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4日目つづき
お揃い②
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イモールside
今日はバルトさんがせっかくお昼を食べに来てくれたのに、思い込みでユーチ君のことを悪く言ったから、バルトさんを怒らせてしまった。
すぐに謝ると怒りを収めてくれたけど、あのときの辛そうなバルトさんの顔が忘れられない。
私の心ない言葉は、ユーチ君だけじゃなくバルトさんをも悲しませてしまったのだと今ならわかる。
お姉ちゃんのアドバイスに従って、バルトさんともっと親しくなれるよう、ユーチ君と仲良くなる方法を考えることにした。
いくつか思い付いこともあるけど、それを実行するのは勇気がいる。
10歳の男の子とどんなふうに接すればいいかわからないし、きっとユーチ君は私のことを嫌な奴だと思っているはずだから。
もう一度きちんと謝るつもりでいるけど、受け入れてもらえるか不安になる。
そんなことを考えながら仕事をしていたからか、つい考え込んだり無意識にため息を吐いたりしていたみたいで、店長に心配をかけてしまった。
「今日はもう帰って家で休め」
苦笑を浮かべた店長に、仕事を切り上げるよう促されてしまう。
確かに仕事に集中できず、いつもはしないミスもちょこちょこあって迷惑をかけてしまっていた。
これから依頼を終えた冒険者が増えだす忙しい時間帯になるのだけど、いろいろあって、まだ気持ちの整理がついていなかった私は、申し訳なく思いつつ店長の気遣いに甘えさせてもらうことにする。
気分を変えるため、お気に入りのお店で可愛い小物をゆっくり見て回るのも良いかもしれない。
そうして向かったお店で、バルトさんの瞳と同じ色の石が付いた髪留めを見付けた。
私の赤茶色の髪に、髪留めの緑色の輝きが映える気がして頬が緩む。
手に取って眺めると、きっちりしたつくりであることがわかった。価格もお手頃だったので、すぐ購入することに決めた。
うきうきした気分で会計を済ませて窓の外を見る。いつの間にか雨が降り出していたようだ。
次の瞬間、店の中からでも雨の音が聞こえるほど激しく降り出し、ため息が漏れる。
この雨の中を家まで歩いて帰ることを思うと、先ほどまでの楽しい気分が薄れていく気がした。
雨具は持っているけど、もう少し弱まらないかと、窓から外の様子を窺う。
ふと、向かい側の店から出てきた二人の人物に目が留まった。
「えっ⁈」
お揃いの雨具を身につけて嬉しそうに笑う子供を、目を細めて見つめる大人の男性……仲の良い親子に見えるその二人は、私の良く知るバルトさんとユーチ君だった。
凄い偶然に戸惑いつつ、二人から視線が外せなくなる。
ユーチ君が何を言ったのか、バルトさんが動きを止め目を見開いて驚いているのがわかった。
そして笑いながら雨の中に飛び出したユーチ君を、顔を赤らめたバルトさんが締まりない笑顔で追いかけて行く姿が目に映る。
気心の知れた冒険者といるときに見せる表情とも違う、バルトさんの初めての姿に驚きポカンとしてしまう。
気付けば、仲良く視線を交わす二つの背中が見えなくなるまで、店の窓に貼りつくようにして眺めてしまっていた。
自分のおかしな態度が周りの視線を集めていたことに気付き、恥ずかしくなる。
逃げるように外に飛び出し、勢いよく向かいの店に飛び込んだ。
「いらっしゃいっ!」
元気な女性の声が響く店内。雨に濡れた姿で息を切らせた私は、呆然と立ち尽くす。
深く考えず、バルトさんたちが出てきた店に入ってしまっていた。
「おやおや、可愛いお嬢さんが濡れちゃってるじゃないか。ほら、この布で拭いときな。そのままだと風邪をひくよ」
「あ、ありがとうございます」
私は渡された布をそのまま受け取り、どうにかお礼を口にする。
「もしかして、お嬢さんも雨具を買いに来てくれたのかい。ついさっきも仲の良い親子が揃いの雨具を買ってってくれたんだよ。なんでも親父さんの分は奥さんからのプレゼントのようでね、息子さんが張り切って選んでいたよ」
「仲の良い親子……奥さんからのプレゼントって?」
え? それってバルトさんたちのことだよね。
ユーチ君とは親子じゃないって言ってたし、バルトさんに〝奥さん〟なんていないのにどういうこと?
