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第29話 恋の魔女
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試験官の言葉に素直に従う黒柳は、その夢を閉ざされたにしてはすっきりとした顔をしていた。それは僕からは全てを諦めたような顔にも見えて、慌てて二人の間に言葉を捻じこんだ。
「ちょっと待ってください。再試験はないんですか?」
「あーくん、試験対象者の条件を忘れてるよ。ぼくの初恋の人はきみ一人だよ」
「あっ!」
そうだった。試験内容は『恋の魔女はその初恋の人の恋の手助けをする』だった。つまり、試験は一発勝負。再試験などあり得ないのだった。ではどうすれば……
「ちょっといいですか?」
「何かしら、武田さん」
武田は諦めた黒柳、焦る僕を気にすることなく、ごくごく単純でシンプルな問いを投げかけた。
「試験の合否判断は、どういったものなのでしょうか?」
「対象者の恋の成就よ」
「だったら、月子は合格じゃないのですか? 菊池君とボクは付き合うことになりました」
そうだ。初めに黒柳から言われていた。単純な事ではないのだろうか。僕が武田を選んだ時点で、黒柳は合格のはず。先ほど、母親が指摘した内容がそれを覆すほどの違反行為と言うことだろうか。
「そうね。そこだけを取り上げれば合格よ。二人とも末永く幸せになってね。でも、一人前になるために乗り越えなければならないのは、『たとえ対象者に恋愛感情を抱いたとしても、対象者のために全力を挙げて手助けをする事』なの。だから、初恋の相手が試験対象者になるのよ。月子はそれを破って、告白したでしょう。それは重大な違反なのよ」
「じゃあ、恋の魔女だと知らせてしまったのは、問題ではないということですか?」
武田は確認を取る。僕にもなんとなく彼女の考えが分かってきた。何の為に、試験の内容と合否判断を確認しているかということに。
「まあ、本当はあまり良くない事だけど、相手の信頼を得るためには許容されるわね。さあ、これで納得して貰ったかしら? まだ夕飯の支度の途中だから帰るわよ、月子」
「ちょっと待ってください」
「まだ、何かあるの?」
鍋に火をつけたまま出てきたのだろうか? それとも、娘に不合格を突きつけなければいけない現実が許せないのだろうか、母親は少しいらだっていた。しかし、そんなことは無視して僕は言葉を続けた。
「僕の記憶を封印したのは、あなたですよね」
「そうよ。まさか封印を解かれるとは思わなかったけど……それが何?」
「では、今回の試験における、あなたの失態についてはどのようにお考えですか?」
「失態!?」
「そう、あなたが僕に施した記憶の封印が完全なものであれば、僕はつーちゃんを思い出すことはなかった。そして、僕の記憶が戻ってしまったからこそ、つーちゃんは告白をしてしまった。つまり、つーちゃんの告白が試験の可否判断ならば、それを引き起こしたあなたの責任のはずです」
「あーくん」
僕と武田は、試験官から黒柳を守るように寄り添う。
「……うっ」
「つまりは本来ならば減点はあっても合格ラインを越えているつーちゃんの試験を、あなたの不手際で潰してしまった。一生の内にたった一度しかない試験をですよ。本来の試験内容である恋の成就は合格している。あなたはこの状況をどう考えるのですか?」
「ボクと菊池君は、れっきとした恋人同士です。それならば、月子は誰がなんて言おうと、りっぱな恋の魔女のはず」
武田がダメ押しをする。焦点は三つ。そのうち、二つは誰がどう言おうと覆りようがなかった。黒柳が告白したのも事実だ。しかし、それは半ば強制的に僕達が引き出したものだった。しかし、その原因を半ば強引に試験官に押しつける。
これでダメならばどうする? どうすれば、黒柳の夢は叶う?
