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第七章 公家の政
第二百六十五話 初めての若狭入り
しおりを挟む初めて若狭に来たわけだが……感想はというと……普通……普通としか表現できない。
戦乱で荒らされた跡は少なくとも俺が今見ている範囲ではどこにも見られない。
俺の記憶が正しければ、ここでは大きな戦は無かった。
それに何よりここと同時に占領した加賀に比べればはるかに豊かに見える。
何せ加賀は、一向宗徒に好き勝手に荒らされた場所であったのだし、それに俺たちも朝倉を攻めた時にはかなり街を荒らした覚えもある。
だからこそ俺もそれなりに真剣に復興に尽力したわけなのだが、それに比べると若狭は本当に平和……これを平和言ってもいいのならばの話だが、それに加賀に比べて豊かとは言ったが、俺たちが本拠地を置いた伊勢に比べるべくもなく貧しい。
伊勢も、俺たちが抑えた当時はそれこそ流民ばかりで、食わせるために相当無理して炊き出しをしたのだから、これくらいの貧しさはこの時代では豊の部類に入るのだろう。
それに何より治安がよさそうだ。
少なくともここまで来る途中にも野盗に襲われたような跡は見られなかった。
戦が無くともそれこそそこら中に野盗はいるらしい。
その跡が見られなかったということだけでも相当治安が守られていると思う。
これは半兵衛さんたちが頑張った成果だともいえるが、そう頑張っていたんだからいい加減に俺にその後を任せようと呼んだのだろう。
でも、今俺にここ若狭を任されても困る。
俺にも京での仕事もあるし、本当にここをどうにかしないとまずい。
これが伊勢のように周りに敵がいなければまだどうにかなりそうなのだが、ここ若狭は東は良い。
東は、俺の領地となった越前があるから、東からの脅威はとりあえず考えなくともいいが、西が不味い。
すぐ隣には毛利が入ってきているようだが、まだ完全に毛利が抑えたわけじゃなさそうだから今すぐに危険が迫るという訳でもないが、あそこには有名な尼子の残党もいまだに力を持っているはずだ。
調べた訳でもないので、毛利の動向も安心はできないが、そろそろ調べておかないとまずそうだ。
とりあえず俺たちは半兵衛さんに連れられて小浜にある武田館に入った。
館では、半兵衛さんから若狭の状況につて説明を受けた。
半兵衛さんにとっては引き継ぎのつもりだろうが、そうはいかない。
俺もここでは真剣に半兵衛さんと攻防を始める。
そもそも半兵衛さんの領地は伊勢にあるとはいえ、すでに伊勢には脅威というものは今のところ存在しない。
確かに台風、この時代では野分といったかそういう被害でも出れば途端に領主は忙しくはなるだろうが、そうそう毎年あるはずもなく、現状ではそれこそ地元に置いてきた留守居役がいれば全く問題ないはずだ。
以前に張さんからそのように説明を受けている。
半兵衛さんは俺を置いて楽をしようとしているのだろうか。
まあ、俺の知る歴史上では半兵衛さんは体が丈夫でないので早死にをすることになっているので、さすがにそこまで俺もこき使おうとは思ってもいない。
攻防の最中にも俺は半兵衛さんの体調をうかがう。
……、うん、相変わらず色白ではあるが、結核に侵されているようにも見えないから、まだ大丈夫だ。
すったもんだの攻防の末、若狭全体を引き続き半兵衛さんに見てもらえることになった。
その代わり民政という政の部分については俺の方から人を出すことになった。
そこで俺は、お隣で頑張っている張さんにお願いしようと、張さんを呼んで相談する。
武田館は小浜の港に隣接しているので、加賀で作っている港からは本当に便利で、海さえ荒れなければ簡単に行き来できる。
俺からの要請により、すぐに張さんが小浜にやってきたので、相談してみたが、さすがに張さんは加賀を離れられそうにない。
しかし、張さんからの提案で、葵に任せてみることになった。
