名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百十一話 紹興酒

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 大広間での雑談の後流れ解散のようになった。
 豊田様は本多様を連れてこれから宴会を開くのだとか言っていた。
 まだ日も残り明るいうちから宴会かよとは思ったがお客様の接待でもあるので黙っていた。
 接待で失礼がないようにと張さんも珊さんを連れて一緒に豊田様についていった。

 俺か、俺はガキのなりだし公式な酒宴でもないから酒の席には参加しない。
 元の世界で成人していたとは言え、元の世界ではコミュ障で宴会など一切参加しなかった。
 苦痛でしかなかったのである。

 こちらに来てからはコミュ障は発症していないようで、以前感じていたような苦手意識はほとんど感じない。
 生きるのに精一杯な環境で贅沢など言えなかったのが良かったのか、はたまた子供の身体に精神も引きずられコミュ障が発症しなかったのかは定かではないが、とりあえずは良かったといえよう。

 しかしまだ日も有り夕食を取るには早い時間だ。
 かと言って本多様について宴会にも出る気は全くない。
 一度大雑把に島内を回ったが、今度は気ままに散歩にでも出ようと城から出た。
 当然のように俺に付いて葵と幸も城から出てきた。

「散歩に行くだけだぞ」

「いいからついて行くもん」

「つまらなくとも文句を言うなよ」

 三人が連れ立って島内を散歩していく。
 閉鎖された環境のため島内の治安はすこぶる良い。
 俺たち子供だけで歩いていても全く問題は出ない。
 当然のように藤林様のところの忍び衆が隠れて護衛してはくれている。

 トボトボと街を避け海岸縁を歩いていた。
 なんとなく歩いていたら造船所に着いてしまった。
 造船所ではよく見慣れた我々の主力船でもある船を作っているようだ。

「ここでもあれを造っているんだ」

 俺がふと漏らした感想を聞いたのか造船所の棟梁らしき人が俺のそばまでやってきた。

「殿、どうしましたか」

「いや、先程は視察に来たけど、今は散歩のついでだ。
 驚いたのは、まだあれを作っているんだね」

「あれですか、そうですね、ここで作られる壱番艦になりますね。
 すごいでしょう。
 あの色の漆を塗るのは初めてじゃないですかね」
 と言って棟梁は作りかけの船に漆を塗る作業をしている方を指さした。

「え!、えらくど派手になりませんかね」

 今船に塗ろうとしている漆の色が俺らの保有する船に塗られている黒ではなく赤なのだ。
 朱色と言ったらいいのだろうか。
 あの漆の器の内側に塗られているような朱色を船の船体に塗ろうとしていた。

「あの色を船に塗るのですか」

「はい、向こうの希望でしたし、顔料はあちらさんの持ち込みですから」

「向こう?
 なんのことですか」

「え、聞いていませんか。
 あの船は張の姉御の知り合いである商人さんが注文したものだと聞いていますよ」

「え?」

「あれ、おかしいな。
 九鬼の殿様も殿には許可を取っているから大丈夫だと言っていたはずなのだがな~」

「そうですよ。 
 今更船は売れないと言ったらまずくないですかね」 と棟梁の横で俺らの会話を聞いていた職人の一人が言ってきた。

「船を造る時に前祝いだと言ってもらった酒を飲んでしまいましたしね」

「おう、あの酒はうまかったな。
 なんて言ったっけか」

「なんでも、あちらの国の酒で……なんだっけかな。
 そうそう、しょうこうなんとかといいっていたような」

「もしかして紹興酒ですか」

「そうです。
 それそれ。
 殿はよく知っておられますね。
 もらった酒を既に飲んでいたとか」

「あの時、もらった酒は大きな瓶で10はあったよな」

「そのうち3つは三蔵村に運んだぞ」

「聞いていますよ。
 上人様と玄奘様からお礼の手紙を受け取ったと城の連中が喜んでいたからよく覚えていますよ」

 え、お坊さん酒飲んで良かったっけ……妻帯も許される宗派なら飲酒くらいは問題ないか。

「俺、聞いていないよね」

 俺は葵にこぼした。

「酒の件は聞いていませんが、船の建造の件について私はよく覚えておりますよ。
 あの時九鬼様からの伝言を空さんに伝えたのはこの私ですから」

「え、いつのことですか」

「もう数ヶ月前になりますか。
 そうそう、あの時一緒に伊勢の寺から借りる兵糧の件での取り決めなどの報告と一緒に書類にして渡し、すぐに空さんに了承の署名をしてもらいましたからよく覚えていますよ。
 花押というのですか、こういった書類には必要だとかないとか言いながら空さんはご自身のお名前と一緒に雲の絵を書いていたのをよく覚えていますから。
 確か金斗雲とか言いながら書いていたのをよく覚えていますよ」

