祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲

文字の大きさ
45 / 97
4日目つづき

憂い

しおりを挟む
バルトジャンside(※少し前に戻ります)

 ユーチと孤児院の門で別れ、来た道を戻っている。
 ギルドの食堂でイモールに言われた言葉が頭から離れない。

「くそっ!」

 何でユーチが悪く言われなきゃならないんだ。
 どうせ、クレエン辺りがあることないこと好き勝手に抜かしてたんだろうが……今回はいつもみたいに笑って済ませられねえ。

 クレエンあいつの言いたいことはわかる。

 物心が付く前から一緒にいたらしいからな……
 くさえんってやつなんだろう。

 ――クレエンあいつと俺は、大概たいがい一緒に行動していた。
 羽目を外して騒いだときも、となりに奴がいた気がする。

 8歳で孤児院を飛び出してから『どうやって金を稼ぐか』常に頭の中で考えていた。 
 18年近く、そうやって金を稼ぐことを優先してきたのだから、ここ最近の俺の変わりようにいきどおりを感じていたとしても責めらねえ。
 
 でもそれは、ユーチに向けていい感情じゃないだろ?

 たとえ、俺が変わった原因がユーチの存在だったとしても、陰でグチグチと不満をらし、慣れない場所で前向きに頑張ってるユーチに、水を差すようなまねされて黙ってられるかよ。

 不安そうにこちらをうかがっていた、出会った頃のユーチの姿が浮かび、苛立ちがつのる。

 はあ~。

 大きく息を吐き、珍しく熱くなっていた自分をたしなめる。少しは冷静になれたか。

 ユーチに出会って4日……まだ、それしか経ってないんだよな。
 すっかりそばにいることが当たり前になっていたから、改めてその事実を目の当たりにすると不思議な気分だ。
 ユーチがいない生活が想像できねえくらい、俺の中にピッタリはまっちまってる気がする。

 もうがすの、無理じゃね?

 無理やりがした後の、俺へのダメージが半端ないだろ?

 ――グッ! 

 俺は自分の想像で負傷したおのれの身を案じ、思考を断ち切る。



 クレエンに会ったら、ガッチリただすとして、とりあえず今日はギルドで簡単な依頼を受けるつもりだ。
 クレエンやつの思惑通りに動いている気がしてしゃくさわるが、文句が言えねえくらい稼いでやるわ。

 ケッ!

 胸糞むなくそ悪い奴のにやけた顔が浮かび、吐き捨てるように言葉をらした俺を、ギルドの受付をしているアネスが目を丸くして見ていることに気付く。

「珍しく荒れてるようだけど、どうしたの? 怖い顔がますます恐ろしくなってるわよ」

「ああっ⁈」

「さっきユーチ君と一緒だったときは、幸せそうにデレデレしちゃって緩みまくった顔してたのに……大違いじゃない」

「何があったの?」と心配そうに俺の顔をのぞき込むアネスに、感情のまま愚痴ぐちをこぼすのも恰好かっこう悪いと思い直し、気持ちを切り替えるように息を吐く。

「なんでもねえよ。それより、2、3時間で終わりそうな依頼はねえか?」

「ああ、それなら廃棄物はいきぶつの処理を頼んでもいい? 収集場にかなり溜まっているらしいのよ。魔物の討伐前になんとかしたいと思っていたから、バルトが受けてくれると助かるんだけど……どうかしら?」

「わかった、それでいい。その依頼を受けさせてもらうわ。で、埋め立て場はまだ変更されてないのか?」

「ええ、もう少し大丈夫みたいよ。でも次の場所が確保され穴掘り作業が開始されてるから、そろそろ今の場所はいっぱいになるのかもしれないわね」

「了解! 早速さっそく行ってくるわ」

 俺は廃棄物運搬依頼を受け、ギルドを後にする。

 最近は狩りの依頼ばかり受けてたからな、こういう依頼は久しぶりだ。

 ――そういえば、収納袋を持ってなかったガキの頃に、クレエンと一緒にこの依頼を受けたことがあったな。
 そのときは荷車を借り、2人で押したり引いたりしながら運んだんだったか……
 結構大変だった記憶があるが、確か大したもうけにならなかったんだよな。
 まあ1日頑張っても、半分は荷車代として消えちまうんだから仕方ねえわな。

 懐かしい昔の光景を思い出しながら辿り着いたのは、ユーチと一緒に来る約束をしていた、埋め立てゴミの収集場だ。
 思った以上に大きなゴミの山ができている。

 確かに、こりゃあ限界だわ。

 崩さないように注意しながら、ゴミを収納袋に入れていく。

 流石に全部は無理だったか。
 残されたゴミを眺め、何回か往復する必要があることを確認する。
 
 ユーチの腕時計あれがあれば1度で終わるだろうが、あの収納量を大っぴらにするわけにはいかねえからな。ユーチがこの依頼を受けるときは、注意しとかないと。
『誰も見てないから、大丈夫じゃないかな?』とか言って、気軽に腕時計あれを使いそうで怖いわ。

 どういう育ち方をしたらああなるのかわからないが、常識がないうえに、ぽわぽわしてて危機感がないんだよな。
 可愛かわいい顔して、思いつきでスゲー魔法をポンポン使えちまうのも普通じゃないのに、高性能な魔道具らしい腕時計あれまで所持してるんだから気が気じゃねえわ。
 箱に入れて持ち歩きたいくらいだ。

 今も孤児院で、おかしな魔法を編み出して披露してんじゃねえだろうな?

 無邪気に笑って魔法をぶちかますユーチの姿がありありと浮かび、不安になってくる。


 ……とっとと依頼を終わらせて、ユーチを迎えに行った方がいい気がしてきた。


 いささか雲行くもゆきがあやしくなってきた空を眺め、作業のスピードを上げることにする。


しおりを挟む
感想 894

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。