民政だけならば、十分に育った葵だけでも十分だと張さんは言う。
さすがにお隣に毛利と尼子の残党という脅威を控えているので、全てを葵に任せるわけにもいかないが、安全保障の部分については半兵衛さんが全部引き受けてもらえることで、話をまとめた。
この安全保障の部分については若狭の治安維持までも含まれているので、本当に葵には殖産興業ならぬ、若狭の生産性向上や、それ以前に若狭の国力の調査から始めてもらう。
それにしても幸は一人で賢島の商館を仕切っているし、ここ若狭も葵でどうにかなりそうなところまで来ている。
まあ、建前上、引き続き半兵衛さんが政を仕切っていることになるが実質葵が仕切る。
江戸時代での職制に照らして考えると、若狭国の家老に匹敵する職責を葵が持つことになる。
これが頭の固い武家や公家などに伝わると少し怖くもあるが、幸いなことに半兵衛さんがここで西に睨みを利かせているので、外から見たら葵は半兵衛さんの手伝い程度にしか見えないだろう。
それでも、文句を言うやつは現れるだろうが、そういうやつには張さんをけしかけてやる。
張さんに尻の毛まで抜かれればいいのだ。
冗談はさておき、正直小浜は立地条件が良い。
先にも触れたが、本当に葵が困ればすぐに加賀にいる張さんを呼べば良いし、何よりそこまで大ごとになる前に半兵衛さんが手伝ってくれるだろう。
その手伝いに俺のことを呼び出すことまで入ることは決定事項だろうが、それでも困るまでは俺の手から離れる。
これは正直京だけでなく畿内のあちこちに問題を抱える俺にとって非常に助かる。
葵には、武家の常識にとらわれる必要はないから自由にしていいといったが、もとから武家の常識なんか葵に教えてない。
そもそも俺自身が、そんなものを持ち合わせていない。
なので、俺は葵に三蔵寺から自由に育った子供たちを連れてきてもいいから、好きに使えと言っておいた。
葵からしたら、若狭武田の旧家臣なんか使えないだろう。
豪族化している旧家臣たちについては葵からの指示を半兵衛さん経由で伝える仕組みを作りコントロールしていく。
俺はそこまで状況を整えてから、若狭を離れて、一度加賀越前に入る。
ここはここで、一向に問題が片付かない。
最大の問題は東側の未占領地の扱いだ。
今でも占領しようと思えばすぐにでも占領はできるが、東側が落ち着くまで手を付けてはいない。
いや、すぐ傍から少しづつではあるが、保護はしている。
必要最低限だけだが、それでも目の前で餓死など見たくもない。
何せ、今でも加賀は一向宗が強かった地域だ。
俺を恨む一向宗徒など懐に入れたくもない。
そのあたりの塩梅については加賀を任せている藤林さんと孫一さんに丸投げ状態だ。
今その説明を受けていた。
「空殿。
正直、加賀はもう少し時間がかかりそうですな」
藤林さんが俺に見通しを伝えてきた。
「一向宗が問題ですね」
「ええ、その一向宗ですが、どうも変なのですよ」
「変とは?」
「まとまりがないと言いますか、各村々でやることがバラバラのような気がします。
これが武家ならば下剋上の前触れかとも思えますが、宗教ですから下剋上というのも……」
藤林さんの話で俺は思い出したことがある。
加賀の一向宗というか、能登をはじめこのあたりの一向宗とはとにかく一大勢力なのだが、どうも上層部の命令を聞かない連中も多数いたとかで、かなりカオスになったと歴史で、いや、多分ゲームの知識だが、そんなことがあったと記憶している。
それでも信長憎しでかろうじてまとまっていたような。
さしずめここでは俺憎しでまとまるのかもしれない。
「宗徒が本願寺の下で一つにまとまっていないのはある意味朗報かとは思うが、それでもそこまでバラバラだとそれはそれで厄介だな」
「どうしましょうか。
空殿に方針などおありでしょうか」
俺はそこで少し考えた。
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