神様の外交官

山下小枝子

文字の大きさ
157 / 267
第二部 第二章

6 心の強さ。

しおりを挟む
 それからは日常が戻ってきた。
 夜明けの鐘と共に起き、支度をして炊事係の仕事し、朝食を食べて仮眠をし、昼食を食べ終えると勉強会をして、あとはゆっくりしたり、スークをぶらぶらしたり……。

 ノーラやユースフの事が気になり病院に行きたくもなったが、あと三日、あと二日……と思い佐知子は堪えた。

 そんな退院が迫った前日の仕事終わり事。

「あー、終わった終わった」
「でもだいぶ涼しくなったねー」

 夏季と冬季しかないこの地方。
 昼間の気温は余り変わらない様に佐知子には思えるが、それでも微妙な変化はあるので、この世界……アスワド村の人には分かるらしい。

 そうだねー。などと話しながら、朝番の仕事が終わった皆がぞろぞろと使用人小屋に戻り、佐知子も水の入ったコップを持って戻る。そして、絨毯が敷かれた食事などを食べる共有スペースに座り食事を待っていると……

「みんなー! 食事持ってきたよー!」

 その声に皆がざわっとした。

「!」

 佐知子も目を見開いて入口を見た。

「アイシャ!」

 と、複数の声が飛ぶ。

 そう、入口には少し痩せた……やつれたアイシャが仕事着を着て、笑顔で食事を持っていたのだ。

「あんた……あんたもういいのかい……? その……無理しなくていいんだよ?」

 かける言葉を選んで、仲のいい中年の女性がアイシャに近寄る。

「なぁーに、気ぃつかってんのさ! あたしゃ、もう大丈夫だよ! いつまでも家にこもってたら余計気が滅入っちまうよ! 外に出て! 太陽浴びて! 働らかなきゃね!」

 アイシャは以前と同じ、曇りのない笑顔だった……。

(アイシャさん……)

 本当に吹っ切れたのだろうか……いや、吹っ切れるはずがない。
 本人も言っているではないか『家にこもっていたら、余計に気が滅入る』と……。だからある程度まで悲しみが癒えたから、家から出てきたのだ……。

 佐知子はアイシャの強さを心の底から尊敬した。

「ほら! みんな朝食だよ! 早く食べないと冷めちまうよ!」

 皆はアイシャと後ろの人達から食事を受け取る。

「おや、サチコ」

 すると、アイシャの前へ食事を取りに行き、佐知子はアイシャと対面する。

「あ、あの……アイシャさん……」

 なんと言っていいかわからず挙動不審で立ち尽くす佐知子。アイシャはふっと、柔らかく優しくほほえみ、

「ほれ、朝食だよ。たんとおたべ」

 と、朝食を差し出した。

「あ……ありがとうございます……」

 佐知子はこんなときに何もいえない自分が嫌になった。

「あとね、サチコ」
「! はい!」

 名前を小さく呼ばれ、下げていた顔を上げる。

「朝ご飯食べ終わったら……ちょっと付き合ってくれないかい?」

 アイシャがほほえむ。

「え……」
「何か予定あるかい?」

 おや? と、アイシャは笑顔を引っ込める。

「いえ! 何も!」

 ぶんぶんと佐知子は頭を振った。

「そうかい。じゃあ、あたしは久しぶりに行った調理場が酷い状態だったから整えてるから、終わったら食器戻しついでに声かけておくれ」
「あ、はい!」

 アイシャは手を上げ去って行った。

(なんだろう……)

 佐知子は不思議に思いながらもハッとし、早く食べなくてはと皆が座る絨毯の上に座り、朝食を食べ始めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...