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第4話 持ち物確認
しおりを挟む部屋は三階の隅にある割ときれいな部屋だった。
ひょっとしてこのホテルで一番高い部屋なのかな。
でも一泊で一円ならばたいしたことないか……いやいや、今後のことを考えるともう少し慎重にお金は管理しないとまずそうだな。
部屋の中に入りボーイも俺のキャスターバックを部屋の隅に置いてから部屋から出て行った。
俺はすぐに部屋の鍵を閉めて、いよいよゲージの中身を確認する。
室内は薄暗く、部屋の明かりを付けたくてスイッチを探しても見当たらない。
室内灯のあるべき場所にはガラスの……あれって、ガス灯?かな。
根元にガスの元栓のようなものが見えるが。
そうこうしていると、部屋の扉をたたく音がする。
「はい」
「室内灯を点けに参りました」
どうもガス灯を付けて回っているようだ。
「お願いします」
ホテルマンは部屋に入ると数個のガス灯を着けて回ってすぐに部屋から出て行った。
前よりは明るくなったが、それでも薄暗い。
夕方に差し掛かっているが、まだ日もあるのでカーテンを開けるだけでも部屋は明るくなるが、後ろめたい気持ちもあるので、薄いカーテンだけはそのまま閉めたままだ。
ホテルマンが出て行ったので、俺は部屋の鍵を閉めてから、先ほど中断していた持ち物の確認に入った。
当然、先に確認したのは猫の入れてあったあの藤で作られていたゲージだ。
中には紙のようなものがたくさんあるのはロビーで確認済だが、果たして何が出てくるのかな、と期待と不安を持ちながら取り出してみた。
そこには『大日本帝国国債』と大きく書かれており、額面で『金参佰円也』と書かれたものがたくさん入っていた。
しかし、この変な世界に紛れ込んでからというもの、書かれている文字がやたらと難しい。
これって、旧字体とかいうやつだよな。
大学を卒業しているだけあって、読めない訳はないがとにかく疲れる。
それで、取り出したものはというと、国債で一枚が三百円だよな。
今のレートで換算しようにも情報が少なすぎる。
総額でいくらになるかを調べるが、他にも調べるものがある。
まずは、俺が部屋に入った時に上着を脱ごうとして気が付いたのだが、今着ている上着がやたらと重い。
携帯と財布の他には家の鍵くらいしか入れていなかったはずなのだが、とりあえずポケットから全部取り出すと、全部がお金だった。
当然携帯と鍵はあったが、重さのほとんどがお金という感じだ。
財布にはオークションの支払いの残金で4万円に俺の小遣いが2万円くらいあったはずだが、長野県でのボロ市での買い物や、夕飯、それにホテルの支払いをしたから数千円くらいはあった筈になるが、その財布が壊れていた。
というか財布を入れていたポケットからお金があふれていた。
財布は壊れていたといっても、壊れていたのはかろうじて留め具だけの話で、この後もこの財布はどうにか使えそうだ。
良かったが、背広やベストやコートのポケットから出てきたお金と、猫が入れられていたゲージからお金を合わせると、一圓札で2万5千円分ある。
そう、あの時俺の持っていたお金がこの時代の紙幣に変わりそのままの金額で入っていた。
しかし、Suicaが見当たらない。
この様子ならば、Suicaにチャージしてある残金もSuicaを入れてあったケースと一緒にどこかにありそうなのだが、猫を入れていたゲージは先に調べたので、キャスターカバンか、俺の仕事道具を入れてあるリュックにあるのかもしれない。
しかし、このスーツのポケットが大きくて助かった。
多分、ポケットに入りきれないようだったら、バックの中かゲージの中に入れてあったあだろうかとは思うのだが、それにしても不思議だ。
お金の他にはカギと携帯を普段はポケットに入れてあったのだが、それもしっかりとポケットの中にあった。
しかし、携帯だが、これって通信が繋がらないとあまり使えないか……いや、カメラや他にも携帯端末としての使い方があるので、これからも持って歩こう。
