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第一章 転移、そして自立
第二十話 製塩業 始めました
しおりを挟む翌日から、俺は早速次のステップに移るべく行動を開始した。
次は塩だ。
塩作りの方法は昔からいくつかあるが、基本は海水を蒸発させるの一言に尽きる。
方法がいくつかあるのは、その方法で効率が違ってくるのである。
天日で海水からそのまま干しておいても塩はできる。
あまり綺麗な話ではないが、夏にたくさん汗をかいて、その汗が乾いたところに白いものが付くことがあるが、これは汗に含まれていた塩分が塩として残ったものであるのと同じ現象であるが、これは余りにも時間がかかるし、雨が降ったらできないので、商業ベースではあまり用いられない。
多くの場合に、海水の塩分濃度を上げて、その塩分濃度の上がった海水を火力で一気に水分を飛ばし塩を取る方法が一般的である。
この海水の塩分濃度を上げる方法がいろいろ各地で工夫されて、いくつもの方法があるのである。
大規模生産を当面はするつもりがないので、とりあえず実験的に塩作りを始めようと思っている。
しかし、寺での生産には、海水の入手に手間がかかる。
ここから近い海辺に生産用の拠点作りから始めようと、昨日のうちから珊さんに協力を仰いだ。
炭作りは先行組?だけでも大丈夫のようで、既に生産を任せているとのことだった。
流石に販売の方は張さんの手を離れてはいないが、少しずつだが、全員で生活力が上がっていくのを感じた。
そこで、今朝から、珊さんに昨日到着した組から、数人を連れて、浜にやってきた。
葵と幸がついてきたのには流石に笑ったが、大和にはついていけなかったので、今度は一緒に作業をしたいそうだ。
何故かこのふたりは俺によく懐いているようだった。
別にいくらでも仕事はあるので、珊さんと葵と幸、それに昨日到着した者の中から5人ほど付いてきてもらった。
浜について、付近を簡単に調べ、浜と林の境目のあたりに、生産の拠点となる小屋を作ることにした。
昨日着いた者の中に大工仕事に多少の経験のあるものがいた。
与作といって、第2陣を率いていたリーダーのような人だった。
その彼にも付いてきてもらっているので、かれにこの場を任せ、早速小屋を作ることにした。
必要な木材等は、そこいらに生えている木を切り倒して使っていった。
本当に掘っ立て小屋だが、今はそれで十分である。
追々このあたりに生産の拠点としての設備を増やしていくつもりである。
今日一日で小屋は完成した。
本当に簡単な作りの小屋であるが、すぐ傍まで林が迫ってきており、早々の風雨はこの小屋で大丈夫そうだった。
どうせ住むのは寺である。
ここは休憩や部品等の保管に使うだけであるので、俺としては満足であったが、多少大工の心得のある与作さんには不満であるようだった。
でも、俺らの仲間内で大工仕事までできることがわかっただけでも収穫である。
今後は与作さんに大工仕事の棟梁を任せ、幼い子供たちにも技術の習熟をお願いしていこうと考えている。
与作さんは、大工の棟梁をしていたわけではなく、そこで修業中だったとかなので、厳しい徒弟制度のような修行をさせるのではなく、DIYのような軽い気持ちで簡単な仕事ができるように仲間を指導してもらうつもりだ。
俺も、多少は分かるつもりだが、臍(ほぞ)組などの難しいことはあまり詳しくなく、もっぱら電動工具を使った日曜大工レベルなので、みんなと一緒に楽しく知識と技能を習熟させていくつもりだ。
今日は、小屋を作ったので、明日は、塩作りのための簡単な施設を作っていくつもりで、夕方には寺に戻ってきた。
ちょうど、門前の市から戻ってくる張さんたちと途中で一緒になった。
まだ、そんなに時間は経っていなかったが、張さんに門前の様子などを聞いてみた。
大丈夫だ。門前の様子からはきな臭い話はなかった。
今年は俺らのことだけを考えていても大丈夫そうだった。
塩の試作品ができたら、俺も願証寺まで行って上人様にもう一度合うつもりだ。
とりとめもない話をしながら寺に戻っていった。
明日は勉強の日に当てているので、作業は俺一人になる。
もう少し付近の調査をしていくつもりだ。
翌日、俺は玄奘様や張さんにみんなの学習の件を頼んだ。
特に、新たに仲間に加わったみんなには玄奘様より説明をしてもらい、平仮名から始めてもらった。
習熟の早い子は既に平仮名を終えており、アラビア数字を覚え始めているのも出てきた。
すぐに計算を習わせないといけないだろう。
計算の学習になると、今のところ張さんしか頼りになりそうにない。
アラビア数字を使った計算では玄奘様は教える側ではなく習う側になってしまうのである。