なんでここでも嘘をついてるのよ。
息子設定だけじゃなく、まさか奥さんまで登場させるだなんて。
嘘だとわかっていても、バルトさんの悪ふざけに、収まっていた嫌な気持ちがむくむくと溢れてくる。
いっそ、私を奥さん役にしてくれればいいのに……
思わず浮かんだ思考に自分で狼狽え、慌てて首を横に振り打ち消した。
「まあ、子供に小金貨を持たせるだなんて呆れちまうが、奥さんのサプライズに驚いた親父さんの顔が見られたから、こっちまで得した気分だったからね。文句は言えないよ」
そのときのバルトさんを思い浮かべたのか、店の女性の含み笑いに羨ましげな視線を向けてしまう。
「ああ、悪いね。用件も聞かずに話し込んじまって」
無駄口を咎められたとでも思ったのか、申し訳なさそうに謝罪し、改めて注文を聞いてくれた。
勢いでこの店に入ってしまったので、特に買いたい物はなかったのだけれど……
「私にも、さっきの人とお揃いの雨具をください」
思わずそう叫んでいた。
私の勢いにちょっと驚いたみたいだったけど、すぐに満面の笑顔が返される。
「ありがとうね。……今日は本当についてるよ。雨に感謝だね」
小さく呟かれた言葉に首を傾げつつ、店の女性が上機嫌で取り出してきた雨具の値段を聞いて、冷や汗を流す。
確かに1日に3着も最高級の雨具が売れるなんて、そうそうないと思う。
思わぬ出費に心の中で泣きながら、私はバルトさんとお揃いの雨具を手に入れた喜びをかみしめるのだった。
今日はバルトさんがせっかくお昼を食べに来てくれたのに、思い込みでユーチ君のことを悪く言ったから、バルトさんを怒らせてしまった。
すぐに謝ると怒りを収めてくれたけど、あのときの辛そうなバルトさんの顔が忘れられない。
私の心ない言葉は、ユーチ君だけじゃなくバルトさんをも悲しませてしまったのだと今ならわかる。
お姉ちゃんのアドバイスに従って、バルトさんともっと親しくなれるよう、ユーチ君と仲良くなる方法を考えることにした。
いくつか思い付いこともあるけど、それを実行するのは勇気がいる。
10歳の男の子とどんなふうに接すればいいかわからないし、きっとユーチ君は私のことを嫌な奴だと思っているはずだから。
もう一度きちんと謝るつもりでいるけど、受け入れてもらえるか不安になる。
そんなことを考えながら仕事をしていたからか、つい考え込んだり無意識にため息を吐いたりしていたみたいで、店長に心配をかけてしまった。
「今日はもう帰って家で休め」
苦笑を浮かべた店長に、仕事を切り上げるよう促されてしまう。
確かに仕事に集中できず、いつもはしないミスもちょこちょこあって迷惑をかけてしまっていた。
これから依頼を終えた冒険者が増えだす忙しい時間帯になるのだけど、いろいろあって、まだ気持ちの整理がついていなかった私は、申し訳なく思いつつ店長の気遣いに甘えさせてもらうことにする。
気分を変えるため、お気に入りのお店で可愛い小物をゆっくり見て回るのも良いかもしれない。
そうして向かったお店で、バルトさんの瞳と同じ色の石が付いた髪留めを見付けた。
私の赤茶色の髪に、髪留めの緑色の輝きが映える気がして頬が緩む。
手に取って眺めると、きっちりしたつくりであることがわかった。価格もお手頃だったので、すぐ購入することに決めた。
うきうきした気分で会計を済ませて窓の外を見る。いつの間にか雨が降り出していたようだ。
次の瞬間、店の中からでも雨の音が聞こえるほど激しく降り出し、ため息が漏れる。
この雨の中を家まで歩いて帰ることを思うと、先ほどまでの楽しい気分が薄れていく気がした。