僕は空に浮かぶ一人前の恋の魔女を睨みつけながら、次の手を考えていた。
「ふう、分かったわ。確かに輝君の封印が解けたのは、私のせいかもしれないですね」
そう言って、月子に向き合った。その表情は、先ほどまでの険しいものではなかった。
「月子。今回の試験は色々ありましたが、結果として合格です。これからも素敵な恋の手助けをしてください」
「はい。ありがとうございます!」
こうして、一人の少女の初恋が終わり。一人の恋の魔女が生まれたのだった。
「ちょっと待ってください。再試験はないんですか?」
「あーくん、試験対象者の条件を忘れてるよ。ぼくの初恋の人はきみ一人だよ」
「あっ!」
そうだった。試験内容は『恋の魔女はその初恋の人の恋の手助けをする』だった。つまり、試験は一発勝負。再試験などあり得ないのだった。ではどうすれば……
「ちょっといいですか?」
「何かしら、武田さん」
武田は諦めた黒柳、焦る僕を気にすることなく、ごくごく単純でシンプルな問いを投げかけた。
「試験の合否判断は、どういったものなのでしょうか?」
「対象者の恋の成就よ」
「だったら、月子は合格じゃないのですか? 菊池君とボクは付き合うことになりました」
そうだ。初めに黒柳から言われていた。単純な事ではないのだろうか。僕が武田を選んだ時点で、黒柳は合格のはず。先ほど、母親が指摘した内容がそれを覆すほどの違反行為と言うことだろうか。
「そうね。そこだけを取り上げれば合格よ。二人とも末永く幸せになってね。でも、一人前になるために乗り越えなければならないのは、『たとえ対象者に恋愛感情を抱いたとしても、対象者のために全力を挙げて手助けをする事』なの。だから、初恋の相手が試験対象者になるのよ。月子はそれを破って、告白したでしょう。それは重大な違反なのよ」
「じゃあ、恋の魔女だと知らせてしまったのは、問題ではないということですか?」
武田は確認を取る。僕にもなんとなく彼女の考えが分かってきた。何の為に、試験の内容と合否判断を確認しているかということに。
「まあ、本当はあまり良くない事だけど、相手の信頼を得るためには許容されるわね。さあ、これで納得して貰ったかしら? まだ夕飯の支度の途中だから帰るわよ、月子」
「ちょっと待ってください」
「まだ、何かあるの?」
鍋に火をつけたまま出てきたのだろうか? それとも、娘に不合格を突きつけなければいけない現実が許せないのだろうか、母親は少しいらだっていた。しかし、そんなことは無視して僕は言葉を続けた。
「僕の記憶を封印したのは、あなたですよね」
「そうよ。まさか封印を解かれるとは思わなかったけど……それが何?」
「では、今回の試験における、あなたの失態についてはどのようにお考えですか?」
「失態!?」
「そう、あなたが僕に施した記憶の封印が完全なものであれば、僕はつーちゃんを思い出すことはなかった。そして、僕の記憶が戻ってしまったからこそ、つーちゃんは告白をしてしまった。つまり、つーちゃんの告白が試験の可否判断ならば、それを引き起こしたあなたの責任のはずです」
「あーくん」
僕と武田は、試験官から黒柳を守るように寄り添う。
「……うっ」
「つまりは本来ならば減点はあっても合格ラインを越えているつーちゃんの試験を、あなたの不手際で潰してしまった。一生の内にたった一度しかない試験をですよ。本来の試験内容である恋の成就は合格している。あなたはこの状況をどう考えるのですか?」
「ボクと菊池君は、れっきとした恋人同士です。それならば、月子は誰がなんて言おうと、りっぱな恋の魔女のはず」
武田がダメ押しをする。焦点は三つ。そのうち、二つは誰がどう言おうと覆りようがなかった。黒柳が告白したのも事実だ。しかし、それは半ば強制的に僕達が引き出したものだった。しかし、その原因を半ば強引に試験官に押しつける。
これでダメならばどうする? どうすれば、黒柳の夢は叶う?
僕は空に浮かぶ一人前の恋の魔女を睨みつけながら、次の手を考えていた。
「ふう、分かったわ。確かに輝君の封印が解けたのは、私のせいかもしれないですね」
そう言って、月子に向き合った。その表情は、先ほどまでの険しいものではなかった。
「月子。今回の試験は色々ありましたが、結果として合格です。これからも素敵な恋の手助けをしてください」
「はい。ありがとうございます!」
こうして、一人の少女の初恋が終わり。一人の恋の魔女が生まれたのだった。
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