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第3話:巨人の慟哭
Aパート(2)
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操縦席に座っていた革命軍の兵士は、もちろんミンチより酷い状態となったわけだが。
『自分の手でやるというのは、やはり気持ち悪いモノじゃが、…何かこう、違う感じがするのじゃ』
レイフは帝国の筆頭魔道士としてゴーレムを操り戦いに参加していた。ゴーレムに命じて人を叩きつぶすというのは当たり前の話で、戦争ともなればもっと悲惨な光景や死体を見ていた。そのレイフが、アルテローゼとなって初めて人を殺したとき、何か依然と違う感情…いや感覚が胸の奥に生じるのを感じるのだった。
その感覚が何なのか分からないまま、レイフはアルテローゼの手に付いた血潮を呆然と眺めてしまった。
「きさま同士を殺したな」
「同士の敵め」
「ぶっ潰す」
一方、仲間を殺された革命軍の兵士達は、仲間の残酷な死にたいして怒りの感情をつのらせた。
『いかん、いかん、ぼーっとしている状態ではないのじゃ』
レイフが油断している間に、左から双腕のパワーショベルが右からは掘削機、そして正面からは頭がドリルになった四足歩行獣のような重機が襲いかかってきた。
この状況ではアルテローゼのとれる行動は後ろに下がるしかないのだが、ドリル頭の重機の突進スピードはかなりのモノであり後退して避けきれるとは思えなかった。
『むう、面倒な』
正面には魔法陣の描かれた盾が邪魔であり、アルテローゼの手では操縦席まで届かない。しかも三両の重機の操縦者の息は合っており、タイミングをずらして避けるのも難しかった。
突進を躱しきれずアルテローゼは左右の重機のアームに挟まれ、そこに四足歩行重機のドリルが迫ってきた。
「「「殺った」」」
アルテローゼがドリルに貫かれる、そう三両の重機の操縦者が確信した時、
『甘いわ』
レイフは、魔法陣をアルテローゼの機体を飛び上がらせた。
「「「人型が飛んだ!」」」
アルテローゼが、重力を無視して空高く飛び上がった事に、操縦者達は我を忘れそれを見上げた。
アルテローゼが飛び上がった、それは機体が飛行機能を持っていたとか、ロケットバーニアが付いたランドセルを背負っていたという話ではない。アニメや漫画ではないのだから、そんな機能をアルテローゼに装備するほどヴィクターは非常識ではなかったのだ。いや予算があればつけていたかもしれないが、その予算がなかったのだ。
では、どうやったかというと、そこは魔法の力を借りたのだ。いやそっちの方がよほどアニメや漫画より非常識と言ってはいけない。物理法則を無視できるのは、それ以外の力が必要と言うことだったのだ。
アルテローゼの足下にはレビテートの魔法陣がまだ輝きを失わず残っている。その力でアルテローゼは空に舞い上がったのだ。ちなみにレビテートの魔法は、術者の体を上空に持ち上げるだけの魔法であり、自由に空を飛べる物ではない。魔法陣として使用すれば上手く使えばエレベータの様に使用できるのだ。
『連携がとれていたことが、逆に徒となったのじゃ』
三両の重機は連携がとれすぎていたために、ぎりぎりのタイミングで飛び上がったアルテローゼの動きに対応できなかった。ドリル頭の重機は左右のアームを貫き、動きが取れなくなってしまった。
アルテローゼはその背後に着地すると、動きのとれない重機の操縦席を左手で潰した。操縦席の兵士が迫り来る左手から逃げだそうとしていたが、それを揺るレイフではなかった。
『見苦しい。人を殺して良いのは、殺される覚悟のある物だけなのじゃ』
戦場で多数の人を殺傷してきたレイフにとって、覚悟のない兵士は見苦しい存在だった。
『レーザー照射の警告じゃと?』
残り二両の兵士も潰そうとした時、アルテローゼは機体がレーザー照射を受けている事に気づいた。
「そいつらまで、やらせはせんぞ」
アルテローゼにレーザーを照射していたのは、巨大なレーザートーチを装備した重機だった。革命軍で最も高価なその重機には指揮官が搭載していた。