そうなると、俺も教える側に回る必要が出て、今のように自由に動き回れなくなって来るだろう。
そうなる前に、色々とこの付近を回っておきたかった。
俺は、寺を出ると、川原に行って、炭焼きに使っている窯の様子を確認した。
ところどころ傷んでいたようだが、まだ十分に使える状態だった。
俺は、窯から、売り物になりそうにない炭を拾い上げ、それを持って、浜まで来た。
昨日作った小屋に入り、浜の砂を集めて、囲炉裏のようなものをこさえた。
そこに、さっき拾ってきた炭を起き、火をおこした。
それだけで半日を要した。
昨日は一日で小屋を作ってしまったのに、本当に一人ではできることが限られる。
仲間の重要性を改めて感じたのであった。
まだまだやりたいことはたくさんあったが、まず、おこした炭火に素焼きの深皿を置き、海水を入れた。
ただぼ~っと見ているのもなんなので、俺は、このままの状態で付近の探索に出かけた。
現代では火をつけたままでその場を離れるのはとても危険なので絶対に勧めないが、この時代には、割とあるのである。
そもそも、火を起こすのが大変で、一度起こした火は絶やさないようにしているのが普通なようで、俺も、ちょっとは気にはなったが、その場を離れた。
塩の生産が軌道に乗れば、次は干物の生産に取り掛かりたい。
はじめは、生魚を付近の港から買う事になるだろうが、目の前に海が広がっているのである。
自分たちで魚を獲っていきたいのだ。
それには船も入手しなければならない。
当面、沖合に出るつもりがないので、自分たちで作れないか、珊さんや与作さんに相談していくつもりだ。
昼を過ぎたあたりに、勉強を終えたのか葵と幸が小屋までやってきた。
子供たちだけで、それも女の子だけで林の中を来たのは危険がいっぱいで、とても褒められたことではない。
俺は、葵と幸に文句を言ったら、俺も子供だと言って反論してきた。
確かに見た目は子供、頭脳は大人……これはもういいんだって……俺はこの時に初めてコ●ンの気持ちがわかった。
少年●偵団の子供たちの暴走を止めているときの気持ちを理解した気持ちになった。
それはもういいが、それでも葵たちには、今度から、ここまで来るのならば、珊さんかほかの大人の人と一緒に来てくれと頼んだ。
彼女たちは膨れてはいたが、約束してくれた。
どこまで守ってくれるのかはわからないが、……これも一緒か。
俺は、彼女たちに作りかけの塩作りを手伝ってもらった。
それからしばらくすると、海水は完全に干上がった。
素焼きの深皿には塩が残ったが、とても少量である。
ん~~~、やはり直接の加熱では効率が悪すぎる。
藻塩だったか、流化式なんちゃらだったかは忘れたが、海藻を拾って、海水の塩分濃度を上げる工夫をしていかなければならいことはわかった。
初めから分かってはいたが、もしかしたら楽ができんじゃね~っと思ってもいました。
やっと人手もある程度は見込めるようにもなってきたことだし、手順を踏んでやっていくことにした。
それでも、今日はできない。
明日以降だ。
また、明日には大工仕事を頼まなければならないな。
俺は、葵と幸を連れて寺に戻っていった。
やりたいことはたくさんある。
自分たちで、塩を作ることは決定事項だけれど、この付近で鹿などの狩りができるようならば、膠も作れる。
膠が作れたのならば、自分たちで墨も作れるようになる。
墨ができたのならば、観音寺城の城下で商いが効率よくできる。
かなりの収益が見込めるのだ。
塩と炭は門前の市で商うが、墨ができたのならば、これは観音寺まで売りに行きたい。
大和での商いの許可が下りたのならば、塩の商いをし、そこで安い墨を購入し、観音寺で墨を売って帰ってくる商社のような商いもできる。
夢は広がるが、全ては塩の生産にかかってくる。
これは、もう少し研究をする必要がありそうだ。
葵も幸も協力的なので、当分彼女たちに協力を仰ぎながら研究をしていこう。
炭の商いは完全に張さんに任せても大丈夫だ。
畑も幼子たちに任せよう。
もう少しで、ここでの生活も形ができそうだ。
そこまで行けば、さらに色々とできることが増えてくる。
焦る気持ちがないではないが、ここは焦らずにじっくりやっていくことにする。
まだ、門前の様子ではきな臭くなってはいないし、織田信長の伊勢侵攻までは同じくらいの時間はあるはずだ。
でも焦るな~。
我慢だ、我慢するぞ、今はようやく良い方に回ってきているのだ。
とにかく、この流れを壊さずにさらに良く回るように持っていくことに注意を向けていくことに決めた。
とにかく、塩の試作品を作って、一度上人様を訪ねなければならないな。
夏の前までには作って持っていこう。
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