となると、次に調べるのは俺の仕事道具が入るリュックの中身だ。
こちらには俺の仕事道具を入れてある。
携帯用PCとそれに付随するこまごまとした物や、猫を保護した時に気に使う首輪。
双眼鏡に携帯用の顕微鏡。
猫の首輪はともかくとして双眼鏡に顕微鏡、この二つはどちらも優れモノで、双眼鏡に至ってはカメラ機能付きだ。
しかも、捉えた映像を、ケーブルをつなぐことで携帯にもPCにもつなげられる。
遠くから監視ができるようにと奮発して買ったのだが、はっきり言って今まで出番などなかったものだ……あ、一度だけあったな。
遠くに見える物がよくわからなかったので、ケーブルをつないでグー●ルの映像検索に使ったことくらいか。
あの時は本当に便利な世の中になったものだと感心したくらいだ。
次に、携帯顕微鏡については、はっきり言って使ったことが無い。
これも優れモノで、LED照明付きのカメラ内蔵で、しかも使わない時のしまった状態での形状が、かさばらないA5サイズのPCパットくらいの大きさに収まる。
しかもだよ、これもカメラ映像でとらえた物の検索機能がついている。
顕微鏡に内蔵しているライブラリーに代表的な細菌や胞子、それに花粉などが調べられるし、これも双眼鏡の様にケーブルでつなぐとネットの世界中から映像検索してくれるらしい。
俺が出先で殺人事件にでも出くわした時に現場でいち早く鑑識作業ができるようにと思わず衝動買いしたものだが、はっきり言って、そんなことは起こらなかった。
どこぞの小学生がうらやましい。
その他に何かあるのかと探ってみると、今回出張に出る前に獣医のOBにもらった動物用の緊急応急セットや点滴用の部材に薬品まであった。
それに仕事上よく使う事務用品の大学ノート数冊に事務用ボールペン1ダース12本。
結構いろんなものを持ってきたものだと感心しながらリュックの底にあるものを取り出した。
これは、長野に出かける前日の夜に獣医のOBから頂いたものをそのままリュックに入れておいたものだ。
なんでも自分は使わなくなった緊急救急手術セットとか言って、黒いケースごと俺に渡された。
前に俺が保護した猫が大怪我しておりOBに助けてもらった時のことを件のOBは覚えていたのだろう。
使用期限も切れそうなものばかりだからと俺に寄越してきた。
だいたい動物は人間よりも生命力があるので、止血くらいしておけば割とどうにかなるらしい。
しかし、ケースの中には応急手術に必要なセットの他に点滴に使われる電界水溶液の粉末がひと箱に点滴注射針20個、それに抗生剤の使用期限の切れそうなアンプルがこれまた20個入った箱に、クロロホルムが小さな瓶で一つ。
クロロホルムを渡されるときに『くれぐれもこれで悪さをするな』って言ってきた。
俺が婦女子に乱暴するかのような言い草だった。
そんなに心配ならば渡すなよって言いたかった。
後で調べようとしていたのだが、キシロカインというのあったが、そういえばこれって長野で買った漫画にも出ていたな。
局所麻酔で使う薬だが、はっきり言って俺には使えない。
使い方も知らなければ使ったらあかんやつだ。
その他には簡単な工具類だ。
テスターもあったので、ホテルの電源も使い放題って電源を探しても見当たらない。
まあ、どこかで見つけないとまずいな。
さすがに明治時代ならば電気くらいはあるだろう。
最悪部屋の電球からって言ってもコンセントが無いからな。
あ、そう言えばこの部屋には電灯が無かった。
部屋の明かりがガス灯だなんて、おしゃれだとは思うがはっきり言って使えない。
そのうち考える。
最後は着替えなどを入れているキャスター鞄だ。
こちらには着替え類の他には俺が長野で買った時計や、あの『外科医ギャノン』のなりきりセットやらがあった。
このなりきりセットをしげしげと眺めてみると、動物用の緊急救急セットのようなカバンが見つかり中を調べる。
注射器の他に鉗子とメスにはさみがそれぞれ数本入っており、ピンセットに試験管セットまであったのには驚いた。
尤もメスはおもちゃというにはしっかりとした作りだが、しっかりと歯が落とされていたので安心だ……でも先がとがっているので、令和を生きた人間からしたら絶対におもちゃとするにはアウトだろう。
