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61~70話

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 61.文献探しスタート!


 そして、いよいよ蔵での文献・・・私は巻物だと知っている巻物探しがスタートする。

「みんな、暑いから水分補給まめにしてねー!」

 と、七斗くんが蔵の階段にペットボトル飲料を置いてくれた。
 気が効くなぁ・・・ほんと結婚するなら七斗くんだよね。
 でも、ごめん・・・最推しは・・・・と、私は少し離れた所でごそごそとやっている、体躯のいい彪斗くんを見る。

 あれから話せてないなぁ・・・と、思い、少ししょんぼりする。
 彪斗くんは私のことどう思ってるんだろう・・・。
 色々話したい・・・と、思っていると。

「ていうかさ、むやみに探してもダメなんじゃないの?何か色とか形とか・・・表紙に何か書かれてるとか情報ないの?」

 汗をぬぐいながら臣先輩が言った。
 蔵には沈黙が流れる・・・・。

「!」

 私はハッとした。

「七斗くん!お父さんに聞きに行こう!」
「え!」
「幹部会議で何か聞いてないか聞いてきます!」
「え・・・あ、うん。行ってきます。」

 そう言うと、私は七斗くんの手首を握り、疑問符を浮かべている七斗くんを蔵から連れ出した。
 そして、蔵から見えない所まで来ると、

「七斗くん、文献はね、巻物の形をしてるの!」
「!」
「多分だけど・・・私は画像で見たから同じなら多分そう。巻物で・・・色は青。古い紙が貼ってあって題名書いてあるけど読めなかった。うねうねしてる昔の文字で。そんな巻物の画像だった。それ、みんなにお父さんからって伝えて。」

 ゲームで見た情報が同じかどうかわからないが、私は伝える。

「う、うん!ありがとう!」
「早く見つかるといいね!」
「うん・・・・でも・・・・。」
「え?」
「ううん!なんでもない・・・戻ろうか・・・。」
「うん!」

 七斗くんの言葉に少し疑問を感じながら、私たちは戻ってその情報を蔵でみなに伝えた。

「巻物で青・・・か。かなりのヒントだね。」
「やる気も出るなー!」

 臣先輩と、腰を伸ばしながら麻日くんが言った。
 私と七斗くんはふふっと微笑み合う。

 早く見つかるといいなぁ・・・。
 そう思いながら、私も巻物探しへと戻った。


 続。



 62.タオル巻きイケメンが好きなだけなんです・・・わざとじゃありません・・・・。


 ピピピピと、アラームが鳴った。

「あ、お昼ご飯作りに行かなきゃ。」

 七斗くんがスマホのアラームを消す。
 私もスマホを見ると、10時だった。
 確かー・・・・

「今日のお昼ご飯の当番って私だよね?」

 七斗くんに私は問う。

「うん・・・行け・・・る?」
「うん。これちょっとずらし・・・て・・・よし!行こうか!」

 邪魔にならないように片付けると、七斗くんに言う。

「じゃあ・・・俺らは昼ご飯の支度があるので・・・先に抜けます・・・。」
「ずりーよなー!」
「マリアと・・・二人・・・。」
「グダグダ言ってねぇで探せ!」

 彪斗くんが蔵の奥から叫ぶ。

「はは・・・がんばってね、あと一時間だから。」

 そう言うと私は七斗くんに行こう。と、促した。

「う、うん・・・。」

 二人でほこりまみれのまま蔵から出て、強烈な日差しを浴びる。

「あっつ・・・蔵の中のが涼しいね・・・。」
「蔵はね・・・涼しいんだ。」
「ていうか、当番表見てびっくりした。一人は当番だけど、もう一人は全部、七斗くんだったから。」
「あ・・・はは。」
「まぁ・・・人に自分ちの台所勝手に使わせられないかー・・・でも、6人・・・九五さん入れて7人か。7人分の料理毎日三食作るの嫌じゃない?誰かに変わってもらえば?」
「んー・・・別に嫌じゃないよ。料理はもう慣れてるし、好きな家事だから。」

 七斗くんは濡れた前髪の下で笑う。

「・・・七斗くん・・・タオル貸して。」
「え?タオル?ぼくの?」
「うん。」

 私は七斗くんが肩にかけていたフェイスタオルを渡してもらう。

「ちょっとしゃがんで。」
「え・・・?うん。」

 そして立ち止まり、ちょっとしゃがんでもらう。
 そして私はニヤリと笑うと、

「うわぁ!」

 七斗くんの背後に立ち、うまくできるかどうかわからなかったが、後ろからフェイスタオルで前髪を上げ、そのまま頭を包んだ。
 ぎゅっと後頭部でタオルを結ぶ。
 おろおろと慌てる七斗くんに対して私はわくわくしながら七斗くんの正面に戻る。

「おお!!いい感じいい感じ!!イッケメーン!」
「は・・・速水さん!!」

 七斗くんはどうしていいかわからず、赤面して両手を上げながらあわあわしている。
 嫌なら取ればいいものを取らないのも七斗くんらしい。

「前髪濡れてたでしょ?暑いし・・・ご飯作る時は私と二人だから、みんな来るまでそのままでいなよ。イケメンが見れて私も嬉しいし。」

 と笑顔で私は言う。

「・・・・・・。」

 タオルを頭に巻いて、赤面しながらおろおろとしながら悩んだ七斗くんは・・・・

「う、うん・・・・。」

 と、少し俯いて答えた。

「やったぁ!よし!じゃあ、行こうか!」

 そう言い二人で歩き出す。

 そういえば、ちゃんと太陽の下で、前髪のない七斗くんを見るのは初めてだなぁ・・・スチルで見慣れてるし、一回生で見たから耐性はあるが。

 と、思いながら私は七斗くんを見て、恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに赤面している表情を見てハッとした。

 ヤバい・・・おばさんまたやってる・・・?
 また、男子高校生たぶらかしてる・・・・?
 一凛が七斗くんもなびいてるとか言ってたよね・・・。

 今なんとなく、前髪邪魔そうだし、おばさん、イケメン見たいし、タオル頭に巻く男子好きだからイタズラ心でやっちゃったんだけど・・・・まずかったかなー・・・。

 私は俯いて、しまった・・・と、心の中でつぶやいた。


 気をつけなくては・・・気をつけなくてはならないのに、気を抜くとおばさんの素が出て余計なことをしてしまう・・・・ああああああああ!!!


