社畜もなかなか悪くない

ふくろう

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4章 そして事件は起こった

激昂する取引先

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そして翌日、出勤した直後に勃発したのは、冒頭の「新規得意先・500万の注文ドタキャン事件」という訳だ。

おれは淹れたてのコーヒーを置き、放心状態の安藤に近づいた。

「安藤、テンション下げるのは後だ。まずは状況確認しろ」

安藤は力なくうなずくと、携帯を取り出してコールした。

「お世話になっております、北大阪パイプの安藤と申しますが…」

俺は安藤の隣に座って、彼が電話する様子を見つめる。

隣にいたところで何をできる訳でもないが、安藤の様子でどんな話をしているかを察することはできる。

担当者と話し始めた安藤は、突然狼狽し始めた。

かすかに受話器から怒鳴り声が漏れてくるのが聞こえる。

内容までは分からなかったが、確かに事務の女の子が言う通り、激しい剣幕のようだ。

「はい、確かに仰ることは分かるのですが、こちらでも確認をさせて頂いておりますので…、あ、いえ、御社だけが悪いのではないのですが…」

どうやら相手は相当感情的になっている。

このまま電話で話しても埒が明かないと判断し、おれはメモで「今日訪問しろ」と指示を出した。

安藤がその旨を相手に伝えると、何とか通話を終えることができたようだ。

深いため息とともに携帯を机に置いた。

「えらい剣幕みたいだな」
「こんなこと始めてです…」

安藤はガクッとうつむく。

おれも客先から怒鳴られたことは何度かあるが、500万を間に挟んでの攻防は経験がない。

「それで、何を怒ってるんだ?」
「発注書には溶接管って書いてあるんですが、値段がやけに高くて、気前のいいお客さんだな~と思っていたんですけど、さっきの相手の話だと、全部シームレスの注文のはずだって」

ステンレスパイプといっても数種類ある。

一般的なパイプは溶接管と言い、ステンレスの板を丸めて筒状にし、継ぎ目を溶接して作られる。

それに対してシームレス管というのは、文字通り溶接した部分がないパイプで、溶接管よりも強度がある分、値段が高い。

溶接管よりも高い値段なので、業界の人間ならば値段を見れば、その注文が溶接管かシームレス管かは分かる。

「注文書は?」

安藤から受け取った、客先からの注文書を見ると、確かに溶接管が数十本、様々な長さや太さのものが記載されている。

一応こちらの手落ちではない。

しかし確かに値段は溶接管のそれではなく、シームレス管で妥当と言える値段だった。

「この値段については、先方と何か話したのか?向こうも素人じゃないんだから、相場くらい分かるはずだろ?」
「それは…」
「話してないのか?」
「このままでいいんだろうと思って…」

どうやら安藤は、利益に目がくらんで確認を怠ったようだ。

通常、今まで取引のなかった新しい顧客が注文してくるときは、こんなに大口の注文ではない。

試しに使ってみるかという程度の、数千円ほどの小額注文が来ることが普通だ。

全く実績も信頼もない相手に、通常より高い相場で大量発注すること自体が異例だ。

さらに悪いとに、注文されたパイプは折り曲げや切断などの加工がほとんどのパイプに加えられており、発注がキャンセルされても在庫に戻すことができない。

つまり、全てゴミになってしまうのだ。
500万円分のパイプが全て、である。

本来は綿密な確認が欠かせない注文のはずなのだが…この会社の未来を見ていない安藤にとっては、大したことではないと映ってしまったらしい。

「係長、支店長がお呼びですけど…」

事務の女の子が、おずおずとおれに報告する。

「早速来なすったかぁ。安藤、行くぞ」

座り込んで地蔵のようになっている安藤を立たせ、おれたちは支店長室へ向かった。
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