名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第一章 転移、そして自立

第二十一話 尾張勢との接触

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 翌日は寺のみんなは分かれてそれぞれの仕事についていく。

 新たに仲間になっていた人たちも、昨日の勉強会を通して、先行組の人たちと徐々にではあるが打ち解けていたので、朝みんなが別れる前に、一度全員を集め、簡単に仕事の割り振りをし直した。

 新たな仲間は、ここでの生活に慣れてもらうのを第一において、大人の女性2人と与作さんを除く大人の男性を一緒に張さんの炭売について行ってもらった。
 子供たち全員で、畑仕事をやってもらい、それが終わったら、玄奘様について寺の営繕を手伝ってもらった。

 残りの男性は、いつもだったら珊さんについて炭作りをしてもらっていたが、与作さんに全員の面倒を見てもらい、炭作りを任せた。
 炭作りは、既に先行組がマスターしていたので、与作さんにはメンバーの監督をお願いした。

 で、俺は、どうせ付いてくる葵と幸を連れて海に行くつもりだったが、今後のこともあり、珊さんにも一緒に海まできてもらった。

 まず、炭作りのみんなと川原まで一緒に行って、そこで、みんなとは別れ、葵と幸に落ちている売り物になりそうもない炭を拾ってもらい、浜まで来た。
 早速、作った小屋に入り、炭で火をおこし、次の作業に取り掛かった。

 みんなで、近くの竹林に入り、手頃な竹を切り倒し、浜まで運び、小屋の前の浜に切り倒した竹を使って、簡単な柵をこさえた。
 柵ができたら、浜に落ちている海藻を広い、拾った海藻を柵に干した。
 作業をしながら俺は、さらに次のステップである干物の生産について珊さんに相談した。

 「俺は、ここで、魚の干物を作って、売りに行きたいのだけれど、肝心の魚の入手について悩んでいます。
 珊さんは、昔腕の良い水夫だったと聞いていますが、海での漁の経験はありますか。」

 だいぶ珊さんも勉強会などを通して日本語が上達し、以前のようにはどもらなくなってきた。

 「子供の頃には、オヤジ達の手伝いくらいはした。
 水夫時代には、ほとんどやっていない。
 あ、でも、やり方ならわかる。」

 「珊さん一人にお願いするわけじゃないのですが、素人を連れて、このあたりでできそうですか。」

 「できなくはないが、船ないから、今は無理。
 あと、網もいる。」

 地引だろうと、投網だろうと、網がいるには変わらない。
 どうにかして作れないだろうか。
 それに船をどうするか。

 「珊さん、このあたりの木を使って船を作れないかな。」

 「作れないこともないけれど、難しい。」

 「ダメもとでいいから、何人かでつくりませんか。」

 「だめもと??何。」

 「あ、すみません。
 ダメ元とは、ダメで元々ということを省略した言い方で、私だけが使う言葉でした。
 あのですね、失敗する覚悟で、最初は誰も上手にはできません。
 失敗しても、何度でも、何艘でも成功するまで船を作りませんか。
 最初は小さな2~3人乗りくらいの手こぎの船を作って欲しいのだけれど、協力してくれませんか。」

 「わかった、俺はいいが、炭作りはどうする。」

 「他の方に任せましょう。
 だいぶ慣れてきた方もいるようだから。」

 「空さ~ん、いっぱい拾ってきたよ。」

 珊さんといつの間にか手を止めて話し込んでいたら、幸が大声でたくさんの海藻を抱えてやってきた。

 「お~~、たくさんあったな。
 それくらいあれば最初はいいか。
 それをみんなで、あの柵に干すぞ。」

 「でも、これを干してどうするの。」

 「これに海の水を掛けて、少しづつ海の水を塩っぱくして、最後には火でその塩っぱいしょっぱい水を煮て、塩をとるんだ。
 小屋にあった深皿に白いものが付いているだろう。
 あれが海水から取れる塩なんだけれども、そのまま海水を煮ても、ほとんど取れないから、初めに海水をより塩っぱい水に変えてから作るんだよ。
 その塩っぱい海水を作るための装置になるんだ。」

 「へ~~、そうなんだ。。
 よくわからないけれど、これをここに干せばいいんだよね。」

 「あ~そうだよ。」

 「わかった、葵ちゃん、ぱっぱとほしちゃおう。」

 ふたりは、どんどん海藻を作った柵に干していった。
 それを見て、俺は肝心なことを思い出した。
 海藻の下に海水を受ける受け皿がない。
 干し終わったみんなを集め、もう一度竹林に向かった。
 今度は太い竹を探してもらった。
 竹で樋のようなものを作り、一箇所に集まる工夫をしていった。
 最後のところには桶が必要になったので、近くの桑名まで買い出しにいって、とりあえずの海水を蒸発させる装置は完成した。

 後は実際に試行錯誤を繰り返して塩を作っていくだけだが、まず、装置にみんなで海水をかけていった。
 これがかなりの重労働だということに気づき、さらなる工夫をしなければみんなに任せることができない。