それに注射にはしっかり針もついていた。
もうこれは絶対に、少なくとも子供に売ってはあかんやつだ。
それに、漫画本がセットであるが、これもう一回読んだのだが、この時代ならば娯楽も少なそうだし、何度も読みそうだ。
それにポケットに入れていたはずのSuicaケースだが、そのケースはなんとキャスターカバンから見つかったのだがSuicaは無く、そこにはSuicaの残金で6千543円分の紙幣があった。
もう一度お金を集めて、総額を調べる。
国債だけで30万円あった。
それに一圓札で2万6千543円あったので、とりあえずPCとお金に国債だけをリュックに戻した。
お金だし、常に身近に置いておきたいが、結構重そうだ。
他は籐で作られたゲージには手術道具類や工具を入れておき、着替えやサンダル、それに安全靴はキャスター鞄に入れておいた。
これでひとまず持ち物の確認は終わった。
部屋を借りて良かった。
そういえば大学生時代にちょくちょく文芸部との合コンがあったのだが、その時に文芸部の先輩からラノベについての講釈を聞かされた。
俺はそういうのに興味は無かったのだが、文芸部とハードボイルド研究会は割と仲が良く、ちょくちょく飲み会があったのだ。
文芸部ともなるといろんなジャンルが好きな者たちが集まるのだが、ライトノベルをこよなく愛した先輩に何故だか俺はよくかわいがられた。
まあ、文句ひとつ言わずに先輩の講釈に付き合っていたのだから、たぶんそんなことが理由なのだろう。
で、先輩が話していたことに異世界に転移した主人公は、最初の町や村で宿を十日ばかり取るのが定番なのだとか。
その十日の時間を使って、その世界の最低限の常識と冒険の準備をするものらしい。
それが頭にあったのか、俺もホテルをいきなり十日も連泊する手配をしたのだ。
あの時の先輩の講釈は、今思うと俺の境遇では最適解になるようだ。
俺も、この世界で生きていくのならばそろそろ腹をきめてかからないとまずい。
ならば、次にすることは常識についてだが、初めにこの時代に見合う経済観念を身に着けないとまずそうだ。
まず、明治時代について簡単に調べようと俺はPCを立ち上げた。
ネット環境が無ければ無意味だろうと言われそうだが、そこは令和の貧乏探偵を舐めてもらっては困る。
情報は古くはなるが、それでも令和でなく平成時代までのならローカル環境にいっぱい情報がストックしてあるのだ。
種明かしをするとCD版の百科事典やら、大国語辞典に家庭の医学書が三種類に5か国の言語翻訳機能付き辞書まである。
それを全てPCのSSDに落とし込んであるのだ。
最近はSSDの価格も相当落ちてきていることもありテラ単位の記憶容量を持っている。
クラウドに情報を預ける人も多くいるようだが、クラウドを利用するにはネットにつなぐ必要があるが通信料金って馬鹿にならないのだ。
そもそもネットを好き放題使えるのならば、いちいち情報を自分で持つ必要もないが、それこそネットを利用して探せば済むだけなのだが、それだと俺の場合ではインターネット接続料金をケチったので通信料がかかるが、これが地味にお財布を攻撃してくるのだ。
それなら、あらかじめローカルに情報が有ればその費用は掛からない……これもお金がある時の無駄使いの成果なのだが、案外便利なので、令和の日本でもたびたび使っていた。
その百科事典や国語辞書を使って簡単に明治時代を調べてみた。
しかし、本当に助かった。
最近はどこでもネットがつながると言っても、流石に明治時代までは無理だろう。
そこに行くと平成の常識になるようだが、ローカル環境に情報を集めておくのは費用面だけでなく、明治時代でも実際に使えたので、正直助かった。
そこで分かったのが、明治時代も割と長くて、いったい今がいつなのだというところで調査は止まる。
ならばあとで新聞などから調べるつもりで、一旦作業を終えた。
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