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第五章 群雄
第百十二話 同盟の下地
しおりを挟む翌日、本多様と連れ立って港まで来た。
そこには昨日我々をここまで運んできた船が、いつでも出港できる状態で待機していた。
本多様は昨日の酒が残っているのか少し辛そうではあったが、嫌な顔一つせずに船に乗り込んでくれた。
我々が最後の乗船客であったのだろう。
我々が乗り込んだら直ぐに船は港を離れた。
「空さん、おはようございます」 と甲板上で島の様子をボーっと眺めていたところに昨日お会いした能登屋の番頭さんが俺に挨拶してきた。
「お、おはようございます。
能登屋さんもこの船にお乗りでしたか」
「はい、昨日空さんに頼まれた壺の手配で堺の本店まで行きませんとなりませんから」
「それはすみませんでした。
番頭さんを堺まで連れ出すような大事までなりましたか。
壺など十ばかりでは大した儲けにもならないでしょうに」
「いえ、主人から言いつかっております。
どんなことがあっても空さんのご要件を優先せよとね。
私どもにとって色々とお世話になっております空さんたちのためなら堺までなんて大したことはありませんよ。
それに島から堺まではかなり頻繁に船が出ていますから、便乗させていただけますし、大した手間にはなりませんから」
「本当に恐縮します。
堺についたら能登屋さんの方にも挨拶に伺いますのでその時にはよろしくお願いします」 と言って能登屋の番頭さんと別れた。
「空さん、なにしていたの」
能登屋さんと別れたすぐ後から葵と幸が俺のところまで来た。
その後本当にたわいもない話をしていた。
しばらく二人を放置していたので彼女たちの話は尽きない。
正直面倒だが、ここでなにか言おうものなら機嫌が急降下になるのは既に経験済だ。
俺はニコニコとしながらふたりの雑談に付き合った。
正直ここではすることないしね。
船上での昼食を挟んでそれほど時間をかけずに堺に入港することができた。
昨日も感心したが、この航路では文句などでないくらいに船の扱いは見事の一言だ。
どこにも無駄のない動きで確実に潮の流れや風を掴み最速の航路を進んでいく。
堺の入港に際しても慣れたもので待たされることなく堺港に接岸できた。
接岸??
俺の知っている堺港での状況は新参者で接岸などできずに小舟で上陸したはずなのだが今では堂々と接岸していく。
なんでも紀伊之屋さんと能登屋さんという堺でも指折りの豪商との取引があるので接岸が許されているのだそうだ。
船からは一番で降ろされた。
下船するとそこには紀伊之屋さんの番頭さんが積荷の引取りのために来ていた。
俺らの姿を確認すると、積荷の受取を部下に任せ、直ぐに俺らのところまで来た。
「空さん、それに本多様。
堺に来るならひとこと頂けましたら盛大にお迎えできたのに。
堺にようこそいらっしゃいました。
直ぐに堺を立たなければならないようなことはないですよね。
ご休憩くらい我が店でしていってくださいな」
「どうしますか、本多様」
「せっかくなので、申し出を受けようか」
「では、すみません。
急なことでお仕事を邪魔したようですが、ご厄介になります。
明日には堺を経ちますがそれまでよろしくお願いします」
紀伊之屋さんの番頭さんは丁稚の少年を捕まえ直ぐに店の方に伝言を走らせ、我々を案内していこうとしていた。
「しまった。
紀伊之屋さんに先を越されたか。
能登屋で接待したかったのに」
「能登屋さん。
堺では生き馬の目を抜くと申します。
早い者勝ちですよ」 と言いながら紀伊之屋さんは我々を店の方に案内していった。
店に着くとそこには既に店主が玄関口まで出迎えてくれていた。
本当に仕事の速い人たちばかりだ。
直ぐに我々は奥に連れて行かれ歓待が始まった。
今回の堺訪問の目的を店主に聞かれ、本多様と連れ立って大和の弾正様の所に行くことを伝えた。
店主は一泊と聞いて非常に残念がっていた。
俺は話を変えたくで、紀伊之屋のご本家筋に当たる雑賀党の今後についても店主には話しておいた。
孫一さんを我々の家老として迎え入れ、彼の直接手足となって今まで協力してくれた人たち全員を侍として九鬼様が雇う件を話した。
その話を聞いた店主は非常に喜んで何度もお礼を言われた。
彼ら紀伊之屋さんは雑賀党の貿易などを担当しており、各地ともつながりがある。
堺で大店を営んでいるだけあってとにかく目端は利く。
今の様な戦国時代もそろそろ潮目が変わってきていることを肌で感じているのであった。
いつまでも傭兵稼業は続けることはできないと薄々と感じていたのであろう。
傭兵稼業ができなくなった時の本家の行く末を密かに案じていたのだから、今回の我々の申し出も素直に喜び祝福してくれた。
一通り彼の祝福が終わると、店主は話題を変えた。
さすが堺の商人だ。
俺が避けたかった話題である干物の件でしっかりと苦情を言ってきた。
そのあとは俺が店主に平謝りを続ける羽目なり、周りから大いに笑われた。
翌日は紀伊之屋さんに能登屋さん宛の伝言を頼み逃げるように大和に向かった。
連日の物品の納期絡みでとやかく言われたくない。
特に干物関係はどこに行っても文句しか出ていない。
俺の精神衛生上、ここは逃げの一手だ。
紀伊之屋さんは笑って伝言を出してくれた。
俺等は本多様と一緒に大和に向かった。
堺から大和までは峠一つ越えるくらいで入れる。