 受け皿用の樋と同じような樋を柵の上にも作り、樋には穴をたくさん開け、そこに海水を流す仕組みを作った。
 集めた海水を桶から掬い、更にもう一度上の樋に入れ、海水を蒸発させていくことにした。

 今日は、ここまででいっぱいになったので、明日から、実験をしていくことにして、みんなで寺に戻っていった。
 夜に、玄奘様と張さんそれに珊さんに集まってもらい、干物作りについて相談をした。

 当面は珊さんに数人を付けて船を作ってみてもらうことにした。
 生木では難しいとのことだったので、浜の近くで、よさそうな木を見繕って、切り倒し、積み上げて干すことになった。
 かなりの力仕事になる。

 商いに向かう警護のための大人を確保しなくてはならないので、それ以外の大人をそれに当てることにした。
 炭作りの方は比較的子供でも大丈夫そうなので、畑仕事に回っている子供の中から大きい男の子を炭作りに回すことにした。

 当然、今まで作っていた大人も残るが、人数は減る事になる。
 でも、ここに来て50人もいるこの寺は、色々とほかに手を回せるだけの人手を得ることができた。
 ある意味、前回の観音寺行きは大成功だったと言えよう。

 徐々にではあるが、先行して仲間になった人たちも、ここでの生活に慣れてきて、積極的に協力してもらえているので、俺や珊さんはだいぶ手がかからなくなってきた。
 しかし、商いの方は経験がどうしても重要になってくるので、まだ張さんの手が離れない。

 今いる人たちがもう少し慣れてくると任せられそうだということなので、しばらくは張さんに頑張ってもらうことになる。
 ここ1ヶ月内には塩も作れそうなので、一度塩ができたら俺も一緒に門前まで行って、上人様に挨拶をし、今張さんと一緒に炭を売ってもらっている人に門前の炭の販売を任すことにする。

 その件も上人様にお願いをしておいて、何か問題が発生した場合に上人様のところに逃げ込めるようにしておけば、少しは安全に商いもできるだろう。

 当面の行動計画を決めその日の打ち合わせは終わった。

 翌日は、勉強会の日である。
 俺は一人で浜まで来て、海水の蒸発実験を繰り返した。
 ほとんどやることはない。
 集まった海水を桶で、上の樋に戻すだけの繰り返しである。
 正直退屈なだけであるが、ただ黙々とやっていく。

 目の前の浜を時々、本当にまばらではあるが人が通る。
 その多くが行商人のたぐいであり、また、漁師などの地元の人などである。
 過去に一度だけ、浪人風の侍の姿を見たこともあったが、その時にはすぐに隠れた。

 野盗との区別がつきにくいので安全を見越しての措置である。
 今日は、まだ、人は見ていなかった。
 そんなことは珍しくもない。
 人を見かける方が珍しいくらいなのだ。

 でも、俺は気づいた。
 遥か遠くではあるが、人がこちらの方に向かってくる。
 足軽のたぐいではない。
 そもそも足軽は戦がなければ農夫か漁師などの別な仕事についており、外見では見分けられない。

 向かってくるのは明らかに侍である。
 しかし、少し様子が変である。
 浪人風にも見えなくはないが、もう少し余裕がありそうなのだ。
 間違っても野盗のたぐいではないので、俺は、作業を続けていた。
 目の前にその侍がお供を連れて通りかかってきたところで声をかけられた。

「坊主、精が出るな。
 で、何をやっているんだ。」

「お侍様、はい、塩作りの前処理をしております。」

「塩作りとな、で、坊主はこのあたりのものか。」

「私はここの出身ではありませんが、縁あって願証寺の修行僧の方に救われ、このあたりで、ほそぼそと同じような境遇の者と一緒に生活をしております。」

「では、このあたりのことについて詳しいのか。」

「すみません、生きるのがいっぱいで全く地元の方とは接触がありません。
 ここいらで作ったものを寺に持って行って、生活の糧にしていますので、この浜か、長島の寺のお世話になっているごくわずかのお坊様しか面識はありません。」

「このあたりのことについて聞きたかったのだが、邪魔をしたな。」

「失礼ですが、お侍様はどこのどなたでしょうか。
 お世話になっているお坊様にあとで聞かれた時に報告のしようがありません。
 差し支えなければお名前だけでもお教え願えないでしょうか。」

「名前を聞いてなんとする、大方ワシを頼ってくるつもりでもあるまいに、でも良いわ。
 ワシは、尾張の殿様に仕えている滝川と申す。
 もし、その坊主が何か言ってきたらそう答えよ。
 ワシには何もできんがな、ワハハハ。」 と言ってその場を去っていった。

 オイオイ、まだ織田信長の伊勢侵攻は早いだろう。
 こんなに前から滝川一益は調略に出ていたのか。
 どちらにしても用心はしておこう。

 そんなことを考えていると、また、勉強を終えた葵と幸がこっちに向かってきた。
 ちょうどいい、これを手伝わせよう。

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