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第一章 プロローグ

第一話 転職

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 俺の名前は領海守(りょうかい・まもる)、今年で23歳になる。
 ほんのごく最近まで公僕として国に仕えていたのだが上司運が悪いのか汚い計略にまり懲戒免職となって今まで勤めていた職場を放り出された。
 しかし、世の中はうまくできている。
 『捨てる神あれば拾う神あり』というやつで、すぐに今の職場に拾われた。

 もう少し詳しく説明すると、俺の両親は俺が幼い頃に二人とも揃ってこの世から旅立っている。
 親父は警察官で、おふくろは市の職員だったのだが、俺が幼少の時に俺たちが住んでいた地域を襲った大災害によって二人とも殉職したと聞いている。
 何せあの時はとにかく酷かった。
 今でも地元では、そこら中に傷跡が残っているくらいだ。
 子供だった俺もそうだが、大人もそれも教師や警察官、それに救援に駆けつけてくれた防衛隊もが異常だった世界に驚愕していたのだ。
 誰もが必死だった。
 そんな中でやっと落ち着くかという時期になって、親の職場の方が訪ねてきて俺に両親の殉職のことを伝えてきたのだ。
 二人とも非常に仲の良かった夫婦だったという話なので、揃ってあの世に旅立ったのはある意味幸せだったのかもしれない。
 俺が生まれていなければという前提なのだが。
 幼くはなかったと思うがまだ一人では生きていけない年齢の俺を残していったのだ。
 多分、心残りの一つ位にはなっていたのだろう。
 それでも、両親そろって同時に殉職したとは物語にでも出てくるような話かと思ったら、全く別の場所での出来事だったようだ。
 揃って手を握りしめての話ならば少しはロマンチックな話だと思うのだが、二人が被害にあった場所は距離にして十分に100kmは離れていたというから、まあ現実とは物語のようにはいかずこういうものらしい。
 しかし、殉職した当時の二人は、とにかく被災した人たちを助けるべき精一杯働いていたところを襲われたと、それぞれに職場の同僚の方から聞かされている。
 おふくろは被害の大きい建物から逃げ遅れた人たちを誘導中に建物が崩れて下敷きになったと聞いているし、おやじに関しては状況そのものもわからずじまいだ。
 とにかく当時オヤジのいた辺りには被災後には何も残っていないという話だったようなのだから。
 それで、俺は祖父に育てられた。
 祖父は非常にやさしい人だったが、二言目には『守は両親の様に人さまの役に立つような人になれ』と言って俺を育てた。
 俺も馬鹿正直にそれを俺の生きる目標とするべく一生懸命に勉強して、海上警備大学校に無事に入学を決めた時に今まで俺を育ててくれた祖父も旅立っていった。
 同じ人様の役に立つのならば地方の一役人よりも中央の役人の方が、それもより上位者であればあるほどより多くの人のためになると子供の頃は信じていた。
 そこで俺は迷わずエリートを養成する学校の一つを選んで入学を果たした。
 今思うとそれが果たして正解だったかは甚だ疑問の残るところではあるが、進学が決まった時には、俺の祖父は本当にうれしそうにしていたのを今でも覚えている。

 俺が海上警備庁に将来を決めた理由は俺の名前があまりにもぴったりというのもあったのだが、先に挙げた子供時分の考えがあったためだ。
 『人を守る』で真っ先の思い浮かべるのが警察かそれに準じる職場だ。 
 警察官は親父の殉職もあり、行く気にはなれなかったというのもあるので、同じ警察業務ならばと海の警察を選んだためだ。
 まあ、安直に自分の名前から選んだともいえるのだが、それはあえて考えない。
 俺の名前を決めた両親も案外そんなことを考えて俺に守なんて名を付けたのかもしれない。
 尤も苗字の方は両親にもどうしようもないが。
 そんな俺を育ててくれた祖父は俺が進学したらすぐに親父たちの元に旅立っていった。
 死に目に会えなかったのだが、地元の人たちの話ではとても穏やかに息を引き取っていったと聞いている。
 大往生とも言っていたかな。
 そんなこんなで天涯孤独となった俺でも寮生活が基本の大学校で、しかも学費が無料の上、奨学金まで支給されていたので、何ら問題なく大学校を卒業して、俗に言うエリート街道に乗ったと、あの時には思っていた。

 奉職後すぐに庁内での不正を知ることとなり、持ち前の正義心から不正を糾弾したら、その不正の親玉に嵌められて懲戒される羽目になった。
 しかし、中央の政庁とは怖いものだ。
 海上警備庁は国土安全省の管轄にある一部局であって、ここのトップは政治家から指名されたいわゆるキャリアと言われる人だ。
 そう、俺が見つけた不正は結局のところキャリアだけでなく、その上の政治家までつながっていたようで、俺が海上警備庁の仕事の一環で巡視艇での親善訪問中にアメリカ領海内でいきなり懲戒免職を告げられて、最初の寄港地であるロサンゼルスでいきなり降ろされた。
 ありえない話でしょう。
 普通ならば日本に戻されて庁内で懲戒を受けるのならばわかるが、いきなり船から降ろされて執行猶予中は日本に戻るなとばかりにそんな感じのことを言われた。
 そもそも裁判もしていないのに執行猶予ってなんだよ。
 て云うか、俺は無実だ。
 裁判が開かれたら、俺は不正からの出来事を洗いざらい話して自分の無実を訴えるつもりだが、あ、だからアメリカで放り出されたのか。
 しかも2年は日本に戻るなとわざわざ釘まで刺されての話だ。

 一応、俺の扱いは説明された限りでは懲戒免職扱いのようだが、給金は出るようで今月分だけの給金はその場で渡されたのだが、わずかばかりの金でどうやって異国の地で生きていけというのだ。
 今考えるとそれも変な話で、懲戒解雇ならばいちいち給金の計算などするか。
 それならばそのまま放り出せばいいのに。

 でも、今船上にいるので暇な俺はさらにあの時のことを考えていくと、本当に怖いことだと今更のように思えてきた。
 あの時、着の身着のまま放り出されれば俺は迷わず、領事館に向かって助けを求めることだっただろう。
 そうなると、俺への仕打ちもそうだが、元となった不正も明るみの出てしまう。
 いくら政治家が関与していても、アメリカの領事館で俺を助けた人がその政治家に繋がっていなければ問題をさらに悪くする。
 最悪のケースでは俺を助けるような人がくだんの政治家とライバル関係にある政治家に近い存在ならば今回のことは格好の攻撃材料として俺は保護されるだろう。
 だから中途半端な金を握らせ、アメリカに放り出した。
 もしかするとここの職場も仕組まれていたとか……流石にそれは無いか。
 本来はもっと別な所に仕組まれていたかもしれないが、幸い俺の友人に助けられたので、今がある。

 なにせ、ここはアメリカだけあって、働き口は色々とある。
 俺にぴったりの職場もそれこそ知っていれば簡単に職にありつけるのだ。

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