夕方には弾正様の城についた。
城に入ると、俺はほとんど拉致られるように城の奥に連れて行かれた
「やはり空が来たか。
俺の予想通りだな」
「俺は一番暇なので、京に入る前に色々と疑問点だけでも潰しておきたくて参りました」
「それにしても、案外いいものかも知れない」
「は?」
「だから、実質的な責任者が大名でないことがだよ。
それこそ大名が他の大名に会うのは色々と面倒だろう。
問題があるのなら、責任者が直接会って話し合うのが一番早い。
家臣を通してだとどうしても誤解や間違いが生じてしまう。
その点、空は直ぐに飛んでくるから俺は助かるよ。
で、空の問題とは何だ」
「上使や勅使を迎え役職の宣下を受けるにあたり、献上品を収めようかと思っているのですが、生憎直ぐに用意できるのは地味なものばかり。
ほとんど干物だけになってしまいます。
一応、お茶や酒を考えてはいるのですが、どうしたものかと。
それに、本多様からは幕府への献上品は不要とも伺いましたが、弾正様に献上品を収めましょうか」
「俺か、俺はいらんぞ。
俺が欲しかったら直接空に頼むしな。
それに、正信が言ったように幕府への献上品もいらんぞ。
そんなのがあったら、有力貴族にでも献上してくれ。
鷹司などかなり困っているようだしな。
あ~~それから、献上品はなんでもいいぞ。
今時朝廷に献上品を収めようとする奇特な奴はおらんよ。
せいぜい播磨の黒田のような弱小豪族か、上杉のような変わり者くらいかな。
尤も上杉の奴らは将軍が代わってからは全く来なくなったしな。
あいつらにとって朝廷への献上は将軍への献上のついでだったのだろう」
「そうですか、わかりました。
では干物などを献上するようにいたします。
そうだ、酒も珍しいのが準備できそうなのでそれも献上しますよ。
私は酒を飲みませんが明の酒で紹興酒というのがあるのですよ。
本多様にもお出ししたのでご存知かと思いますが、割と評判がいいのでそれも帝と鷹司様に献上致します」
「紹興酒とな。
俺も飲んだことがあるが、そんなのを持っているのか。
何故正信に飲ませ俺に飲まさない」
「え?
わかりました。
量は少なくはなりますが弾正様にも用意が出来次第送りますから、それで許してください。
で、本題に入りますが、九鬼様の京入りの件ですが、ここまで行列をこさえてきますので、ご一緒に京入りしていただけないでしょうか。
なにせ我々田舎者ですので、京都のどこに陣取れば良いかすらわかりませんし、どこで勅使を迎えれば失礼に当たらないか全くわかりませんので、そのあたりの面倒をお願いできないでしょうか。
本日はそのお願いに伺った次第です」
「正信、俺の言ったとおりになっただろう。
直接空が乗り込んで来るまで俺の予想通りだ」
「はい、さすがに空さんが直ぐに直接尋ねるまでは私には予想がつきませんでしたから。
竹中様あたりが使いを寄越す程度だろうと思っていましたしね」
「その件は既に正信を通して了承しているはずだが。
同盟の件も合わせてな」
「はい、なので既に我々は京入りの準備を始めております。
遅くとも来月には伊勢を発つことが出来るでしょう。
しかし、本当に同盟の件、この時期で大丈夫ですか。
我々には利益しかないので全く異存はないのですが、弾正様の方が問題では」
「なに、既に三好の方では、わしは敵扱いじゃよ。
秋か遅くとも冬には攻めて来ると睨んでいるしな。
なのでわしらにとってもこの同盟は渡りに船なのだよ。
なにせ、雑賀党の水軍や九鬼水軍を使えるし、堺の抑えにもなるしな。
紅屋が失墜したので紀伊之屋や能登屋といった空と近い豪商の勢力が堺で増して来ているので、三好が攻めて来ても、今回堺は中立を保つだろう。
それだけでもわしにとって価値ある同盟だ。
できれば早く同盟を結びたい」
「ではどうでしょうか。
竹中様ご本人に先行してここまで来てもらい、同盟締結後に九鬼様の本隊が大和入りして一緒に京入りとしては」
「そうしてもらえるか。
それは非常に助かる。
我々が九鬼水軍や雑賀党と同盟関係にあることが伝わればそう簡単に攻めて来ないだろう。
奴らは大した水軍を持っていない。
せいぜい金で堺を使うくらいしか手はないのだが、それも今回の同盟で使えそうにないからな。
本当に責任者が話をつけると話が早くて助かるよ。
それにしても空は腰が軽いな」
「どうせ私は小さな商人の子供店長ですからね。
動いてナンボなんですよ」
「ま~いいか、今回はそれでとにかく助かることだしな。
これからも正信を使いに出すので仲良くやってくれ」
「本多様は玄奘様のご友人でもあり、私たちにとっても恩人でもあります。
私たちの繋ぎに本多様をあてがってもらい、ありがとうございます。
以前に話したとおり、私はこの紀伊半島だけでも戦をなくすように今後も動いてまいります。
今後ともご協力をよろしくお願いします」
本当に弾正様との話し合いはめんどくさいやり取りを省いてくれるので俺でもでき、非常に助かる。
俺や松永様の勢力が持つこのスピード感はこれからも強力な武器となるだろう。
このスピード感についていける勢力は俺の知る限り織田信長くらいしか思い浮かばない。
その織田勢もまだ美濃攻略でもたついているはずだ。
その隙にこのあたりの地盤を固めてしまおう。
俺は弾正様との打ち合わせを終え翌日には約束通り堺に帰っていった。
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