 私は眩しい太陽を見上げた。



 続。



 63.フラグを立てたいわけじゃない!!!ただ!!ただ!年のせいか、おせっかいで!!!


 ほこりまみれなのに気づくと、一度、離れに戻り、汗やほこりまみれの服を着替えて、髪もすき、顔も洗い、手洗いうがいをして、もう一度、台所のある家へと戻った。

「あ・・・速水さん・・・。」

 台所に行くと、七斗くんも着替えていて、エプロンをしていた。
 頭のタオルも、蔵で使った不衛生なほこりと汗まみれのではなく綺麗な物になっていた。
 でも、ちゃんと自分で前髪を上げて、結んでくれている。律儀だなぁ・・・。

 だからだろう・・・ちょっと挙動不審で照れている。
 かわいいなぁ・・・と思ってからハッっとする。

 ババア!いい加減にしろ!!と、自分に言ってから、タオルのことには触れないで、話しかける。

「着替えてきたよー!お前たせー!」
「あ・・・うん。」

 七斗くんはタオルや前髪のことを言われなくて、ほっとしたようだ。

「お昼は何にするの?」

 手を洗いながら私は聞く。

「んー、スタミナつけないとだからね、暑いからそうめんと行きたい所だけど、冷やしうどん豚肉のせだよ。麺がのびちゃうから時間見図らないとなぁ・・・。」

 主婦か!出来のいい主婦か!!
 と、内心突っ込みを入れながら、何だその献立は!!ほんと主婦だな!!お母さんだよ!!と、私は思いつつ、頼まれたことを手伝う。

「うどん何束ゆでようね・・・麻日くんかなり食べるだろうからねー・・・うどんとかだと何束食べるんだろう・・・。」
「ははは・・・ほんとに。一応大量に買ってきたけど。ご飯も炊いとこうかな。」

 ちらっと見ると、七斗くんは前髪がないことになれたようで、普段通り・・・と言っても、普段は前髪が隠れているので、目元は見えないが、普段通りに鼻歌交じりに料理している。

 というかいつもよりちょっと明るい?機嫌いい?いつも鼻歌なんて歌ってる所見たことない・・・あ、でも料理するときは歌うのかな・・・・好きだって言ってたし・・・と、思いながら私が見つめていることに気づかれてしまい、七斗くんはビクッとして、少し赤面しながら、

「な、何・・・かな?」

 と、聞いてきた。

「あ、いや・・・やっぱり前髪ない方が手元はっきり見えていいでしょ?うっとうしくもないし・・・まぁ、好みだけど・・・あと、見てる方も、すっきりしてていいし、何よりかっこい・・・」

 ととと、かっこいいとか迂闊に言わないの、おばさん。と、流しの洗い物をしながら自重する。

「・・・うん・・・そう・・だね・・・前髪ないのなんて・・・かなり久しぶりだから・・・・こんなにすっきりして・・・・手元が見えて・・・・暑くなくて・・・・明るくて・・・・・・ありがとう。」

「え!?」

 私はびっくりして七斗くんを見る。
 七斗くんはこちらを見て、優しく、柔らかい笑顔でほほえんでいた。


 きゃーーーーーーーーーーーー!!!!
 これは無理!!!!
 推し二番目の前髪なしバージョンの聖人スマイル無理!!!!
 こんなのゲームになかった!!!


 私は赤面しているだろう。おそらく。
 そして調理器具を洗っていた手が止まり、水が流れ続ける。
 そしてハッとする。

「い、いや・・・別に私は何も・・・ただ、イタズラ心とおせっかいとかでタオル巻いただけだし・・・。」
「・・・うん・・・・でも、速水さんのそういう所に・・・みんな救われてると思うよ・・・・。」


 うわーーーー!!!!フラグが!!!フラグが立ちそうだーーーー!!!!
 やめて!!!やめて!!!!

 いや!七斗くん推し二番目だから嬉しいけど!!!
 フラグ回収したいけど!!!!
 でも、私は彪斗くんのフラグを回収できるならしたいしーーーー!!!

 ていうか誰のフラグも回収しちゃいけないと思うんだよ!!!
 ん?いけないのか?ん?あれ???いけないのか???

 あれ?これあれか?なんなら『転生した異世界でウハウハ!ハーレム生活!』みたいな
 男性向けラノベの逆バージョンやろうと思えばやれ・・・・いや!それはいかんでしょう!!!人として!!!!

 私はバシャン!と、流しの底に両手をつき、冷静になる。

「は・・・速水さん・・・?」

 七斗くんが少し驚いている。

「・・・七斗くん・・・・私はそんな人じゃありません・・・・。」

 七斗くんにさっき言われた言葉を思い出し、ぽつりとつぶやく。
 今さっき、逆ハーレム生活でもするかと、ちらと考えていたアラサーのオタク女だ。
 最低だ。人の心をなんだと思っている。ゲームの世界かもしれないが・・・。

「え・・・あ・・・いや・・・・。」

 自分の言った言葉に少し恥ずかしさを覚えたのか、七斗くんも困っている。

「おばさんは・・・おばさんは・・・・・。」
「え・・・おばさ・・・あ・・・・・。」

 と七斗くんが私の中身のことに気づいて、声を上げた時だった、

「あー!!!腹減ったー!!飯ー!!!」
「麻日、その前に着替えないと。」

 ガラガラと、玄関の扉が開き、みんなが入ってくる音が聞こえた。

「あ、わ・・・!」

 七斗くんは慌ててタオルを取り、前髪を下ろす。

「・・・・・・・・。」

 私はふっとほほえんだ。

「ご、ごめんね・・・。」

 七斗くんは私にしゅんとして謝る。

「何で謝るの!それでいいと思うよ!無理しない無理しない!」

 ぽんと私は肩を叩く。

「今度、部屋で一人の時とか、またやったりしなね。」

 そういうと、七斗くんは前髪で目の隠れた七斗くんで、こくんと頷いた。


 あ、またやっちゃったか?

 そして私はそう思うのだった。


 違うんだよ・・・フラグを立てたいわけじゃないの・・・。
 確かにゲームでは恋してた・・・でもね・・・リアルで会ったら、おばさんの親切心というか、母心というか・・母性というか・・・・。
 ただのおせっかいというか・・・・あああああああああああああああ!!!!


 私はまたもや流しにばしゃんと手を付いた。

「は、速水さん・・・?」

 そしてまた七斗くんを戸惑わせるのだった。



 続。



 64.夏休みの課題と麻日くんエンド。


 マリアの手料理・・・と、臣先輩に両手を合わせられつつ、みんなでお昼ご飯を食べたあとは、夏休みの課題の時間だ。

 居間でみんなでやることになったのだが、彪斗くんはないのでどこかへ行き、麻日くんはやりたくねー!と叫んで座卓に突っ伏していた。
 そんな麻日くんを見ながらみんなで用意をする。

「それじゃあ、はじめよっか・・・。」

 七斗くんが麦茶をみんなに持ってくるとそう言って、はじまった。

「・・・・・・・。」

 静かな部屋にカリカリとシャーペンの音と紙をめくる音と、カツカツカツという、シャーペンをノートに叩きつける音だけが響く・・・・そう、カツカツカツ・・・という・・・・。

「あー!わかんねぇ!!もう勉強しないで蔵で探し物していいか!?」
「ダメだよ麻日、教えてあげるから。」

 シャーペンを投げ出した麻日くんに、臣先輩がまともに返す。

「ははは・・・麻日くんって勉強・・・できない・・・の?」

 私が恐る恐る聞くと、

「できると思うか?」

 と、むっとして返された。

「だよねー、がんばろうね。」

 私が苦笑して答える。

「そういえば彩衣ちゃん成績上がったらしいね。」

 すると一凛が話しかけてきた。

「え?」
「いや、鈴ちゃんが一年の時は赤点三昧だったのに、二年になってから急に勉強頑張り出して成績よくなったって言ってたよ。」
「あー・・・・。」

 彩衣ちゃん成績悪そうなキャラだもんなー・・・。と、私は思いながら、私は彩衣ちゃんの体になってから勉強ができなくて色々頑張ったことを思い出す。

「うん、ちょっと心境の変化でね。やっぱり、勉強できなくてずーっと苦しい思いするのはつらいじゃん?わかれば楽しいし、いい成績取れば褒められるし、頑張ってる。」
「偉いね。」

 一凛は、ふふ。っと笑った。

「さすがマリア・・・麻日も見習いな。」

 臣先輩が厳しい表情で言う。

「うるせーよ。勉強なんかできなくても・・・・。」

 と、言ってから麻日くんは黙った。
 そして舌打ちしてから、

「臣!もっとわかりやすく教えろ!」
「んー、麻日の場合、小学生のレベルから一から教えないと根本的に解決しないからなー・・・ちょっと難しいかも。」
「ああ!?」
「あはは・・・。」

 私は苦笑しながらも、麻日くんが勉強に対して前向きになってくれたことが嬉しかった。
 きっと宝玉が元の場所に戻り、退魔師以外の道を選ぶことになるかもしれないということを考え出したのだろう・・・。

 いいこと・・・なのだろう。
 だって、麻日くんルートの最後は、この街から魔物や穢れがいなくなり、一凛によって両親の死の囚われから解き放たれ、将来、退魔師以外の道ができ、精神的にも物理的にも狭い世界に閉じ込められていた自分を壊すように、一凛と一緒に広い世界へと、文字通り旅に出るのだから・・・・。


 いろんな世界を見て、いろんな人と出会って、楽しく生きてね、麻日くん・・・。


 私はそんなことを思いながら、臣先輩に苦しめられている麻日くんを見つめていた。



 続。



 65.麻日くんの問いと臣先輩エンド。


「三時だ!!終わりだろ!?終わりでいいだろ!!??」
「あー・・・そうだね・・・あと2分くらいあるけど・・・・。」
「こまけぇよ七斗!」
「ふふ・・・終わりにしてあげようか。」
「そうだね、麻日がこんなに真面目に勉強するなんて、何の心境の変化か・・・珍しいからね。」
「うるせぇよ!」

 そんな会話をしながら、私たちは勉強道具を片付けて、また巻物探し、蔵へと向かう準備をする。
 一旦、一凛と離れに戻り、勉強道具を置いて、そっと隅に置いておいたほこりまみれの服をもう一度着る。
 少し汗臭かったので制汗剤をふりまいた。
 毎回、新しい服を着ていたら服が足りないし、どうせほこりまみれになるならもういい。作業着だと開き直った。

 そして二人で蔵へ向かうと、もう男子たちは作業を始めていた。

「遅くなってごめんなさいー。」

 と、私たちも合流する。

「大丈夫だよ・・・今、始めたばかりだから・・・。」
「暑いね・・・。」
「うん・・・。」

 七斗くんと話す。
 前髪は下りたままだ。
 上げたら楽だろうが・・・まぁ、無理だな。と、思い、私も捜索を開始する。


 青い巻物・・・。

 スチル画像で見たあの巻物と同じならいいが・・・。


 と、探すも見つからない。

 たくさんある、和綴じの本は無視して、箱の中や、棚の中、隙間などをみるが見つからない。
 というか広くて・・・まだまだ蔵のごく一部しか探せられていない。

 無理せず水分補給、休憩しながら探していると、また七斗くんのスマホのアラームが鳴った。

「えっと・・・夕飯の準備しに行きます。夕飯の当番は・・・。」
「ボクだね。」

 臣先輩が立ち上がる。

「あ、はい!よろしくお願いします・・・。」

 七斗くんが頭を下げる。

「美味しいもの作って待ってるからね、マリア。じゃあ行こうか、七斗。」
「はい。」

 そういうと、二人は蔵から出ていった・・・。

 いってらっしゃーい。と、私と一凛は言う。
 蔵には私と一凛、麻日くんと彪斗くんの4人になった。

 4人でごそごそガタガタと捜索をしていると、

「なぁ・・・お前、臣のことどうすんだ?」

 と、静かな蔵で麻日くんがボソリと言った。
 私は誰に何を言ってるのか一瞬、戸惑ったが、え?まさかこんな他に二人いる所でそんな話?と、唖然とする。

「え・・・あたしに言ってる?」

 思わず聞き返す。

「ああ・・・。」
「・・・その話・・・今じゃなきゃダメ?」
「いや・・・別にいいけど・・・ほかの奴らもわかってるし、気になってんじゃねぇの。だから今でも後ででもいいけど。」
「・・・・・・・。」

 私は言葉に詰まり、一凛を見た。
 一凛は困ったように笑っている。
 彪斗くんを見ると、我関せずと巻物探しをしている・・・・。

 ・・・・まぁ・・・みんなも気になるか・・・あんだけ露骨に求愛されてればな・・・。
 と、思い、私は言葉を返すことにした。


「臣先輩の・・・気持ちに答えるつもりはない・・・・・。」


 蔵には私の言葉だけが響いた。

「でも・・・臣先輩ちょっと怖い所あるから、はっきりそのこと言えないし・・・色々複雑な事情あるから・・・その部分も考慮して徐々に言って・・・というか・・・諦めてもらおうと思ってる・・・・。」

「はっきり言わねーのも期待持たせるみたいであいつもいつまでも辛いと思うぞ。」

 ぐ・・・・麻日くんが痛いところを突いてくる・・・。

「でも臣先輩、一歩間違ったら殺されるかもしれない感じに怖いんだもん!わからないでしょうけど!!」
「殺すなんて・・・。」
「本当だよ!!ヤンデレなんだよあの人!!!」
「・・・ヤンデレってなんだ?」
「知らないの!?」

「麻日・・・」

 私と麻日くんが話してると、彪斗くんの声が聞こえて二人で顔を向けた。

「男の嫉妬は見てて見苦しいぞ・・・・。」

 背中を向けたまま手を動かして彪斗くんは言う。

「!」

 麻日くんは少し怒ったような顔をして赤くなり、

「嫉妬じゃねぇよ!!!ただ、見てていい加減に何とかしたらと思ったから聞いただけだよ!!!」
「・・・・・。」

 彪斗くんは何も返さない。
 私は、ははは・・・と、なんというか・・・軽く苦笑いするしかなかった。

「ったく!」

 といいながら麻日くんは巻物探しに戻った。
 私も戻りながら臣先輩エンドを思い出す。

 一凛に癒されて、いい感じになった二人は宝玉を元に戻し、先輩のトラウマだった母親に・・・手をつないで会いに行く・・・そして確か、母親と円満再会した先輩は、ヤンデレを克服し、君は女神だ。一生離さないよ。そばにてくれ。と言い、フランスの風景が綺麗な所で指輪を指にはめられるんだよなぁ・・・。一凛も嬉しそうに、はい!って言って終わりだったんだけど・・・・そんな終わりは迎えられない・・・。
 ごめん先輩。

 んー・・どうしたらいいんだろう・・・やっぱりはっきり言ったほうがいいのかなぁ・・・いやでも・・・。

 するとみんなのスマホからいっせいにアラームが鳴りだした。
 夕飯だ・・・。

「行こっか。」

 と、私は一凛に言うと、うん。と一凛も答え、もやもやしたまま夕飯を食べるべく、ぞろぞろと四人で蔵を後にしたのだった。



 続。



 66.臣先輩との普通の会話。


 離れに戻り、着替えて手洗いうがい、ほこりを落とすと、夕飯へと向かった。
 本当はお風呂に入ってからご飯を食べたかったが、人様の家だ。わがままは言えない。ご飯も冷めちゃうしね。
 そうして私と一凛が居間へと行くと・・・・

「え・・・・何これ・・・・。」

「マリアー!君のためにたくさんごちそうを作ったよ!」

 そこには座卓いっぱいに、フランス料理?かな?が、のっていた。
 臣先輩を見ると、満面の笑み。
 その背後で七斗くんが暗い表情をしてうつむいている。

「これはね、フランスの家庭料理で・・・」
「ちょっと待ってください先輩。」

 私はうきうきと話しだそうとする先輩を止め、

「七斗くん、今日の夕飯・・・これじゃなかった・・・はずだよね?」

 私は七斗くんにそう問う。

「・・・う、うん・・・きょうの夕飯は、魚の煮付けがメインで・・・。」
「先輩。」

 わたしはじと目で臣先輩を睨む。

「だってマリアにおいしいもの食べさせたかったんだもん!」
「だってじゃなくて!!!ちゃんと七斗くんが組んだ献立にっ・・・!」
「おー・・・うめーこれ。」

「・・・・」

 私が臣先輩に雷を落とそうとしていると、摘まみ食いした彪斗くんの声が聞こえた。

「え、まじまじ?」
「めっちゃうめぇぞ。」

 そこに麻日くんも加わっている。
 私はうっと言葉につまる。
 確かにこんな料理作れるのも凄いし食べれる機会もない。

「はぁ・・・。」

 溜息をつくと、私は臣先輩に言った。

「先輩、もう献立破っちゃだめですよ。」
「うん・・・。」

 先輩はしょぼくれていた。

 その後、みんなで席に着き、食卓を囲む。
 いただきます。と、口に入れたとたん、みんなの表情がパッと変わった。

「うっめ!!!」

 麻日くんが叫び、口にリスのように頬張る。

「おいし~!」

 一凛も満面の笑みだ。

「・・・・・。」

 彪斗くんはもくもくと食べている。

「せ、先輩!あとでレシピ教えてください!」

 七斗くんはそんなことを言っていた。

「・・・・・・。」

 確かに・・・先輩のフランス家庭料理は絶品だった。
 みんなに誉められても、ありがとう。と、どこかしょぼくれている先輩に・・・

「臣先輩・・・・凄くおいしいです・・・。」

 と、私は気まずいが言った。
 すると臣先輩は驚いた顔をして、しかし次の瞬間目に涙をにじませて、美しい顔でほほえみ、

「ありがとう・・・マリア。」

 と、言った。
 先輩はそのまま涙をぬぐう。

「ちょ、ちょっと、やだ、泣かないでくださいよ。」
「だって、嬉しくて・・・。」
「ごめんなさい・・・さっきキツく言って・・・。」
「ううん・・・。」
「・・・先輩はとことんあたしに甘いですね・・いいんですかそんなんで。」
「・・・いいんだよ。ボクは恋の奴隷・・・マリアの奴隷だからね。」
「っ・・・恥ずかしいこと言わないでくださいよ!これだからハーフは!」
「ふふふ・・・なんだかマリアと普通に話してるの・・・・もしかしてはじめてかな?楽しいな。」
「・・・そうですね・・・いつもなんか鬼気迫る物がありますからね。いつもこんな感じでいてください。」
「それはマリア次第かな。」
「逆でしょう!」
「えー?」

 私と臣先輩は、ごく普通の会話を初めてしていた。
 これも合宿のおかげかな。と思った。
 いつもこんな感じならいいのにな。と。


 それでも・・・想いには答えられないんだけど・・・・。



 続。



 67.レッツゴー、スーパー!


「お風呂いただきましたー。」

 夕飯のあと、順番でくるお風呂から上がり、台所に行くと、七斗くんが冷蔵庫の前でしゃがんでうなだれていた。

「・・・な、七斗くん?どうしたの?」

 私が声をかけると、

「・・・先輩が・・・夕飯で冷蔵庫の食材使い切って・・・明日の朝ご飯の食材が・・・・ない・・・。」

 そう、小さな声で返してきた。

「え・・・・。」

 私は、どうしよう・・・と、泣きそうになっている七斗くんを見て、先輩・・・少しは考えろよ・・・と、思いつつ七斗くんに提案する。

「今から買いに行く・・・とか。」
「もうスーパー閉まってる・・・。」

 私が壁の時計を見ると、時刻は午後10時近くだった。

「あー・・・確かに・・・あれ?ちょっと待てよ。確かちょっと遠いけどうちのお母さんがたまに行く、24時間スーパー、私、知ってるよ。」
「え!」

 七斗くんがうなだれていた顔を上げた。

「九五さんに車出してもらえばすぐだし・・・。」
「あー・・・父さんもうお酒飲んでる・・・。」
「あ、そう・・・まぁ!徒歩でも行けなくないよ!片道・・・40分・・・くらい・・・かな・・・・。」

 私が目をそらしながら言うと、

「・・・まぁ・・・行くしかない・・・よね。速水さん、悪いんだけど、場所教えてもらえるかな・・・。」
「あ、うん!いいけど・・・・あ、私も一緒に行こうか?」
「え・・・・。」
「ほら、7人分の食材なんて一人じゃ持てないでしょ?」
「え、でも・・・もうお風呂入っちゃったし・・・夜遅いし・・・・。」
「お風呂はまた入ればいいし、夜遅いのは七斗くんがいるから大丈夫でしょ!退魔師なんだし!一人で7人分持てる?」
「う・・・・。」

 私が問うと、七斗くんは答えに詰まっていた。
 持てないよね。だから一緒に行こうか?って聞いたんだもん。
 さてっと。

「じゃあ、私、着替えてくるから!鳥居の前で待ってて!」
「え、あ!ありがとう!ごめんね!」

 小走りに去る、私の背中に、七斗くんはそう言った。




「彩衣ちゃんどこいくの?」
「んー?七斗くんとスーパー。」

 離れに戻ると、パジャマ姿の一凛に聞かれる。

「もう閉まってるでしょ?なんでスーパー?」
「臣先輩が冷蔵庫の中、空っぽにしちゃって明日の朝食の分もないんだって。七斗くんが困ってたから24時間スーパー思い出したから一緒に行ってくる。」
「あはは・・・大変だね。私も行こうか・・・あ!やっぱりいい!」
「・・・・え?何で?別にいいよ?」

 一凛が慌てて手伝おうとしてくれたのをやめたので、私が問うと。

「・・・七斗くんがきっとがっかりすると思うから・・・・。」

 と、布団で顔を半分隠しながらにやにやと言ってきた・・・・。

「な!またそういうこと言う!!!!」

 私は枕で一凛を叩いた。
 最近、一凛のキャラが変わってきている気がする。
 こんな子だったっけ?本性これか?これも合宿効果か?

「私の想像だよー!ほら!早く行きなよ!七斗くん待ってるんでしょ!」
「一凛・・・あんたなんか変わったよね・・・そんな子だった?」

 私はズバリ言ってみた。

「へへへ。これが本性です。みんな怖いから大人しくしてたけど。あと恋バナ好きです。」

 一凛は舌を出して言う。
 くそう、二次元だから許される仕草。かわいい女子め。
 私はぐぬぬ・・・と。思いながら一凛をじと目で見て、離れを出ることにした。

「じゃあ、行ってくるから。誰かに聞かれたら、事情話しといてね。」
「はーい!がんばってね!あ、がんばるのは七斗くんか。」
「一凛!」
「いってらっしゃーい!」

 私はガラガラピシャン!と、引き戸を閉めた。

 はー・・・私はまたフラグを立てたのか・・・立てたのか・・・?
 親切心だぞ・・・しかし、一凛がキャラ崩壊してるぞ・・・。

 そんなことを思いながら鳥居へと向かうと・・・

「・・・・・。」

 え?なんで?いや、別にいいんだけど・・・。
 と、思いつつ、私はその人物・・・鳥居で待っている人物、

「あ・・・速水・・・さん・・・・。」

 タオルで前髪を上げ頭に結び、鳥居から街を見下ろしていた七斗くんの元へと近づいた。

「あ、ごめんね、待った?」
「ううん・・・大丈夫・・・・。」
「そう・・・・。」

 え?なんで?なんで、タオル巻いてるの?
 いや、イケメン見れていいんだけどさ・・・。

「行こうか・・・。」
「あ、うん!」

 そう言われ、私と七斗くんは神社を出発した。



 続。



 68.七斗くんと彪斗くんの事情。そして七斗くんルートはいりまーす!


「うわ!」

 鳥居を出て、私はすぐに立ち止まり、叫んでしまった。

「あ・・・だ、大丈夫?そういえば・・・しばらく境内の中にいたから・・・・。」

 そうなのだ、鳥居の一歩、外に出たら一気に、穢れや魔物がうようよいて、びっくりしたのだ。

「だ、大丈夫・・・ちょっと・・・びっくりしただけ・・・。」

 と、言いながらも正直、大丈夫じゃない。
 あれだけがんばって慣れた穢れ、魔物も、少しの間いない世界で暮らしていたせいで、また最初の頃に戻ってしまったようだ。

 正直、怖いし気になる。

 一緒に行くなんて言わなきゃよかった・・・と、後悔してもしかたない・・・・私はなるべく悟られないように気丈なふりをして歩く。

 道案内をしつつ歩いていると、私が穢れと魔物を気にしているせいで沈黙が流れる。
 でも、それどころじゃない!と、思っていると、

「・・・ごめんね・・・俺のせいで・・・・。」

 と、七斗くんが街灯がぽつぽつとある暗闇の中歩きながら、つぶやくように言った。

「え?」

 私は突然の言葉に身体に力を入れてうつむいて歩いていた顔を上げる。

「俺が一凛ちゃんに宝玉渡して・・・一緒に飲まなければこんなことにはならなかったのにね・・・・麻日の両親も亡くならなっかた・・・・たくさんの退魔師も・・・全部全部・・・俺のせい・・・・。」

 七斗くんは、タオルをして前髪を上げているせいではっきりとわかる、困ったような、悲しそうな、つらそうな、泣きそうな表情ですこしうつむいてそう言った。

「っ!それは違うでしょ!宝玉を飲めば一凛と離れないですむって七斗くんに嘘の・・・嫉妬から・・・嘘の情報教えたのは・・・彪斗くんじゃない・・・・それを・・・子供の七斗くんは真に受けてやっちゃったんだから・・・七斗くんが全部悪い訳じゃない・・・・。」

 言っていて、まるで真犯人・・・一番悪いのは彪斗くんだと言っているような気がして・・・私はつらくなって七斗くんに向けた顔をゆがませながらうつむけた。

「・・・・はは・・・そっか・・・それも知ってるんだね・・・そっかぁ・・・・いや・・・びっくりした・・・・。」

 七斗くんは束の間オドロいた顔して、そう言った。
 その言葉に、私は気まずくなる。

「・・・ごめんね・・・・。」

 そうなのだ。
 七斗くんルートか彪斗くんルートをやるとわかるのだが、幼い七斗くんが一凛と離れたくなくて宝玉を飲んだ本当の原因は彪斗くんにある。

 離れに住んでいた彪斗くんの所へ、優しい七斗くんはよく通っていた。彪斗くんも快く、仲良くすこしの時間遊んでいた。

 でも、お互い別々に一凛と出会った。
 そして遊び、惹かれた。

 そして、一凛が引っ越すとなったとき、泣きながら七斗くんが彪斗くんに相談しに行ったのだ。

 その時、彪斗くんは、自分だけが知っていたと思っていた大切な女の子が、外で七斗くんと自由に楽しく遊んでいたと知り、嫉妬し、つい、出来心で、そんなことをしたら大変なことになるとわかっていたのに、二人で宝玉を飲めば、離ればなれになることはないよ。と言ってしまったのだ。

 そして、それを聞いた七斗くんは、素直に実行してしまった。


 でも・・・七斗くんは、彪斗くんに言われたからだと誰にも言わなかった。


 そのことで、七斗くんと彪斗くんが言い合う場面がゲームではあったんだけど・・・この先あるのかな・・・。

 私がそんなことを考えながらうつむいて歩いていると・・・。

「そっかぁ・・・速水さんは・・・・全部知ってるんだね・・・・。」

 七斗くんがぽつりと言う。

「じゃあ、気兼ねなく話せるなぁ。」

 え?と、私は思い、ちらりと七斗くんを見てしまう。

「俺はね・・・確かに、彪斗に言われたから宝玉を飲んだけど・・・でも、実行したのは俺だから・・・俺の責任だと思ってるんだ・・・。」

「・・・・・・・。」

 それは彪斗くんと言い合いになった時に言う言葉では・・・。
 なぜここで言うの・・・ていうかそれなんかちがくない?
 実行したから責任・・・んーでもあるのかな・・・でも子供だったし・・・。

「ふふ・・・納得いかない顔してるね。」
「え!あ・・・うん・・・正直。」

 私は素直に答えた。
 ゲームをやってた時から思ってたことだし。

「正直、あそこで彪斗に言われたからって言ったら・・・もっと彪斗がつらい状況になるって思ったのもあるよ。」

 それは彪斗くんが七斗くんに言う言葉だよ・・・言い合いのときに・・・おい、ゲームの世界どうした。大丈夫か。バグったか。

「子供心に彪斗の状況をかわいそうだと思ってはいたしね・・・彪斗に言ったら殴られそうだけど。」
「確かに・・・。」

 七斗くんが笑ったので、私もふっと笑ってしまった。

「あの状況で彪斗のせいにはできなかったし・・・言われたことを、よく考えず、一凛ちゃ・・・山田さんと一緒にいたい一心で行った責任は俺にある。たとえ子どもでも。よく考えればわかるはずだったんだ。そんなこと・・・あるはずがないって。」

 七斗くんは、私に歩くペースを合わせてくれて、ゆっくりと歩きながら、淡々と語る。

「・・・七斗くんは偉いね・・・物分りがよすぎる・・・あと、自己犠牲・・・子供の頃から・・・今もだけど・・・・・そんなに大人びて・・・我慢してるのか分からないけど・・・色んな感情押し殺してるような感じして・・・・疲れない?」

 私がそう問うと、

「・・・・ふふ・・・たまに疲れる。もう慣れたけどね。」

 七斗くんは優しい笑顔でほほえんで、そう言った。

「はー!!!だめだめ!!!高校生でそんなんじゃ!!!もっとわがままに生きな!!大人になったらどうせ我慢の連続なんだから!!!」

 私が肩をバシバシと叩いてそう言うと、

「ふふ・・・ありがとう、宮本さん。」

 と、言われた。

「そうだよ!アラサーババアの言うことはきいとくもんだよ!高校生の時なんてもー!今から考えればどんなに楽で自由だったか!!もっと好きなことして自由に生きな!!!まぁ、七斗くんの場合は精神面の問題なんだけど・・・・。」

 と、私が考えていると・・・・

「・・・でも・・・少しは変化も出てきたよ・・・速水さんのおかげで。」
「え?」

「速水さんと二人の時は・・・前髪上げていようかな・・・って、思って・・・・。」

 タオル・・・巻いて・・・きたんだけど・・・・と、七斗くんは顔を赤らめて反対を向きながら語尾を小さくしながら言った。


 あーーーこれ・・・やっちまったか。
 私は瞳を閉じて少し首を傾ける。

 何?私、七斗くんルート入ってるの?
 え?私が七斗くんくんルート入ってどうするの?

 ていうか、一凛はどうしたの七斗くん!!!
 あなたの大好きな一凛ちゃん!!!
 さっきつい一凛ちゃんって言ったよね!?
 山田さんって言い直したけど!
 しっかりして!!!フラグ立てるのはあっち!!!あっち!!!

