2 / 3
第一歩
しおりを挟む四月二十七日
今日は色々な意味で大変な1日だった。
こんな夜遅くまでゲームしたのは久しぶりだったし、真昼の家に遊びに行ったのも随分と久しぶりだった。
ゲームの感想を書く前に誰も見ないだろうから一つ書かせてもらうが
いや本当、女っ気が無い部屋だった
幼馴染として言わせてもらうがアレは無い。もう少し何とかならなかったのか?本当に将来大丈夫なのかアイツ、良い奴なのにホント残念すぎる……
(中略)
さて、本題のゲームの感想だが
アイツが誘ってくれたのは比較的有名なオンラインゲームだったらしくーー
『青年の記録本1ページ一部を抜粋』
「はーい、到着到着~」
俺は真昼の力に反抗するも叶わず。そのまま、彼女の家の玄関まで着いた。いや、着いてしまった
昔から変な頑固さがある真昼は我気にせずと言うかのように、呑気に「ただいマンボ~ウ」と告げている。ネタが古い。一体いつのネタなんだそれは!と突っ込みたいが、既にそんな気力は何処にも無かった心に留めておく、完敗だ。チクショウ……
「ほら」と無理やり靴を脱がされ、そのまま真昼の部屋に入らされる。女の子の部屋に入るのは流石に抵抗があったが部屋の全貌を見た瞬間そんな事は何処かへと吹き飛んだ
ーーなんだ、この部屋
部屋の壁という壁が本がぎっしりといれてある本棚で埋められている。
よく見れば、ほぼほぼ漫画本だ。あ、でも一部小説があるな……
そして、一番目を引くのは勉強机と、机に隣接するベッドだった。いや、詳しくいうのであればそこにある機材だった
机に置いてあるノートパソコンまでは、まだ分かる。全然分かるとも!って違う!違うのだ。何といえばいい?どう表現をすれば良い?
パソコンからベットに伸びた白いコードを目線で追うと、ゲームやアニメでよく見たことのある様なヘッドフォンに目を覆うような何かがついてある機械?が置いてあった。
ーーカオス、カオスだ。
かつて、この部屋は、可愛らしい人形で溢れていた。いや溢れていたはずだ!
一体全体、何があったらあの女の子の部屋だったここがこんないかにも危なさそうな近未来の部屋と化したというのだろうか!?
思わずこの部屋の主を瞠目し続ければ、主は気にせず机の下に置いてある少しだけ埃を被った何かの段ボールを引き出していた。
「あちゃあ、埃被ってるかぁ……まぁ、引き出すのも久しぶりだしなぁ
ーーと、いうわけで!」
振り返った真昼の顔は段ボールから白い機材を差し出てきて、それに視線を向ければ真昼のベッドの上に置いてあるそれと同じだった。
まさか、とは思った
もうこの状況では確定事項なのだろう。ニヤケ顔の真昼を前に俺の胸中は何とも言えない気持ちで一杯だった。
「一緒にゲームしようぜ!」
ああ、やはりーー
このアヤシさ満点のコレは『ゲーム』をするためのであった
何拍か置いて俺はUターンを決めた
今日見た事考えたこと、すべてを忘れよう。帰って母親自作のご飯を食べて風呂に入り、学校の宿題を終わらせてそして、明日になって何事もなかったかのようにこの幼馴染と下らない会話をしよう。そうしよう…………
しかし、虚しいかな。俺にはそれを叶える術はなかったようだ。ここに着いてしまった時点で悟るべきだったのだ
俺は、幼馴染・真昼にはこういう時にこそ勝てないのだとーー
「こらこら、なーにしてんのお前」
「帰らせて……いつも幼馴染が女っ気が無くてむしろ自分より男気溢れていることにさえ嘆いているのに、こんな怪しさ満載のゲームをしているなんて……俺は……俺は」
「なーにいってんだ、オマエ?
それより、ほら!丁度一つ余ってたんだからやりなよ!このゲームめっちゃ面白いからさ!」
うっうっ、もうやめてくれ幼馴染。俺のライフはもうゼロなんだ……
そんな俺の泣き言を、残酷にも聞き入れずむしろ俺に何かを被せた。間違いなくあのヤバイゲーム機?だろう。
「ちょ、おま、ヤメロ!」
「お客さん、そんなに暴れちゃあいけませんぜ……」
「そうさせているのは何処のどいつだよ!?」
胡散臭そうな店主みたいな台詞を言う真昼にキレた俺はブン、と腕を振った。勿論空を切る
それを見かねたのか何なのか、真昼は少し息を飲んだ後
「あぁ、もう落ち着きなって!
そろそろゲーム画面が見えるでしょう!?」
と、キレた
いや、怒ってるのこっちなんですけどと内心で突っ込んだら僅かばかり落ち着きを取り戻した。
そのおかげか、怪しいゲーム機を被されたのにも関わらず視界が明るいことに気づいた。ヴゥ……と機械独特の音が聞こえてきて緊張の色が見えてきたが次の瞬間
「……え?」
パッと、景色が変わって見たことのない世界に俺はいた
「え、ちょ、ちょちょちょ!?」
今まで胸中を支配していた緊張ではなく、突然現れた驚きが膨大していった。
俺はさっきまで近未来風の見てはいけない部屋に居たはずだ。それがどうして、いきなりこんな場所にいるのだろうか!
