名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百六十六話 領内の宗教問題

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 俺の知る歴史では、結局一向宗徒を根絶やしとまではいかないが徹底的に弾圧したような記憶がある。 
 ここでも取りうる手段はそうあるわけでもないだろうし、何より俺には思いつかない。
 なにせ俺は凡人だ。 
 ただ、歴史を知っているだけで、かろうじてこの世界のチートたちとやりあえているだけなのだから、先人チートたちの教えに従うだけだ。

「それならば現状維持を続けてください。
 決して一向宗徒を俺たち側に入れないで」

「それで……」

「自滅を待ちます。
 どうせ最近の戦乱などでまともに収穫は望めないでしょう。
 伊勢のように飢えても救わなければ勝手に自滅します。
 少々残酷ですが、それを待ちます」

「残酷?」

 どうも、この時代にはそのような感覚はないらしい。
 自分が生きていくだけでも精いっぱいなので、俺たちが伊勢でしてきたような人道的な援助など考えられないとか。
 この時代の人からすれば俺たちが伊勢に行ってきた行為こそが異常に見えたようだ。

 半兵衛さんに限らず、少々頭の切れるものからすれば、伊勢を少ない兵力でしかも時間をかけずに攻略するための計略だととらえている節もあるくらいだ。
 あの時は、確かに伊勢の地から邪魔者を追い出す大義を得る目的もあったが、それ以上に葵や幸のような無辜の民にかかる不幸をできる限り少なくしたいという思いもあったのは正直な気持ちだ。

 しかも、あの時には俺もまだこの世界の常識に慣れていないこともあったので、どうしても令和日本の常識を持ち込んでしまう。
 災害時のボランティアなどは盛んであったし、何より政府は日本以外でも災害情報が入ればすぐに緊急援助隊を現地に派遣できる仕組みまであったのだ。

 さすがにこの世界にはそんなものなど存在しない事くらいは知ってはいるが、どうしても気持ちの問題がある。
 俺の心の平安のためと表現でもすればいいのだろう。
 しかし、加賀や越前の場合はそうもいかない。
 何せ言葉でわからない狂信者が相手だ。

 問題が無いのなら遠慮なくいくらでも手が打てるのは助かる。
 あまり褒められたような戦略ではないだろうが、それでこちらの士気が下がるのは避けたい。
 幸いそのような考えはないようで、味方の士気には影響しないとか。
 でそれでもまだ俺の小市民的な感情が少々……

「あ、ですが保護しないのは一向宗徒だけですよ。
 そういえばこのあたりには曹洞宗の本山もあったはず」

「永平寺ですか」

「ええ、前に世話にもなったこともありますから、永平寺に使者を出して、曹洞宗徒だけは保護しましょう。
 彼の者たちならば問題はないかとは思いますから、積極的に保護してください。
 いや、曹洞宗とだけでなく、求められればの話ですが一向宗以外は保護対象で」

「それで……」

「こちら側に移住するのが希望ならば新たに村でも作ります。
 幸いなことに、港の準備でも人が足りないようですから、張さんが仕切っている港のそばにでも準備させましょう」

「わかりました」

「くれぐれも、一向宗徒以外ですよ。
 本当は叡山に連なるものも排除はしたいのですが、さすがにこのあたりまであの僧兵のような連中はいないでしょう」

「わかりました、そのように徹底させます。
 改宗希望者についてはどうしましょうか」

「今回は見送ります。
 食べ物欲しさに改宗した連中は信用ができません。
 またいつ一揆をしでかすかわかりませんから。
 自業自得として諦めてもらいましょう」

 そうなのだ、すでに一向宗も一枚岩ではない。
 長島の一件があったことから俺たちは上人様の協力を仰ぎ、一向宗の中に新たな一派を作ってもらった。
 三蔵寺を中心にしていることから三蔵派などとも伊勢派などとも言われてきているらしいが、それも伊勢を中心にして、俺の他松永さんや信長さんが領している範囲に留まっている。

 三河でも若干では広がりを見せてはいるが、そもそも三河では本多様もしでかしたように本證寺を中心に相当大きな一揆をおこしたことから松平さんに相当弾圧されているはずなので、一向宗そのものが勢力を落としている。

 さすがに上人様の一派はできたばかりなものだから加賀や越前くんだりまで勢力を伸ばすまでにはできない。
 今風の言葉で言えばリソースが全てにおいて足りないと言えばいいのかって、今風ではないな。
 言うならば令和風と表現でもすればいいのか、そんなことはどうでもいいか。
 そもそも戦国の世にリソースなどという言葉はなかった。

 俺の心の中の葛藤はいまだに続いてはいるが、ここ加賀での方針は決まった。
 後は、もうしばらく藤林さんや孫一さんたちには迷惑をかけるが、全部任せて、俺は一度京に戻る。

 京もあまり長く留守にはできないくらいには物騒なのだ。
 京の町中には押し込みなどの凶悪犯罪は俺たちが来てからすっかり鳴りを潜めてはいるが、正直そんなのは俺たちにとってあまり脅威ではない。

 俺が恐れているのは公家たちの動向がとにかくヤバイ。
 あいつら陰で何をしでかすか分かったものではない。
 できれば遷都でもしたいくらいなのだが、さすがにそこまでの大それたことは口に出すだけでも憚れる。

 今はとにかく京にいる公家や公卿の選別だ。
 近衛ほどわかりやすければ問題はないが、さすがにこの地で長きにわたり家を、政治力を維持してきた連中だけあって、なかなか腹の中を見せない。
 今俺たちに協力的な連中でも腹の中まではわからない。
 俺たちのことが、俺たちがしていることが気に入らなくとも素直に従ってくれるうちはいいが、肝心な時に足元をすくわれないとも言えないのだ。

 正直、今俺を支えてくれている五宮をはじめ義父にあたる太閤殿下すらいざというときになったら、どうなるかわからない。
 疑いだしたらきりがないし、そこまで考えるとなると、糞親父松永久秀なんか真っ先に疑わないといけない存在になるだろう。

 それに何より俺は別に天下が欲しいわけでもないし、俺を追い出したいのならば素直にこの地を出ていく。
 京だけでなく畿内にいることが邪魔だというのならば出ていくこともやぶさかではないのだが、俺の命を欲するならば話は別だ。

 しかし、この時代の常識に照らし合わすと、そのような場面ではほぼ確実に俺の首そのものが必要になることくらいは容易に想像がつく。
 俺の知る歴史上で本能寺の事件では信長さんの首が無かったことも明智さんの失敗の一つに挙げられているくらいだ。
 もう、後戻りはできないくらいなところまで来ていることを改めて認識している。

 この辺りで腹をくくるのと同時に諦めの心境で、前に進むことを決心した。

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