「あ~~、あの時か。
 炊き出し前で色々と忙しかった時か。
 それより、その時頂いた酒って、本当に紹興酒なの」

「へい、そうですよ。
 1つは初めの宴会で開けてしまい直ぐに空になりました。
 でもまだ沢山あったはずですよ」

「そういえば、張さんが今日本多様に飲ませてあげようとか言っていましたね」

「え、ということはまだ残っているの。
 というか、あの時の商人さん、なんて言ったっけ」

「白さんですか。
 確か白圭さんと仰っておられましたよ」

「さっき雑談でも出てきたけれど白圭さんはこの島にも店を出すとか言っていたよね」

「そのための船だと聞いていますよ。
 あの船は足が速いので、大陸との行き来が楽だとか」

「とすると、紹興酒はここで入手できるよね」

「それはどうですかね。
 あの時いらした商人さんは、なかなか手に入らない酒だと言っておられましたから。
 もらった酒は違うそうですが、物によってはあちらのお偉いさんに献上されるものもあるのだとか。
 たまたま手に入ったので、これからの店の発展を願い奮発したとか言っておられましたよ」

「酒はまだ残っているかな。
 もし手つかずの酒があったら2つは抑えて欲しい。
 幸悪いけどすぐ城に行って2つは抑えておいて。
 俺の分だとか言ってね」

「わかったけど空さんたちはこれからどおするの」

「街に行って白圭さんを探すよ」

 俺は街に行って白圭さんの店を探した。
 しかし白圭さんの店などなかった。
 まだあちこち作りかけの家などたくさんあるが、それほど大きな街じゃない。
 あれば見落とす事などないのだ。
 しょうがなく白圭さんと親しくお付き合いをしていた能登屋さんの店を訪ねた。
 こちらは先ほどの話じゃないが既にしっかりとした店構えの店が営業していた。

 店に入り番頭さんを捕まえ白圭さんのことを訪ねた。
 番頭さんの言うことには白圭さんは仕入れに寧波にいっているのだとか。
 戻りは春先になるような事を言っていた。

 白圭さんがいないのならしょうがないと、最近の様子など情報を得ようと番頭さんと雑談を始めた。
 さすがに堺の豪商の一つに名の上がる能登屋さんだ。
 西日本に限ればその情報たるやすごいものだ。
 九州の大内や大友の様子や中国地方の毛利などの様子を教えてくれた。

 最近では少量ではあるが白圭さんと博多でも商いを始めたとかで特に北九州の動向には気にしているようであった。
 そんな感じで時間を潰していたら城に使いに出していた幸が戻ってきた。

「空さん。
 探しましたよ」

 いきなり文句を言ってきたが、紹興酒は最後の2つを確保したと言ってきた。
 かなり危なかったそうで、豊田様達が既に1つを開け2つ目にはいろうかというタイミングだったとか。

 豊田様たちには紹興酒の代わりに城にあった灘の酒に変えてもらった。
 この島には紀伊之屋と能登屋といった堺の豪商の店が2件も有り、付近の銘酒をいくつか仕入れているとかで、城には常に酒があるのだとか言っていた。

 それにしても良かった。
 紹興酒を抑えることができたのも、本多様や豊田様に不快な思いをさせることがなかったのも良かった。

 これを最初の献上品に加えることができそうだ。
 いずれはこのあたりで酒作りをしていきたい。ミード作りにも挑戦していくことは決定条項なのだが、勅使を迎える時までには間に合いそうにない。
 地味品だけでごまかそうかと思っていたが、これならインパクトを持たせることができる。

 よく考えれば堺に太いパイプがあるのだから、葡萄酒やラム酒なども入手できたかもしれない。
 ま~~今回はこれでいけそうだ。

 しかし、大きなツボのままというのは格好がつかないな。

「番頭さん。
 お願いがあるのですが、白磁の壺を、大きさはこれくらいの白磁の壺を10ばかり入手できませんかね」

「工芸品となると値も張りますし、すぐには……」

「無理なら、陶器のそれもわりと綺麗な壺を入手してもらえませんか。
 献上品を入れたいので」

「献上品ですか。
 酒ですか」

「はい、以前に白圭さんから頂いた紹興酒を分けて入れて献上したいと思っております」

「おう、それは良いお考えですね。
 あの酒はいいものですよ。
 献上品としてですか。
 分かりました、直ぐに店主と相談してご用意させていただきます」

 それにしても船を製造販売するとか、ちょっとすごいことになっているのかも。
 でも、そのおかげで献上品の目処も付いたし、良かったとしよう。

「城に戻って、献上品について張さんと相談しよう。
 張さんは酔っ払っていないよね」

「大丈夫ですよ」

 俺は日も沈んで夕焼けの明かりで赤く染まった道を城に向かって歩いて行った。
 そういえば、まだ油は残っているよね……。

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