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変われたら、それでよかったby少年R
しおりを挟むこれは、俺こと高谷嶺……いや、『カナヴァ』がこのファンタジー溢れる世界で少し有名なるまでの物語になる
いや、そうなっていて欲しいと若干希望している
なにせ、現実の俺は至極つまらない人間なのだから
こういう所で俺のカッコイイ所を見せられたら、だなんて考えている。
リアルの俺を知っている唯一のパーティーを組んだアイツはそれなりに有名な奴で、絶対アイツの前では言わないが「カッコイイ」
リアルでは他人前だと暗いイメージの奴だからな、いや元からギャップがありすぎて風邪を引きそうになるけどな
……そもそも、俺をあんなにイカれたゲームに誘ってくれたのアイツだった
だから、これはーーーー
ーーーーどうしようもなく残念な俺を変えた一種の物語だ
『青年の記録本裏表紙に記載してあった一文より抜粋』
春
高校生になれば、何かが変わると思っていた。
漫画、アニメだって、ライトノベルだってそこに出てきた奴らはみんなみんな、変わっていった
ならば、この俺にもそんな機会が与えられる筈だとどこかで信じて疑わなかった。
二次元の、非現実の見過ぎだ。と誰かに笑われた事もあった。それでも信じた
でも結局、そんな事なかったし起きなかった
分かっていたよ。変人奇人でも美少女が突然やってきてそんな子が作った部活に突然入れされるなんて事も、とんでもない奴が突然やってきて日常が非日常になる事も無いんだって!俺には幼馴染がいるがそいつがとんでもないことに巻き込まれることも無かった(あったらあったで内容によっては俺は泣くが)!
それでも、まだ何処かで『俺を変えてくれる存在』を望んでいたんだ!
はぁ、と思わず溜息をついてしまう
だってそうだろ?こんな歳になるまで俺はそんなくだらなさすぎることを強く望んでいたんだ
それに、そんなことはちょっと考えるだけでもあり得ない事だと分かってしまうのに。寧ろ幼馴染がいるだけでもありがたいと思うべきなのか?
もう四月は下旬を迎えていて、クラスの中でもグループが形成されていった。
そんな中俺は、ただ一人ポツリと放課後に無断で立ち入り禁止の屋上で溜息を零す毎日を送っている。
部活に入ろうと見学をしているのだが、結局それだけに終わっている。
「あーあ……どっかに俺を変えてくれるモンはねぇかなぁ……」
目を閉じてそう思うだけ願った
なんでもいい。いや、ヤバイのはダメだがそれ以外ならば。俺を、いい方面で変えてくれるのがあればそれだけが……一つ
人、という漢字は支え合って出来ているとクサイ台詞があるが、もし本当にそうならば「運命の相手」ではなく「運命の何か」があって支えられているんだと思う。そして、それを見つけた人間は周囲から輝いて見えるのだと日に日に俺はそう思えてきた
けれど、その「運命の何か」に出会えた人間はきっと一握りの砂粒より少ないのだろう。
それでも……その確率が低くても
「いやいや、それはないでしょ」
そして続く様にわはは、と笑う声に俺は閉じていた目をこれ以上あるものかと見開いた。
横になっている身体を反射的に起こして幻聴のように思えたその声の主を見逃さないように、ただ、それだけだった
ついに、俺を変えてくれる奴が来てくれたのか?