本来なら、レーザー砲の攻撃は、プロテクション・フロム・ミサイルによって機体に命中しないはずなのだ。しかし、レーザートーチを改造してレーザー砲としたレーザの出力は、射程外への攻撃ではせいぜいセンサーはカメラを破壊するだけの威力しかなかった。魔法がどのようにして威力を評価しているのか不明だが、それは飛び道具とは認識されなかったらしい。
幸いアルテローゼは背面から攻撃を受けたので、メインカメラは無事であり、サブカメラの幾つかが壊されただけだった。いやレイフにとっては貴重な目が潰されたことになる。
『カメラだけを潰す兵器か。かこれではうかつに近づけぬぞ』
普通のレーザー砲や機銃などであれば魔法で無力化できたが、この状況ではカメラやセンサーを壊されて、アルテローゼは盲目となってしまう。つまり、接近してコクピットを破壊するという戦法が使えない。つまり今のアルテローゼには打つ手がないと言うことだった。
「射程外で装甲すら抜けないか。だが奴の気は引けた。今のうちに脱出するんだ」
革命軍の改造レーザー砲は、意図せずアルテローゼに対して有効な兵器となっていたが、指揮官はそうとは気づかなかった。しかしアルテローゼの気を引けたことで、動けなくなった重機の兵士を脱出させることに成功したのだった。
『ぬぅ、このままでは動きがとれんのじゃ。何とかあの兵器を無力化するには…。そうか盾を持てば良いのじゃ』
レーザー砲にカメラを向けることができないため、重機を遮蔽物として様子をうかがっていたアルテローゼは、重機が持っている盾を構えれば良いと気づいた。盾そのものは平坦な鉄板であり重機に直接溶接されており、アルテローゼに持たせる事ができなかった。しかし、そこは錬金術師の本領発揮で、手頃な鉄の機材を融合させて持ち手を作りあげた。
『これならあの兵器も怖くないのじゃ…と、これでは攻撃ができないのじゃ』
左手に盾を装備したアルテローゼだが、そこで右手がないため攻撃ができないことに思い至った。
アルテローゼは肘から先がなくなった右手を見て、それからドリル頭の重機を見た。
『これは使えるかもしれぬ』
アルテローゼは、重機のドリルを根元でへし折ると、右手に無理矢理錬金術で融合したのだった。盾とドリルという、一体どこが近代兵器なのだろうかと、開発者のヴィクターの嘆きが聞こえそうな姿にアルテローゼは変貌を遂げるのだった。
『自分の手でやるというのは、やはり気持ち悪いモノじゃが、…何かこう、違う感じがするのじゃ』
レイフは帝国の筆頭魔道士としてゴーレムを操り戦いに参加していた。ゴーレムに命じて人を叩きつぶすというのは当たり前の話で、戦争ともなればもっと悲惨な光景や死体を見ていた。そのレイフが、アルテローゼとなって初めて人を殺したとき、何か依然と違う感情…いや感覚が胸の奥に生じるのを感じるのだった。
その感覚が何なのか分からないまま、レイフはアルテローゼの手に付いた血潮を呆然と眺めてしまった。
「きさま同士を殺したな」
「同士の敵め」
「ぶっ潰す」
一方、仲間を殺された革命軍の兵士達は、仲間の残酷な死にたいして怒りの感情をつのらせた。
『いかん、いかん、ぼーっとしている状態ではないのじゃ』
レイフが油断している間に、左から双腕のパワーショベルが右からは掘削機、そして正面からは頭がドリルになった四足歩行獣のような重機が襲いかかってきた。
この状況ではアルテローゼのとれる行動は後ろに下がるしかないのだが、ドリル頭の重機の突進スピードはかなりのモノであり後退して避けきれるとは思えなかった。
『むう、面倒な』
正面には魔法陣の描かれた盾が邪魔であり、アルテローゼの手では操縦席まで届かない。しかも三両の重機の操縦者の息は合っており、タイミングをずらして避けるのも難しかった。
突進を躱しきれずアルテローゼは左右の重機のアームに挟まれ、そこに四足歩行重機のドリルが迫ってきた。
「「「殺った」」」
アルテローゼがドリルに貫かれる、そう三両の重機の操縦者が確信した時、
『甘いわ』
レイフは、魔法陣をアルテローゼの機体を飛び上がらせた。
「「「人型が飛んだ!」」」
アルテローゼが、重力を無視して空高く飛び上がった事に、操縦者達は我を忘れそれを見上げた。
