騎士団宿舎に住む黒猫

異世界/出会い編

閑話:赤い男との雑談。

※主人公と出会う前の話。







俺の前には、いつも長い髪を三つ編みにしてひと房に纏める男が、珍しく解いていた。

そしていつもの酒場で飲んで、いつもの様に女2人を両手に抱いている。


｢おい、俺と飲む時はそれを止めてくれ。｣


｢なんだぁ？おまぇ、俺に嫉妬してるのかぁ？｣


相当呑んだのか、酔っているヤハヴは、女2人を自分の肩に押し付けて上機嫌だ。女も良い男に抱かれて嬉しそうに肩に擦り寄せている。


｢お前に嫉妬する意味が分からないが…今からつまらない話をするから、女をどうにかしてくれ。｣


｢つまらない話ねぇ…｣


仕方がねぇなぁと頭を掻きながら、女2人の唇にキスした後に、｢また誘う｣と手の甲にもキスする。
きゃあと騒ぐ女2人に俺はため息を吐く。


｢…香水臭い。よくお前は耐えられるな？｣


｢香水は、女の武器だぜ？男を酔わせて気分を上げて後は…分かるだろ？｣


にやっと笑いながら、下唇を舐めとる。
女癖が激しいヤハヴだが、仕事は出来るので強く言い出せない。貴族なのに女遊びが激しいから、少し心配だ。

｢んで、お前が言う。つまらない話とはなんだ？｣


｢ある宗教団体が、人体実験を行ってるそうだ。｣


｢人体実験だと？｣


｢人間に従う魔族を生み出そうとしている。｣


｢なんだ、その阿呆みたいな事をしてる奴らは？｣


｢まだ、確信はしてない。だが、これ以上ここでは言えない内容だ。｣


｢魔族ねぇ…人間と別に変わらねぇのに…奴隷扱いかよ。｣


俺の内容に酔いが醒めたのか、嫌な顔しながら舌打ちする。昔と比べて随分と口調と態度が悪くなったと内心思う。


｢てかよぉ。そのつまらない話は何処から？｣


｢"美しき乙女の涙は"｣


｢"儚い花にと変わった"…あぁ、情報屋か。｣


叙事詩の様な台詞が合言葉の風変わりな情報屋。
神出鬼没で性別不明。魔族を心酔している以外、何も知らない謎めいた人物だ。情報屋を探すのにも苦労するが…俺の場合、運が良かったのか…此方から来たのだ。俺の噂を聞きつけて。


｢よく、情報屋を見つけられたな？｣


｢情報屋が俺に会いたかったらしい。｣


｢あぁ…"黒い獣"って事か？｣


｢情報屋からの情報だと、"本人"は相当嫌がってるそうだ。｣


｢あの、"黒狼"とも出会ってるのか？情報屋は何者だ？｣


｢さぁな？俺は知らない。｣


黒狼、別名"黒の守護獸"。
何処かの森の番人をしている大きな黒い狼。
魔族ではないのか？と言われているが、人間嫌いで人を容赦無く襲うらしく、魔物ではないかと噂されている。会ったこともないので、伝説に近い存在だ。
そんな黒狼がまるで俺のようだと、誰かが言ったことから、黒狼の異名から取ってそう呼ばれている。


｢話が脱線したが、お前は飛ぶのか？｣


｢飛ぶつもりだ。｣


｢…そうか、"夜梟"やきょうが飛ぶのか…。｣


｢朝日が昇る時間に目を閉じるだろう。｣


｢目を閉じる前に鴉に殺されるなよ？｣


｢…狼になって咬み殺すさ。｣


｢クックッ、恐ろしいな。｣


二人しか分からない言葉遊びをして、不敵な笑みで笑う俺達は、酒を嗜んだ。


｢(もし、成功すれば…)｣


もし、成功すれば戦闘兵器と言う道具になるだろう。
その前に、宗教団体と裏を仕切る親玉を消すだけだ。証拠を掴めばこっちのものだ。


｢(面倒な事にならない事を祈るか…)｣


ヤバヴがまた、好みの女を見つけて呼ぶ姿に溜め息吐きながら、俺はこっそり帰ることにした。