イケメン軍人さんが、私に触れようとしたら思わずビクッとした。それに気付いたイケメン軍人さんは、ゆっくりと手を下ろす。


『その前に、シグ。お前は血塗れだ。洗った方がいい。』


王子が左を指しながら言う。


『あぁ、そうだな。』


無表情だが、淡々と喋るイケメン軍人さん。何だか哀愁を感じる。私も流石に何か申し訳ない事をしたのかと彼の汚れてない裾を掴む。


『……。』


「……………。」


いや、なんで裾を掴んだの私は!?
咄嗟な判断がいけなかった、流石にこれは子供みたいだ。羞恥で真っ赤になる。それをジッと見ていたイケメン軍人さん。そして視線から外し王子を見る。


『…幼子を宿舎に連れて面倒を見る』


『…は?』


『…小さくて、か弱い幼子だ。此処はもう危険な場所だ。流石に一人にするのは、可哀想だろう?』


『…あっ、うん。そうだね。』


『しかも、傷だらけで見てられない。体力が回復するまで俺が面倒を見る。』


『(また、シグの保護癖始まったけど、これは大丈夫なのか?)』


真面目な顔で言うイケメン軍人さんと、若干呆れた目で見る王子。そして、イケメン軍人は、私の掴む裾をゆっくり離してから『水浴びしてくる。すぐ戻る』
と何やら話してから一瞬で姿を消した。












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