最近よく見る、異世界トリップというやつなのか!?と驚いていると「んなわけあるかーい」と気の抜けた真昼の声が聞こえた。
「だから、ゲームって言ったじゃん!人の話を聞けよな!まぁ、私も最初嶺並みに驚いたけどね」
「お、おい……これ、なんだよ!?」
「だからゲームだって……オンラインの」
「オンラインんん!?」
そーだよ、と真昼の声がする。聞こえ方がまるで世界の外側から聞こえてくるようでなんだか面白いし、それがまた俺が異世界にトリップしたのではという感覚を強くした。
マジか、こんなオンラインゲーム初めてみたぞ……!?
胸の辺りがさっきから感情の変化で忙しい。
ドッドッと脈打つ音までもが聞こえてくる
「な、なぁ、これどうやって動かすんだよ!」
居ても立っても居られない。興奮が収まらないのだ。こんな、こんな簡単につまらない世の中から脱する方法があっただなんて!
怪しさ満載のゲーム機だなんて思ってすまない!超面白いかもしれない!
逸る気持ちは抑えきれず、見えないのにも関わらず真昼がいる場所をなんとなく察知して手に持っているだろうコントローラーを奪い取ったのだ。
「……操作方法は極めて単純だよ」
真昼の指示通りに動かし、俺の気持ちは間違いなく浮き足立つ。
動いている!俺が異世界で歩いている!歩いている時も妙にリアルっぽいからそこがまたたまらなかった。視界はコントローラーでも動かせるが、首を動かしても動くようでそんな所もたまらなかった
ーー求めていたものはこんなにも近くにあったのかと俺は無意識に笑っていた
ある場所にて川が流れていたのを見つけた
俺は自分の姿が見れる、とゲームの世界にも関わらずに足を早めた
結論から言えば、自身の姿は想定通り見えた
「……嶺。水を差すようで悪いんだけどさ、今の君の姿ね」
そして、愕然とした
ストレートのパッツンの前髪、後ろで一つに結わえた髪……そして下にはスカート
つまり言いたいのは
「女の子、だよ」
沈黙が流れ三拍後
綾坂家で「うわあああぁぁぁ…………」と男子高校生の悲鳴が響いたのだった
「おい、これどういうこと!?
なんで俺、女なの!?」
「いや、だってそれ私のアバターだし」
「変更は!?」
「無理っすねぇ」
中身は男で外見女って……!なんだよそれ、見た目は子供という決まり文句から始まるあの有名アニメかよ!嫌だわ、そんなの!
ここまで内心で言い切った俺は変更の仕様がないと言われ、大ダメージを食らった。ここまでに何度カウンターパンチをくらったのだろうか。その殆どはきっと俺が勝手にそういうフラグを立ててしまったせいでもあるのかもしれないが
申し訳ないが、女の格好してゲームをするのは残念ながら俺には出来ない。出来る奴はできるのだろうが、俺はそういうのがめっぽうできない人間だった。気のしすぎだとは思うが、生理的に無理なのだろう
「ならさ、自分のアバター作れば?」
「……作れるのか!?」
バッ、と希望のお言葉を聞いた。聞き逃さなかったとも
自身のアバターが作れるのならばそれに越したことはない!むしろ、出来るならば自分の分身を作りたいと思うのは俺の中では当然だった。
すると、ポンと機械越しに頭に手を置かれた
「うん、ただしアバターはこの機械に一体だけなんだ」
「コレか……」
間違いなく高い。確信めいたものが俺の内にあった
覚悟して、せめてお値段だけでも聞こうと言葉を発するより先に真昼が口を開いた
「と、いうわけで
嶺にこの機械を…………と言いたい所なんだけどさ、この機械ってお高いモノなんだわ。悪いけど貸し出しになる……」
「マジで!?」
俺の驚きように、うわっと声を零した真昼は「うん、貸すだけだけどね」と言った。
その言葉に俺は、足先から背中まで鳥肌が立ったかのように震えた
貸すだけでもありがたい、と俺は伝えた
すると後からそっか、と笑う真昼の声がしたのだった。
「それじゃあ、貸すのはアバター制作に時間を食らうからまた次回にするとして……今回は私のアバターで遊んでね」
「いーよ、ありがとう!真昼」
女の子の姿で動かすのは少し抵抗があったが、動く楽しみに負けた俺の感情は『楽しい』一色だった
家に帰ったのは、夜8時近くになる頃だった。
あれから、流石に近くの家とはいえ長居のし過ぎだと真昼に装着していた機械を取られるまで俺は夢中になってやっていた。
今日の興奮が抑えきれず、どこか心ここに在らずの状態だった俺は大層母親に変な目で見られる事になったのだがそれを気にするなど今の俺にはなかった
あの機械について調べてみると、海外ではすでに人気の的になっているようだった。
日本でも話題になってきてはいるらしいが、やはりあの機材はお高いらしく、あのゲームの日本人プレイヤーは少ないらしい。まだまだ急増中、といったところらしい
その機械を何故真昼が二機も持っているのかはその日の段階では謎のままだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる