恋の魔女の初恋

三原みぱぱ

文字の大きさ
28 / 30

第28話 僕の本当の答えと試験結果

しおりを挟む
 二人は黙って、じっと僕の言葉を待った。
 どこからか今年最後の桜の花びらが、夏を思わせる温かな風に乗って舞った。
 そうだった。僕達がここでよく遊んでいた理由の一つに、なぜか一本だけ植えられていた桜があったからだった。
 毎年、最後に咲く桜。
『この桜が散れば、もう夏だね』
 アマリリスのような笑顔で、そう言う彼女が大好きだった。

 僕は気持ちを落ち着けて、はっきりと言った。

「英里子、僕と付き合って欲しい」

 僕は武田の手を取り、そう言うと彼女は何が起きたのか理解できないように、一瞬固まった。

「本当に、ボクでいいの」
「確かに僕はつーちゃんが大事な人だし、好きだった。でもそれはもう、十年前の話だ。だから、今は英里子の方が大事だ」

 黒柳は間違いなく僕の大事な初恋の人だ。しかし、それは今の彼女ではないし、彼女が好きだったのも、今の僕ではないはずだ。
 僕は過去ではなく、今を取る。
 先ほどの屋上での告白は、今の僕の気持ちで間違いない。
 だから僕は武田を選ぶ。

 僕の答えを聞いた黒柳は涙を拭って、見せた顔はどこか吹っ切れていた。

「あ~あ、これで本当に、ぼくの長い初恋は終わっちゃったな」

 そう、僕達の初恋は長すぎたのだ。十年前の幼く、純粋で、綺麗な初恋はただ、心の一番大事なところにのみ存在する。彼女が僕にくれた物は消えることなく、もう、忘れることもなく永遠に残り続けるだろう。

『さよなら、僕の初恋』

 まるでそのまま消えてしまいそうな黒柳を見て、武田が心配そうに確認をする。

「ねえ、月子。このままどこかに行っちゃうって事は無いわよね。ボクは彼と同じくらい、キミの事が好きなんだから」
「あーくん、きみの彼女はいきなり浮気宣言してるけど大丈夫?」

 力の抜けた、いつも屋上で見せる子供っぽい黒柳が顔を見せる。
 そんな彼女を見て、僕も力が抜けてくるのを感じて、いつもの調子で答えた。

「しょうがないよ。さっきは僕も二人とも好きだって言ったんだから」
「なんて、寛容なカップルなのよ。でも、そんな二人をぼくも好きだよ。だから、高校を卒業するまではこの街にいるつもりだよ」

 そうして、誰が言うでもなく、三人で抱きしめ合って、笑い始めた。空はすっかり暗くなり、綺麗な満月が空に浮かんでいた。

「ところで、つーちゃん。試験の結果はどうなったの?」
「ああ、忘れてたわ」
「そんなんで、良いの?」

 武田が思わずツッコんだ。
 それもそうだ。彼女は一人前の恋の魔女になるために、これまで修行をしたのだろう。武田に色々とアドバイスをしたりしたのもその目的のためだった。それを忘れていたというのは、あまりにも呑気だろう。それは武田もツッコむだろう。

「良いのよ。ぼくが大好きな二人が幸せになってくれれば」
「本当に、恋の魔女の試験をなんだと思ってるのよ」

 そう言った黒柳は、空の上から声をかけられた。見上げると、大きく美しい月をバックにほうきに乗った魔女が、そこにいた。それは、先ほど会った黒柳の母親だった。
 すらりとした真っ黒なワンピースにつばの大きなとんがり帽子。絵本に出てくる魔女そのままの姿をしていた。
 やはり、彼女が恋の魔女であり、今回の試験官だったんだ。

「黒柳月子に恋の魔女の試験結果を伝えます」
「はい」

 黒柳は姿勢を正して、試験官の顔をした母親の方を向いた。

「あなたは不用意にも、対象者に自分が恋の魔女だと明かしてしまいました」
「はい」
「その上、試験対象者が自らの初恋の相手である事を知られてしまうだけでなく、本来ならば、手助けをになければならない相手に自らの恋心を伝えてしまう大きな失態を犯しました」
「はい」

 やはり、恋の魔女と言うことを人に話してはいけなかったのだ。まあ、恋の手助けをする相手に対して好きだと告白するは、普通に考えてアウトだろう。本来の目的と変わってしまう。

「結果は不合格です。帰ったら魔法を封印するわね」
「はい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

処理中です...