雨具は持っているけど、もう少し弱まらないかと、窓から外の様子を窺う。
ふと、向かい側の店から出てきた二人の人物に目が留まった。
「えっ⁈」
お揃いの雨具を身につけて嬉しそうに笑う子供を、目を細めて見つめる大人の男性……仲の良い親子に見えるその二人は、私の良く知るバルトさんとユーチ君だった。
凄い偶然に戸惑いつつ、二人から視線が外せなくなる。
ユーチ君が何を言ったのか、バルトさんが動きを止め目を見開いて驚いているのがわかった。
そして笑いながら雨の中に飛び出したユーチ君を、顔を赤らめたバルトさんが締まりない笑顔で追いかけて行く姿が目に映る。
気心の知れた冒険者といるときに見せる表情とも違う、バルトさんの初めての姿に驚きポカンとしてしまう。
気付けば、仲良く視線を交わす二つの背中が見えなくなるまで、店の窓に貼りつくようにして眺めてしまっていた。
自分のおかしな態度が周りの視線を集めていたことに気付き、恥ずかしくなる。
逃げるように外に飛び出し、勢いよく向かいの店に飛び込んだ。
「いらっしゃいっ!」
元気な女性の声が響く店内。雨に濡れた姿で息を切らせた私は、呆然と立ち尽くす。
深く考えず、バルトさんたちが出てきた店に入ってしまっていた。
「おやおや、可愛いお嬢さんが濡れちゃってるじゃないか。ほら、この布で拭いときな。そのままだと風邪をひくよ」
「あ、ありがとうございます」
私は渡された布をそのまま受け取り、どうにかお礼を口にする。
「もしかして、お嬢さんも雨具を買いに来てくれたのかい。ついさっきも仲の良い親子が揃いの雨具を買ってってくれたんだよ。なんでも親父さんの分は奥さんからのプレゼントのようでね、息子さんが張り切って選んでいたよ」
「仲の良い親子……奥さんからのプレゼントって?」
え? それってバルトさんたちのことだよね。
ユーチ君とは親子じゃないって言ってたし、バルトさんに〝奥さん〟なんていないのにどういうこと?
なんでここでも嘘をついてるのよ。
息子設定だけじゃなく、まさか奥さんまで登場させるだなんて。
嘘だとわかっていても、バルトさんの悪ふざけに、収まっていた嫌な気持ちがむくむくと溢れてくる。
いっそ、私を奥さん役にしてくれればいいのに……
思わず浮かんだ思考に自分で狼狽え、慌てて首を横に振り打ち消した。
「まあ、子供に小金貨を持たせるだなんて呆れちまうが、奥さんのサプライズに驚いた親父さんの顔が見られたから、こっちまで得した気分だったからね。文句は言えないよ」
そのときのバルトさんを思い浮かべたのか、店の女性の含み笑いに羨ましげな視線を向けてしまう。
「ああ、悪いね。用件も聞かずに話し込んじまって」
無駄口を咎められたとでも思ったのか、申し訳なさそうに謝罪し、改めて注文を聞いてくれた。
勢いでこの店に入ってしまったので、特に買いたい物はなかったのだけれど……
「私にも、さっきの人とお揃いの雨具をください」
思わずそう叫んでいた。
私の勢いにちょっと驚いたみたいだったけど、すぐに満面の笑顔が返される。
「ありがとうね。……今日は本当についてるよ。雨に感謝だね」
小さく呟かれた言葉に首を傾げつつ、店の女性が上機嫌で取り出してきた雨具の値段を聞いて、冷や汗を流す。
確かに1日に3着も最高級の雨具が売れるなんて、そうそうないと思う。
思わぬ出費に心の中で泣きながら、私はバルトさんとお揃いの雨具を手に入れた喜びをかみしめるのだった。
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