アルテローゼが飛び上がった、それは機体が飛行機能を持っていたとか、ロケットバーニアが付いたランドセルを背負っていたという話ではない。アニメや漫画ではないのだから、そんな機能をアルテローゼに装備するほどヴィクターは非常識ではなかったのだ。いや予算があればつけていたかもしれないが、その予算がなかったのだ。
では、どうやったかというと、そこは魔法の力を借りたのだ。いやそっちの方がよほどアニメや漫画より非常識と言ってはいけない。物理法則を無視できるのは、それ以外の力が必要と言うことだったのだ。
アルテローゼの足下にはレビテートの魔法陣がまだ輝きを失わず残っている。その力でアルテローゼは空に舞い上がったのだ。ちなみにレビテートの魔法は、術者の体を上空に持ち上げるだけの魔法であり、自由に空を飛べる物ではない。魔法陣として使用すれば上手く使えばエレベータの様に使用できるのだ。
『連携がとれていたことが、逆に徒となったのじゃ』
三両の重機は連携がとれすぎていたために、ぎりぎりのタイミングで飛び上がったアルテローゼの動きに対応できなかった。ドリル頭の重機は左右のアームを貫き、動きが取れなくなってしまった。
アルテローゼはその背後に着地すると、動きのとれない重機の操縦席を左手で潰した。操縦席の兵士が迫り来る左手から逃げだそうとしていたが、それを揺るレイフではなかった。
『見苦しい。人を殺して良いのは、殺される覚悟のある物だけなのじゃ』
戦場で多数の人を殺傷してきたレイフにとって、覚悟のない兵士は見苦しい存在だった。
『レーザー照射の警告じゃと?』
残り二両の兵士も潰そうとした時、アルテローゼは機体がレーザー照射を受けている事に気づいた。
「そいつらまで、やらせはせんぞ」
アルテローゼにレーザーを照射していたのは、巨大なレーザートーチを装備した重機だった。革命軍で最も高価なその重機には指揮官が搭載していた。
本来なら、レーザー砲の攻撃は、プロテクション・フロム・ミサイルによって機体に命中しないはずなのだ。しかし、レーザートーチを改造してレーザー砲としたレーザの出力は、射程外への攻撃ではせいぜいセンサーはカメラを破壊するだけの威力しかなかった。魔法がどのようにして威力を評価しているのか不明だが、それは飛び道具とは認識されなかったらしい。
幸いアルテローゼは背面から攻撃を受けたので、メインカメラは無事であり、サブカメラの幾つかが壊されただけだった。いやレイフにとっては貴重な目が潰されたことになる。
『カメラだけを潰す兵器か。かこれではうかつに近づけぬぞ』
普通のレーザー砲や機銃などであれば魔法で無力化できたが、この状況ではカメラやセンサーを壊されて、アルテローゼは盲目となってしまう。つまり、接近してコクピットを破壊するという戦法が使えない。つまり今のアルテローゼには打つ手がないと言うことだった。
「射程外で装甲すら抜けないか。だが奴の気は引けた。今のうちに脱出するんだ」
革命軍の改造レーザー砲は、意図せずアルテローゼに対して有効な兵器となっていたが、指揮官はそうとは気づかなかった。しかしアルテローゼの気を引けたことで、動けなくなった重機の兵士を脱出させることに成功したのだった。
『ぬぅ、このままでは動きがとれんのじゃ。何とかあの兵器を無力化するには…。そうか盾を持てば良いのじゃ』
レーザー砲にカメラを向けることができないため、重機を遮蔽物として様子をうかがっていたアルテローゼは、重機が持っている盾を構えれば良いと気づいた。盾そのものは平坦な鉄板であり重機に直接溶接されており、アルテローゼに持たせる事ができなかった。しかし、そこは錬金術師の本領発揮で、手頃な鉄の機材を融合させて持ち手を作りあげた。
『これならあの兵器も怖くないのじゃ…と、これでは攻撃ができないのじゃ』
左手に盾を装備したアルテローゼだが、そこで右手がないため攻撃ができないことに思い至った。
アルテローゼは肘から先がなくなった右手を見て、それからドリル頭の重機を見た。
『これは使えるかもしれぬ』
アルテローゼは、重機のドリルを根元でへし折ると、右手に無理矢理錬金術で融合したのだった。盾とドリルという、一体どこが近代兵器なのだろうかと、開発者のヴィクターの嘆きが聞こえそうな姿にアルテローゼは変貌を遂げるのだった。
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