 と、思っていると。

「あ!あれがスーパーかな!」

 と、七斗くんのうれしそうな声が聞こえてきた。
 私が目を開くと、見慣れた24時間スーパーの明かりが見えた。

「うん、そう・・・。」
「よかったー!ついた。結構遠かったね、やっぱり。」

 お前はやっぱり主婦か!

 と、思いながら、にこにこするタオル巻きイケメンの顔面を、この際だから思う存分ガン見してやるのだった。



 続。



 69.七斗くんと彪斗くん。


「彩衣ちゃん大丈夫?」
「んー・・・。」

 翌日、私は寝不足だった。
 スーパーから大荷物を持ち、帰宅後、汗だくなのでまたシャワーを浴び、寝たのは1時近かった。なのに6時起き・・・。
 まぁ、そんな感じでゲームして仕事行ったりとかしてたこともあったけど!

「七斗と二人で行かないで僕らを呼べばよかったのに、そうしたらもっと楽に早く帰れたんだよ?」

 はい。と、蔵の階段に座っている私に、冷たいスポドリを渡しながら臣先輩が言う。

「そうですねー・・・なんで二人で行ったんでしょう・・・荷物の量あなどってました。あと七斗くんの主婦加減。」
「主婦!」

 と、麻日くんが笑う。

「見たことない物がある!って、バカスカ買うんですもん・・・びっくりしました・・・人には色んな面があるんですね・・・。」
「へぇ・・・七斗が・・・。」

 そこで私は、はたとする。
 臣先輩・・・なんかいつもとちがくない?
 いつもなら、七斗と二人っきりで?行ったの・・・?とか迫ってくるのに・・・平然として、ドス黒オーラだしてこない・・・え?何?どうしたの??私のこと諦めたの?え?本当に七斗くんルートはいったの??

 と、私が混乱していると、

「まぁ、七斗と二人っきりでいった罰だね。今度からはちゃんとボクに一声かけるんだよ、マリア。」

 と、頭に手を乗せられた。

 あ、諦められていないみたい。
 でもドス黒さはない・・・どうしたんだろう・・・。
 そんなことを思っていると、

「でー?そんな七斗は午前中ちょっと抜けていいかってどこ行ったんだあいつ?ずりーな。昼飯作る時までには帰ってくるって言ってたけど。」

 麻日くんがぶつくさ言う。
 そういえば今朝、朝食の時そう言ってたな・・・外行ったみたいだけど・・・。

「とりあえず、みんな一旦、外に出て休憩しよっか。結構探したし。」

 臣先輩のその言葉に、はーい。と、みなはぞろぞろ蔵を出て、社の日陰の段差にすわる。

「今日も暑いねー。」
「そろそろ一凛、両親と会うんだっけ。」
「うん。」
「彩衣ちゃんも一旦帰るんでしょ?」
「うん、そうなんだけど・・・。」

 と、みんなで風通しのいいところに座りながら、私と一凛が話していると、少し小走りの足音が聞こえてくる。
 こちらに向かってくるその方を見ると・・・。

「あ・・・休憩・・・とって、た?抜け出してごめん・・・・・髪・・・切りに行ってた・・・・・。」


「・・・・・・」


 みな、呆然。


 そう、そう言って現れたのは髪を短髪より少し長め、普通くらい・・・もちろん長かった前髪はばっさり切った、七斗くんだったのだ。


「え!おま、七斗!?どうした!!」

 麻日くんが叫ぶ。

「・・・ずいぶん、思い切ったね・・・。」

 臣先輩も驚いている。
 いや、私も驚いている。

 だって、髪を切って現れるのは・・・宝玉を元に戻して、一凛に心のわだかまりを癒してもらい、一凛に告白するために呼び出す、夕日の神社の鳥居の前でなのだから・・・。

 なんでこのタイミングで切ってるの!!!???

 いや、いいんだけど!いや!よくないか!?
 え!なんで!?

 私が動揺していると、七斗くんと目があった。

「なんか・・・さっぱりしたくて。」

 イケメン照れ笑いスマイルいただきましたー!!!!
 となりの一凛も少し顔を紅くして硬直している。

 ね!これは硬直するよね!!
 そうなんだよ!!七斗くんイケメンなんだよ!

 と、思いながらも、私はだいぶ慣れているので返事をする。

「さっぱりして・・・よかったね。似合うよ。」

 軽く笑いながら言うと、七斗くんはまた笑った。
 おっと、男子高校生無双おばさん気をつけて。

「しかし・・・七斗がこんなに顔の造りがいいとは知らなかったな・・・ますます気をつけないと・・・ねぇ、マリア?」
「へ!?え、あ、ああ・・・。」
「ん?なんかおかしいね・・・もっと一凛ちゃんみたいな反応してもいいのに・・・・もしかして、七斗が俗に言うイケメンだって知ってた?」

 まぁ、ボクもイケメンだけど。と、加えながら先輩は言う。

「いや・・・んー・・・まぁいろいろ・・・。」
「はぁ・・・せっかくマリアと普通に話せば普通に接してくれるんだなって思ったから心を入れ替えたのに・・・また醜い心が出てきそうだよ・・・・。」

 臣先輩は溜息をつく。

 え?そういうことだったの?と、思っていると、

「お、俺の髪のことはいいから!みんなちゃんと休憩して!巻物探そう!」

 と、七斗くんが顔を真っ赤にしながら少しうつむいて言ってきた。
 やはりまだ慣れないのか恥ずかしいのかな?