だって、その言い様はまるで俺を変えてくれる奴の様に思えたのだから。てか、そうじゃないのならばなんだお前ってなるだろう。
「なーにしとんの?嶺」
そして、目が点になった。
声の主である、少しデブ………………いや、違う。少々膨よかな体型の女子生徒には凄く、すごーく見覚えがあった。いや、うん、声で気づくべきであった
期待していた分、落ち込みの落差が激しい。上がっていた肩が勢いよく落ちた
その様子の俺を見てか(いや、絶対にそうなのだが)なんだなんだ?と笑う女子生徒こと、幼稚園から幼馴染の綾坂真昼は二つ持っていた鞄の片方を俺に投げた。すかさずに俺は自分の鞄と認識し受け取る。
「もう、部活動も終わって下校時刻だよ
そろそろ帰らなくてどーすんの?」
「マジか」
「マジもマジ。本気と書いてマジと呼べるレベルよ」
…………そうか、そんなに時間が経っていたのか
そこまで居座った気はしなかったのだが、と俺は暮れかけの夕日に目を向ける。
真昼は俺と幼馴染の関係にある為、こんな風に俺を迎えにきて一緒に帰ることもぼちぼちだがある
(実はもう一人幼馴染がいるのだが生憎そいつは俺達とは別の学校に進学した。ちなみに男である)
幼馴染でも男女が一緒に帰っていれば、学校の奴らだとかに笑われないか?と思う人もいるだろう。
実際、中学時代に帰宅の道中、同じ学校の連中に一緒に帰っている場面を見られ「付き合っているのか」と笑われた事があるが、そんなことはキレたら怖いで有名の真昼がそいつらをひっぱたいて(穏便な表現)黙らせてからそれ以降無くなった。ちなみに、それが有名になった原因である。
余談だが、日々が過ぎていく中で真昼に男気が増してきてしまい、とうとうある日には登校途中に電車で痴漢にあっていた女性を助けその人に惚れられたとも聞いた(ちなみにその容疑者の痴漢は無事にお縄に掛かったとも)。
その女性には残念だが、自分はノーマルなために丁重にお断りしその日はつつがなく登校した、と笑い話の様に語った真昼に苦笑いを零した俺の気持ちを察して欲しい。見た目とやる事の違いの差が広がり過ぎだ。お願いだからもう少し女の子らしさを取り戻してくれ……将来が心配だから
「……なぁ、嶺
お前、学校楽しくないのか?」
学校から家へと足を動かす中、唐突に真昼は俺にそう尋ねた。
別につまらなくはない、と伝えようと口を動かそうとするが本心ではそう思っていないせいで出せなかった。昔から、馬鹿であるが故に「本気」で心配をする真昼には嘘をつけられなかった。本当に最近の若者の中でも珍しい性格の部類だと思う。
つけられない理由は、簡単に人を信じてしまう事と昔から可愛いわけでもなく極めて平均かそれ以下の残念な人間だと知っているからこそでもあった。もし真昼が美少女であろうものならば手に入れる為に簡単に嘘をつくだろう。そして、もう一人の幼馴染と三人で一緒にゲームをする中でも真昼は弱かったこと。負けてはよく泣いて暴れる真昼を宥めるのは骨の折れる事だった……けれど、真昼が弱いおかげで自尊心が傷つけられずそして宥めることによって何かの優越感が生まれる……うん、第三者の目線から見れば、最低だ。前に自身を振り返った時にそう思った
そんなこともあって、一つ俺は真昼に対して絶対にしてないことがしてある。それが「嘘はつかない」だった。
「学校が、というかさ、何時もの日常がなんか、つまらなく思えてきた」
「へぇ……でも、そんな何時もの日常が大事なんだって、漫画とかアニメではよく言うけどねぇ」
「けど、実際そう思わないか?
「何時もの何気ない日常が大事」だなんて、きっとそうなった人間だけが言えることだ。
確かに、この日常は良い事なんだよな。メシは三食食えるし、誰かに殺される事もほとんどない。住む家があって、勉学も義務とはいえキチンと学べて、娯楽という娯楽を作ったり遊ぶ事が出来て……
でもさ、そんなんでも、退屈なんだよな。ある国の奴から見れば、羨ましいの限りに尽きるって言われる。それでもさ、やっぱ、退屈なんだよ」
と、本心を言い切ってしまう
はっと、気づけばもう後の祭りで、俺は公衆行き交う路地でとんでもない事を口に出していたのではと思った。
けれど、そんな俺を気にする視線は何処にもあらず素通りしていく
変な緊張と羞恥から足を止めて俯く俺に気づいた真昼は置いていきそうになった俺の前まで歩きそして足を止め「大丈夫か」とも言わずに寧ろ、うーむと考えている声を漏らした。
そして「よし」と独り言を零した後
「ならさ、嶺にオススメのゲームを教えるよ」
と、告げた。
思わず疑問の音を零した俺が俯いた顔を上げてみれば、そこには「何か企んでます」と顔に書いてある幼馴染の姿があった。
「よし、そうとなったら進路変更!私の家までBダッシュだ!」
「ちょ、わわっ!?」
真昼の男の力にも決して劣らない(いや上回っているのでは)力で俺は袖を引っぱられながら数年ぶりに彼女の家を訪れたのだった。
これが残念な俺を変える第一歩となるのだ
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