「先に行く・・・・。」

 すると彪斗くんが蔵へとそう言って入っていく。
 あ・・・と、私は思った。

 七斗くんが前髪を切ったことで、何か思ったのかな・・・。
 七斗くんが髪で目隠してるのって、なんていうか・・・罪悪感というか、罪の証みたいなところあったからなー・・・。

 彪斗くんと話したいなぁ・・・。

 私はそう思いながら、薄暗い蔵へ入っていく彪斗くんの背中をぼんやり見つめたのだった。



 続。



 70.どうか願いが叶うのなら・・・。


「・・・はぁ。」

 私は薄暗い蔵の中で、奥で探し物をしている彪斗くんの背中を見て、顔を正面に戻して、何度目かの溜息をついた。

「チッ」

 すると舌打ちが聞こえた。
 え?溜息うざかった?と、慌てて誰だろうと、聞こえた方を見ると、こちらをじと目で見ている臣先輩とその斜め後ろで不機嫌そうに巻物を探す麻日くん・・・そして少し悲しそうに苦笑している七斗くんがいた。一凛も苦笑いしている。

 え?何?そんなに溜息連呼うざかった?と、私は焦る。
 すると・・・。

「・・・マリア・・・そんなに露骨だと・・・いい加減にしてくれないと本当にまた前のボクに戻ってしまいそうなんだけどな・・・・。」

 と、臣先輩。

「え!?」

 私は何のことやら分からず声を上げた。

「マリアに想い人はいないと思っていたんだけど・・・彪斗だったのかい?なんだか前から知り合いだったみたいだし・・・もう片想いしてますオーラが全開なんだけどな・・・。」

 臣先輩は大きく溜息をついて言う。

「は!?え!?い!いや!違います!違います!!!私はただ、彪斗くんと話がしたくて!」
「話し?」
「はい!あの・・・ちょっと色々あって・・・話したかったけど嫌われてるのかなって思ってずっと話せてなくて・・・。」

 うつむきながら私はしゅんとする。

「話しか・・・・なら話すといいよ。それでボクのストレスも解消だ。ね、彪斗。」

「・・・蔵の中は声が響くぞ、バカ・・・・。」

「うわぁ!!」

 突然、頭を捕まれ、背後に彪斗くんが現れ、そのまま頭をつかまれ引きずられるように出口へと連れて行かれ、私は叫んだ後、え?え?と、パニックになりながらそのまま彪斗くんと蔵を後にした。

 彪斗くんは私の頭をつかんだまま、蔵を出ると、社の段差に置いてあったペットボトルを二本、その大きな手の指で掴み、反対側の、日影の社の段差へと歩いて行き、ようやっと私の頭を離した。

 そして、段差に座り、おら。と、私にスポドリのペットボトルを一本渡すと、自分もふたを開けごくごくと飲む。
 はー、かっこいい。って、そんなこと思ってる場合じゃない。

「で、話しって何だ。」

 ペットボトルから口を話すと、彪斗くんはじっと私を見て言った。

「えっ・・・あ・・・・。」

 い、言えない・・・言葉が出てこない・・・身体が硬直して、萎縮してしまう。

 一番好きなキャラ・・・好きな人に嫌われているかもしれない。
 という恐怖は、こんなにも怖い物なのかと、アラサーBBAは今更、思い知った。


 怖い。何も言い出せない。


 しかし、


「別にお前のこと、嫌っても怒ってもねぇから安心しろ。」


 そう言われ、一瞬、時が止まったかのように思えた。

「大方、社務所でお前が俺のことも七斗のことも、何もかも知ってるって知って、俺がお前のこと嫌ったり怒ったりしてると思ってんだろ。」

「お、怒って・・・ない・・・・の?」

 私は常温のペットボトルを両手で握りしめ、おそるおそる聞いた。

「まぁ・・・しばらくはむかついたけど、しかたねぇし、この世界がゲームの世界だったんなら、そのゲーム作ったり売り出したやつが悪いんだし。」

 少し投げやりに、ハッと笑いながら彪斗くんは言った。

「・・・・ごめんね・・・。」

 私は謝ることしかできなかった。

「別にいいよ。この世界がゲームだろうが何だろうが、俺はこうして生きてるし、この世界はこうして存在してるしな。」

 彪斗くんはペットボトルの飲料を飲み干す。

「で?お前が話したかったのはそれだけか?」
「え!あ!えっと・・・・・怒って・・ない?」
「・・・怒ってねぇよ。」
「私のこと・・・嫌ってない・・・?」
「・・・・・・嫌ってねぇよ。」

 彪斗くんは溜息をついて答える。

「・・・彪斗くんの・・・いろんなこと知っててごめんなさい・・・・きっと、知られたくないと思うのに・・・・ごめんなさい・・・。」

 私はうつむいて静かに言った。
 蝉の声がよく響いていた。

「・・・・何知ってんだ?いろんなことって。」
「え!」

 彪斗くんが真顔でそう聞いていたので、私は驚いて声を上げた。
 そ、それを聞くの!?全部って言ったじゃん!!

「それ・・・は・・・昔のこととか・・・いろいろ・・・・。」

 私がしどろもどろに言うと、

「俺が親に棄てられたことは?」
「!・・・知って・・・・ます。」
「・・・俺が隔離されてたことは?」
「・・・知ってます。」
「・・・隔離されてた時、一凛と出会ったことは?」
「知ってます。」
「・・・七斗に宝玉の嘘を教えてこの状態にしてしまったことは?」
「・・・・・・知ってます。」
「・・・・俺が学校に行けなくて行ってないことは?」
「・・・・ぼんやりそうかな?と。」
「・・・退魔師しながら神薙家の二階の部屋に住んでることは?」
「知らなかった!」
「しらねぇこともあんだな。」
「そうだね!」
「俺の好物知ってるか?」
「知らない!何!?」
「教えてやらねぇ。」

 彪斗くんは舌を出した。

「!」
「お前がしらねぇこともあるってわかったんだ。そうそう全部教えてたまるかよ。」

 彪斗くんはふっと笑った。

「・・・・・・。」

 彪斗くんが笑ってくれている・・・。

 私に・・・こんな私に・・・憎まれていいはずの私に微笑みかけてくれている・・・・。

 私は泣きそうだった。


「うん!そうだね!」


 私は目尻に涙をためながら笑った。


 私は彪斗くんに嫌われてなかった。

 怒って、嫌われていいはずなのに、彪斗くんは怒りも嫌わずにもいてくれてた。
 それどころか普通に話してほほえんでくれる。


 こんなに嬉しいことはない。


 やっぱり私は彪斗くんが好きだ。


 外見が好みだというのもあるけれど、ストーリー上の一番切ないキャラだったからだというのもあるかもしれない。

 けれど、恋は理屈じゃないんだ。


 落ちるものなんだ。



 この先どうなるのか分からないけれど・・・・。

 私の中身はアラサーのおばさんだけど・・・・。


 だけど・・・だけど・・・・



 どうか望みが叶うのなら・・・・・。



 続。
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